逮捕状とは?逮捕状の請求を阻止する方法を弁護士が解説

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

 

 

逮捕状とは?

逮捕状とは逮捕を許可する令状です。捜査機関の請求を受けて裁判官が発付します。逮捕は、意思に反して人の身柄を拘束するという点で人権を大きく制約する処分です。

 

 

そのため、現行犯逮捕の場合を除き、令状がなければ逮捕されないことが憲法で保障されています。この令状のことを逮捕状といいます。

 

【憲法33条】

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

 

 

逮捕状は誰が出す?

逮捕状を出すのは裁判官です。逮捕の判断を捜査機関に委ねるのではなく、裁判官が逮捕状を出してよいかどうかを審査することにより、不当な逮捕を防ぐしくみになっています。

 

 

逮捕状の請求を受けた裁判官は、被疑者について逮捕の要件があるかどうかを検討します。逮捕の要件は次のとおりです。

 

 

①罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること

②逮捕の必要性があること

 

 

逮捕の必要性については、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあるかという観点から判断されます。

 

 

逮捕状は誰が請求する?

逮捕状を裁判所に請求できるのは検察官と司法警察員です。

 

 

ほとんどの刑事事件では警察官が逮捕状を請求しています。警察官のうち巡査部長以上の者が司法警察員になりますが、警察官の場合、司法警察員であっても、警部以上級の者でないと逮捕状を請求できません。

 

階級

司法警察員か否か

逮捕状の請求権

警視総監

司法警察員

警視監

司法警察員

警視長

司法警察員

警視正

司法警察員

警視

司法警察員

警部

司法警察員

巡査部長

司法警察員

×

巡査

司法巡査

×

 

逮捕状はどうやって請求する?

逮捕状の請求は、逮捕状請求書という書面を裁判所に提出することによってします。

 

 

逮捕状の請求にあたっては、逮捕状請求書だけではなく、逮捕の理由や必要があることを裏づける資料を提出しなければなりません。

 

【刑事訴訟規則143条】

逮捕状を請求するには、逮捕の理由(逮捕の必要を除く逮捕状発付の要件をいう。以下同じ。)及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を提供しなければならない。

 

 

【資料の例】

・被害届

・被害者の供述調書

・目撃者の供述調書

・防犯カメラの映像をまとめた捜査報告書

・被疑者の住民票・戸籍謄本

 

 

これらの資料だけで、電話帳より分厚くなることもあります。

 

 

通常は、捜査を担当した警察官が、逮捕状請求書と裏づけ証拠を裁判所の令状部に提出して逮捕状を請求します。裁判官に対して、逮捕の理由や必要性があることを口頭で説明することもあります。

 

 

裁判所には、逮捕状請求書を出しにきた警察官のためのスペースがあり、そこで多くの警察官が待機しています。

 

 

逮捕状には何が書かれている?

逮捕状には次の事項が記載されています。

 

①被疑者を特定する事項

被疑者の氏名、年齢、職業、住所

 

②犯罪を特定する事項

罪名、被疑事実の要旨

 

③その他

逮捕状発付の年月日、有効期間、有効期間経過後は逮捕することができず逮捕状を返還しなければならないこと、連行する警察署

 

【刑事訴訟法200条1項】

逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

 

 

逮捕状には裁判官が記名・押印しないといけません。たまに、裁判官が押印を忘れたまま逮捕状が出され、警察もそのことに気づかず、被疑者を逮捕してしまうことがあります。

 

押印がない逮捕状は無効ですので、押印がないことが発覚した時点で被疑者をすぐに釈放しなければいけません。実務でもそのように運用されています。緊急逮捕の要件を満たす場合は、釈放後に改めて緊急逮捕することになります。

緊急逮捕とは?要件・事例・逮捕後の流れを弁護士が解説

 

 

逮捕状が出るとどうなる?

逮捕状が出たらいつ逮捕されてもおかしくありません。逮捕状を執行するために、警察官が被疑者のもとにやってきます。

 

 

逮捕状を執行するためには、被疑者に逮捕状を示さないといけません。容疑の概要を被疑者がわかる程度に呈示すれば足り、逮捕状を一言一句読ませる必要まではありません。

 

 

呈示のタイミングは逮捕前が原則ですが、被疑者が逃げたり抵抗するときは、逮捕と同時でもよいとされています。

 

 

複数の警察官が平日の朝に自宅に来て玄関先で逮捕状を執行することが多いです。自宅の前にとめたワンボックスカーに被疑者を乗せて、車内で逮捕状を執行することもあります。

 

 

なお、逮捕状が出たとしても、必ず逮捕されるわけではありません。

 

 

「被害者と示談が成立して被害届が取り下げられた」-このような事情がある場合は、逮捕の必要がなくなったとして、逮捕状を執行せず在宅捜査に切り替えることもあります。

 

 

この場合、逮捕状は有効期間内であっても、直ちに裁判官に返還しなければいけません。

 

 

逮捕状の緊急執行とは?

ひとつの逮捕状で全国的に指名手配しているケース等で、被疑者をみつけた捜査員が逮捕状をもっていない場合は、次の2つの事実を告げれば、逮捕状を示さないでも逮捕することができます。

 

【告げるべき事実】

①逮捕状が出ていること

②被疑事実の要旨

 

これを逮捕状の緊急執行といいます。この場合でも逮捕状はできる限り速やかに呈示しないといけません。

 

逮捕状の有効期間は?

逮捕状には有効期間があります。有効期間を過ぎると逮捕状は失効しますので、その逮捕状によって被疑者を逮捕することはできません。有効期間が過ぎた逮捕状は、裁判所に返さないといけません。

 

 

逮捕状の有効期間は原則7日です。逮捕状が出された初日は有効期間にカウントされません。

 

 

被疑者が逃亡していて有効期間内に逮捕状を執行できない場合は、改めて逮捕状を請求することになります。2回目の逮捕状では有効期間が1か月、3回目以降は有効期間が3か月に延長されることが多いです。

 

 

国外逃亡している場合は、6ヶ月の有効期間が認められることもあります。

 

 

逮捕状請求の取下げはできる?

逮捕状請求は取り下げることができます。

 

 

裁判官は、確認したいことがあれば、逮捕状の請求者に裁判所へ来てもらい、説明や資料の提出を求めることができます。

 

 

裁判官が、逮捕状の請求者から話を聞いても、逮捕の理由や必要性がないと判断した場合は、請求者に対して、「ちょっと難しいですね。」等と心証を開示することがあります。

 

 

逮捕状の請求者も裁判官と話をするなかで、「無理かもしれない」と判断することがあります。そのようなケースでは、自発的に逮捕状の請求を取り下げることがあります。

 

 

逮捕状請求の取下げ率や却下率は?

2017年に逮捕状が請求された数は全部で8万6343件です。このうち逮捕状請求が取り下げられたケースは1212件、却下されたケースは31件にとどまります。

 

逮捕状請求

件数

割合

許可

8万5100件

98.56%

取り下げ

1212件

1.4%

却下

31件

0.04%

 

8万6343件

 

 

却下率はわずか0.04%(1万件に4件)です。

 

逮捕状の請求は秘密裡に行われるので、被疑者や弁護士が逮捕状の発付を阻止する手立てはありません。結果として、ほとんどの逮捕状請求が認められているのが現状です。

 

逮捕状が出ているか知ることができる?

逮捕状が出ていることを事前に知ることはできません。警察から事前に「あなたに逮捕状が出ています」と連絡がくることはありませんし、自分から警察に問いあわせても教えてくれません。

 

 

そもそも警察が逮捕状を請求するのは、「この被疑者は逃げたり証拠を隠滅する可能性が高い」と判断したからです。

 

 

逮捕状を出ていることを本人に知らせると、逃げられたり証拠を隠されてしまい、逮捕状をとった意味がなくなってしまいます。もっとも、つぎのような事情があれば、逮捕状が出ている可能性が十分にあります。

 

 

①警察官が自宅の前に張り付いている

②警察官に自宅待機を指示された

③警察官からすぐに警察署に来るように言われ日程変更に応じてくれない

 

 

詳しくは以下のページをご覧ください。

弁護士が教える逮捕の可能性を知る3つの方法

 

 

逮捕状請求を阻止するための2つの方法

警察官が逮捕状を請求すれば、弁護士であっても逮捕状の発付を阻止することはできません。もっとも、逮捕状請求を阻止できることはあります。逮捕状請求を阻止し得る方法は以下の2つです。

 

 

1.被害者との間で示談をする

2.警察に自首する

 

 

それぞれの方法についてみていきましょう。

 

 

1.示談をして逮捕状請求を阻止する

強制わいせつや傷害など被害者がいる刑事事件については、被害者と示談をして被害届の提出を阻止できれば、警察が逮捕状を請求することはありません。

 

 

被害届が出た後であっても示談をして被害届を取り下げてもらえれば、逮捕状が請求される可能性は非常に低くなります。

 

 

被害者と電話やSNSで連絡をとることができる状態であれば、速やかに示談交渉に入るべきです。

 

 

もっとも、弁護士を介さずに自分で連絡すると、被害者を怖がらせてしまい、かえって逮捕状請求につながりかねません。示談交渉は弁護士に依頼して進めるのが安心です。

示談の相談は弁護士へ

 

 

2.自首して逮捕状請求を阻止する

警察に自首することによって、逮捕状の請求を阻止できる可能性が高まります。逮捕の必要性を判断する際には、逃亡のおそれと証拠隠滅のおそれがポイントになります。

 

 

自首という形で自ら出頭すれば、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれは低いといえます。そのため、逮捕の必要性が低下し、在宅事件として捜査が進められる可能性が高くなります。

 

 

犯人として特定されれば警察に出頭しても自首は成立しません。そのため、逮捕状請求を阻止するためには早めに動く必要があります。

自首に弁護士が同行するメリットや同行の弁護士費用について

 

 

【関連ページ】

逮捕後どの弁護士を呼ぶ?連絡方法・弁護士費用・選び方も解説

土日に逮捕 弁護士に無料相談

起訴前の流れ(逮捕・勾留あり)

勾留状