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危険運転致死傷(飲酒・薬物)

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

飲酒・薬物による危険運転致死傷

(1)刑罰

危険運転致死傷の刑罰は次のとおりです。

ケース

刑罰

人を負傷させたとき

15年以下の懲役

人を死亡させたとき

懲役1年~20年

 

 (2)要件

飲酒・薬物による危険運転致死傷の要件は次の3つです。

 

① アルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させたこと

② ①によって人を負傷・死亡させたこと

③ ①について認識していること

 

危険運転致死傷罪は、故意犯ですので、③「アルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を運転したこと」を認識している必要があります。

 

(3)「正常な運転が困難な状態」とは

「正常な運転が困難な状態」とは、「道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態」とされています(2011年10月31日最高裁決定)。

 

飲酒による危険運転致死傷では、飲酒量、飲酒検査の数値、事故の状況、事故前の酔いの状況、事故直前の運転状況、事故後の様子などから判断されます。

 

薬物による危険運転致死傷では、薬物の種類・量・使用日時・心身への影響・尿中の濃度、事故の状況、事故前の言動、事故直前の運転状況、事故後の様子などから判断されます。

 

【正常な運転が困難であったと判断されやすくなる事情】

 

飲酒による危険運転致死傷

薬物による危険運転致死傷

事故の状況

対向車線に飛び出す、ノーブレーキで衝突、歩道を暴走

事故前の状況

ふらつく、千鳥足で歩く、ろれつが回らない

幻聴・幻覚あり、動かなくなる、突然笑いだす、意味不明なことを言う

事故直前の運転状況

蛇行運転、急発進や急停止、ガードレールに衝突、信号無視

事故後の様子

酒臭い、つっかかってくる、ふらつく、目が充血している

意味不明な言動、放心状態、息があらい、目の焦点が定まっていない、よだれが出ている

 

このうち刑事裁判で最も重視されるのは事故の状況です。対向車線に飛び出して衝突事故を起こしたり、ブレーキをかけずに他の車両に衝突することは、通常ではありえない事故であり「正常な運転が困難な状態」で運転したと判断されやすくなります。

 

(4)「正常な運転が困難な状態」の認識

【飲酒による危険運転致死傷】

客観的に正常な運転が困難な状態で運転していたことが認められれば、特別の事情がない限り、「そのような状態で運転したことの認識」も認められます。

 

人は飲酒によって徐々に酔いが深まっていきます。てんかん発作のように、ちょっと前まで正常な精神状態だったにもかかわらず、突然意識を失うようなことはありません。

 

そのため、たとえ酔っぱらって事故の瞬間にはっきりした意識がなかったとしても、それより前の段階で、酔いが徐々に深まっていくなかで、正常な運転が困難な状態であることは認識していたと考えられるからです。

 

【薬物による危険運転致死傷】

薬物は、即効性があるものもあれば、時間がたってから効いてくるものもあります。徐々に効いてくる薬物であれば、飲酒のときと同じように、特別の事情がない限り、正常な運転が困難な状態で運転していたことの認識も認められます。

 

即効性のある薬物であっても、これまでに何度も同じ薬物を使ったことがあり、どのようなタイミングでどのような効果が発生するのか知っていた場合は、同様に考えることができます。

 

(5)薬物とは

危険運転致死傷罪の「薬物」とは、自動車の運転に必要な認知・判断・操作能力に影響を与えうる薬物のことです。覚せい剤、大麻、危険ドラッグなど違法薬物に限られません。

 

シンナーや睡眠導入剤、精神安定剤なども薬物に該当しますし、病気治療のために医師に処方してもらった薬であっても、運転能力に影響を与えるものであれば薬物に該当します。

 

飲酒・薬物による準危険運転致死傷

 (1)刑罰

準危険運転致死傷の刑罰は次のとおりです。

ケース

刑罰

人を負傷させたとき

12年以下の懲役

人を死亡させたとき

15年以下の懲役

 

(2)要件

飲酒・薬物による準危険運転致死傷の要件は次の4つです。

 

① アルコールや薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転したこと

② そのアルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったこと

③ それによって人を負傷・死亡させたこと

④ ①について認識していること

 

準危険運転致死傷は、②客観的に正常な運転が困難な状態で車を運転し、③人を死傷させたという点では危険運転致死傷と同じですが、②の認識までは必要とされていません。①の「正常な運転に支障が生じるおそれがある」との認識で足ります。

 

【危険運転致死傷と準危険運転致死傷との比較】

 

行為

必要とされる認識

薬物・アルコールによる危険運転致死傷

アルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、人を死傷させたこと

アルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させたこと

薬物・アルコールによる準危険運転致死傷

アルコールや薬物の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転したこと

 

(3)正常な運転に支障が生じるおそれがある状態とは

「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは「正常な運転が困難な状態」とまではいえないが、運転中に危険を察知する能力や危険を回避するための判断能力、自動車の操作能力が相当に低下している状態のことをいいます。

 

【飲酒による準危険運転致死傷】

酒気帯び運転になる程度のアルコール(呼気1リットルにつき0.15mg以上)が身体に含まれていれば、正常な運転に支障が生じるおそれがあるといえます。

 

酒気帯び運転は犯罪として処罰されますが(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)、これは、呼気1リットルにつき0.15mg以上のアルコールが身体に含まれていれば、交通事故を起こす危険があるからです。

飲酒運転

 

そのため、同程度のアルコールが身体に含まれていれば、正常な運転に支障が生じるおそれがあるといえます。

 

【薬物による準危険運転致死傷】

☑ 幻覚や幻聴が現れる

☑ 体が固まりキマった状態になる

☑ 目がまぶしくてよく見えない

 

このような状況であれば、既に「正常な運転が困難な状態」になっていると考えられます。

 

そこまで至らない状態、例えば、少し浮遊感が出てきた、気分が高揚してきたといった程度であれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にとどまっていると判断される可能性が高くなります。

 

(4)正常な運転に支障が生じるおそれがある状態の認識

準危険運転致死傷のケースでは、「正常な運転が困難な状態で自動車を運転したこと」まで認識している必要はありませんが、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転したこと」は認識している必要があります。

 

【飲酒による準危険運転致死傷】

客観的な要件に対応して、「酒気帯び運転にあたる程度の飲酒をして自動車を運転した」との認識があれば足りるとされています。ビールであれば中ジョッキ1杯程度を飲んだとの認識があれば、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを認識していたと判断される可能性が高いです。

 

【薬物による準危険運転致死傷】

効果がそれほど強くない薬物であれば、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを認識していたにとどまると判断される余地があります。効果が顕著にあらわれる薬物であっても、事件を起こしたときに初めて使用したものであり、その効果について全く知識がなかった場合も同様に解されます。

 

以下では危険運転致傷と準危険運転致死傷をまとめて「危険運転致死傷」と表記します。

 

飲酒・薬物による危険運転致死傷と逮捕            

飲酒・薬物による危険運転致死傷のケースでは、現行犯逮捕されることが非常に多いです。逮捕されれば、悪質性が低く被害者のケガが軽傷であれば、早期に釈放されることもありますが、多くのケースで勾留されます。

 

逮捕は最長3日間ですが、勾留されれば原則10日、最長20日にわたって拘束されます。

 

飲酒・薬物による危険運転致死傷では、事件を起こしたときの被疑者の状態や認識について立証するため、被害者や目撃者、同乗者、事件前に一緒にいた人など多くの関係者から事情を聴く必要があるため、「関係者の取調べ未了」として、勾留が延長されることが多いです。

 

飲酒・薬物による危険運転致死傷と起訴

危険運転致死傷は重大犯罪であり、社会の目も厳しいことから、検察官が犯罪を立証できると判断すれば、原則として起訴されます。起訴猶予で不起訴処分になることはほとんどありません。

 

 【道路交通法65条1項】

何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。

飲酒運転

 

【道路交通法66条】

何人も、前条第1項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。

 

危険運転致傷は通常裁判で審理されますが、危険運転致死は裁判員裁判で審理されることになります。

裁判員裁判の流れ

 

飲酒・薬物による危険運転致死傷と執行猶予

危険運転致死傷罪には罰金刑がありません。そのため略式裁判で終わることはありません。起訴されれば正式裁判で審理されることになります。

 

被害者が1名で軽傷であれば、複数の前科があるとか、執行猶予中でない限り、執行猶予をとれる可能性が十分にあります。歩道に乗り上げて歩行者を次々とはねたケースのように、重傷者(死亡者)が複数発生している場合は、初犯でも10年以上の実刑判決になることがあります。

執行猶予をとるための2つのステップ

 

飲酒・薬物による危険運転致死傷の弁護活動(釈放させる)

飲酒・薬物による危険運転致死傷のケースでは、勾留される可能性は高いものの、通常は単独犯であり、組織的な背景もないことから、証拠隠滅のおそれが高いとまではいえず、保釈が認められる余地は十分にあります。

 

保釈請求できるのは起訴後になりますが、弁護士が起訴前から準備を進め、起訴された直後に保釈を請求します。

保釈をとる

 

飲酒・薬物による危険運転致死傷の弁護活動(罪を認めるケース)

 (1)謝罪する

まずはケガをさせてしまった被害者に対して誠意をもって謝罪することが大前提です。被害者が入院している場合は、弁護士と一緒にお見舞いに行きます。被害者に謝罪文をお送りすることもあります。

示談と謝罪文

 

【執行猶予を獲得するために】

弁護士が謝罪文の写しを証拠として提出します。

 

(2)示談をする

任意保険に入っていれば保険会社を通じて被害者と示談交渉することになります。治療が長引き裁判の日までに示談が成立しない場合でも、裁判所に保険証券を提出すれば有利な証拠として考慮されます。任意保険に入っていなければ、弁護士が被害者と示談交渉します。

示談の相談は弁護士へ

 

【執行猶予を獲得するために】

弁護士が示談書や保険証券を裁判所に提出します。

 

(3)車に乗らない環境を構築する

事故車両を売却したり、職場の近くに引っ越したりして車を運転しなくても生活できるようにしてもらいます。

 

【執行猶予を獲得するために】

弁護士が事故車両の売買契約書を裁判所に提出します。

 

(4)再発防止に向けて活動する

お酒や薬物への依存傾向がみられる場合は、専門の医療機関に通ったり、自助グループに参加することで、依存を断ち切ってもらいます。

 

【執行猶予を獲得するために】

弁護士が医師の意見書や自助グループの参加証明書を裁判所に提出します。

 

(5)家族に監督してもらう

ご家族に本人を監督してもらいます。自家用車の鍵を管理したり、本人が医療機関に行く際に付き添ったり、お酒や薬物を買わないよう本人の金銭管理を行います。

 

【執行猶予を獲得するために】

情状証人として裁判所に出廷してもらい、どのように被告人を更生させるのかを話してもらいます。

情状証人

 

飲酒・薬物による危険運転致死傷の弁護活動(否認するケース)

(1)考えられる主張

飲酒・薬物による危険運転致死傷を否認する場合、次のような主張が考えられます。

 

①被害者が急に飛び出してきたので避けきれなかった

②睡眠導入剤を服用していたがその影響ではなく不注意で起きた事故である

③薬物を使用したことは事実だが、正常に運転できなくなるとは思っていなかった

 

【①のケース】

そもそも本人に過失がなければ、たとえ飲酒や薬物の影響がある状態で運転していても、危険運転致死傷は成立しません。

 

例えば、本人が優先道路で制限速度で自動車を運転していたときに、被害者が脇道から急に飛び出してきた場合、本人に過失がないと判断される余地があります。

 

このようなケースでも、飲酒や薬物の影響がある状態で運転していれば、道路交通法違反が成立する可能性は高いですが、危険運転致死傷に比べて刑が格段に軽いため、実刑判決になる可能性は低いといえます。

 

【②のケース】

たとえアルコールや薬物が体内に含まれている状態で自動車を運転し事故を起こしたとしても、事故が飲酒や薬物とは関係のない過失によって生じた場合は、危険運転致死傷の要件を満たさないことになり、同罪は成立せず、過失運転致死傷(最高刑…懲役7年)にとどまります。

 

実際の裁判例でも、事故後に被告人の体内から睡眠導入剤の成分が検出され、準危険運転致傷で起訴されたケースについて、事故は睡眠導入剤の影響によって生じたとはいえないとして、同罪の成立が否定されたケースがあります(大阪地裁平成29年3月13日)。

 

【③のケース】

以前に同じ薬物を使用したことがなく、どのような効果が生じるのかわからなかった場合は、「正常な運転が困難な状態」であることを認識していなかったと判断される余地があります。この場合は、準危険運転致死傷にとどまる可能性が高いです。

 

以前に同じ薬物を使用したことがあったとしても、事故を起こす直前まで交通ルールにしたがって正常に運転していた場合も、「正常な運転が困難な状態」とは認識していなかったと判断される余地があります。

 

(2)自白調書の作成を阻止する

本人が否認している場合、取調官は強引に自白調書を作成しようとします。いったん自白調書が作成されてしまうと、刑事裁判でその内容を争うことは難しくなります。

 

☑ 運転中、頭がクラクラしていた

☑ 自分でも「ヤバイ」と思いながら運転していた

☑ 事故を起こした後、何が起こったかわからなかった

 

意に反してこのような調書をとられてしまうと、取り返しのつかないことになりかねません。

 

逮捕直後から弁護士が本人とひんぱんに接見し、自白調書がとられないようサポートします。

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