痴漢事件の示談のメリットは?示談金の相場や交渉の流れを解説

痴漢事件の示談のメリットは?流れや示談金の相場も解説

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

痴漢事件の示談とは?

痴漢事件の示談

 

示談とは民事裁判によらずに当事者間で話し合いで紛争を解決することです。痴漢事件の示談は、加害者が被害者に対して慰謝料を支払い、それと引き換えに、被害者に示談書に署名・捺印してもらうことによって成立します。

 

 

示談は民事上の和解であり刑事手続ではありませんが、示談をしたことは刑事手続にも影響を与えます。

 

痴漢は何罪になる?

 

痴漢をした場合は、以下の3つの犯罪のいずれかが成立します。どの犯罪が成立するかによって示談のメリット・デメリットの内容や示談金の相場が変わってきます。

 

 

犯罪

罰則

都道府県の迷惑防止条例違反

【東京都の場合】

非常習:50万円以下の罰金または6か月以下の懲役

常習:100万円以下の罰金または1年以下の懲役

不同意わいせつ罪

6か月~10年の拘禁刑

不同意性交等罪

5年~20年の拘禁刑

 

 

服の上からでん部や太ももを触った場合は迷惑防止条例違反になります。下着の中に手を入れて陰部を直接触った場合は不同意わいせつ罪になります。陰部を直接触るだけではなく、陰部の中に手指を入れた場合は不同意性交等罪になります。

 

 

痴漢事件における示談のメリットは?

痴漢事件における示談のメリット

 

痴漢事件で被害者との間で示談が成立することにより、以下の3つの可能性が高くなります。

 

 

1.前科を回避できる

痴漢事件で被害者との間で示談がまとまった場合、初犯の方であれば、不起訴になる可能性が高くなります。不起訴とは被疑者を刑事裁判にかけずに刑事手続を終わらせる処分です。刑事裁判にならないため、処罰されず前科がつくこともありません。

 

 

起訴するか不起訴にするかを決めるのは検察官です。検察官は、被疑者の処分を決めるにあたり、被害者の処罰感情を最も重視します。

 

 

示談書の中に「許す」という文言が入っていれば、被害者は厳しい処罰感情をもっていないということになります。そのため、不起訴になる可能性が高くなるのです。

 

 

2.早期に釈放される

痴漢で逮捕・勾留されると最長23日にわたり身柄が拘束されます。もっとも、被害者との間で示談が成立すれば、たとえ勾留されていたとしても、早期に釈放される可能性が高くなります。

 

 

痴漢事件で示談が成立すれば不起訴になる可能性が高くなる以上、勾留を続ける理由がなくなるためです。釈放のタイミングは、弁護士が検察官に示談書を提出した当日か遅くとも翌営業日になることが多いです。

 

 

3.判決が軽くなる

起訴されると、その後に示談が成立してもさかのぼって不起訴になることはありません。いったん起訴されたら、示談が成立しても判決まで進んでいくのです。

 

 

もっとも、示談が成立すると判決も軽くなります。裁判官も被告人の刑罰を決めるにあたって被害者の処罰感情を重視しているからです。

 

 

悪質な痴漢をして不同意性交等罪や不同意わいせつ罪で起訴されると、初犯であっても実刑になることがあります。迷惑防止条例違反で起訴された場合でも、前科があれば実刑になることがあります。これらのケースでも被害者との間で示談が成立すれば、執行猶予の可能性が高まります。

 

 

4.民事訴訟を回避できる

痴漢は民法の不法行為(民法709条)に該当するため、被害者は加害者に対して損害賠償請求権を有することになります。

 

 

示談で解決する場合は紛争の蒸し返しを防ぐため、示談で約束したこと以外に義務を負わない旨の条項(精算条項)を示談書に付加します。

 

 

そのため、示談金を払えば、示談書で取り決めた約束に反しない限り、民事で損害賠償請求されるリスクもなくなります。

 

 

痴漢事件で示談しないとどうなる?

痴漢事件で示談しないとどうなる?

 

痴漢事件で示談しないと以下の可能性が高まります。

 

 

1.前科がつく

被害者と示談をしなければ、初犯の方でも起訴される可能性が高くなります。刑事裁判で無罪になるケースは1000件に1件程度ですので、起訴されれば有罪となり前科がつく可能性が非常に高くなります。

 

 

迷惑防止条例違反であれば、略式起訴され罰金刑にとどまることが多いですが、罰金であっても前科になります。

 

 

不同意わいせつ罪や不同意性交等罪には罰金刑がないため、起訴されれば公開法廷で審理され、検察官から懲役刑を請求されます。

 

 

2.早期釈放が難しくなる

不同意わいせつ罪や不同意性交等罪に該当する悪質な痴漢をした場合、勾留される可能性が高くなります。勾留されても示談が成立すれば早期に釈放されることが多いですが、示談が成立しなければ、勾留されたまま起訴される可能性が高くなります。

 

 

起訴前の身柄拘束は最長23日ですが、勾留されたまま起訴されれば、保釈が許可されない限り判決の日まで勾留が続きます(起訴後勾留)。

 

 

3.実刑になることも

悪質な痴漢をして不同意わいせつ罪で起訴された場合、示談をしなければ実刑になることがあります。不同意性交等罪で起訴された場合は、示談をしなければ実刑になる可能性が高いです。

 

 

迷惑防止条例違反で起訴された場合、初犯であれば略式起訴され罰金どまりですが、前科があれば、公判請求され実刑になることもあります。執行猶予中に起訴された場合、ダブル執行猶予をとるためには示談が最低条件になるでしょう。

 

 

4.民事訴訟になることも

痴漢事件で示談が成立しない場合は、被害者から民事訴訟を起こされることがあります。

 

 

迷惑防止条例違反に該当する痴漢をした場合に民事訴訟になるケースは少ないですが、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪に該当する痴漢をした場合は、被害者が弁護士に依頼して、民事訴訟を提起してくることも少なくありません。

 

 

痴漢事件の被害者が示談をするメリットは?

痴漢事件の被害者が示談をするメリット

 

痴漢事件で示談をすることは、加害者だけではなく、被害者にとってもメリットがあります。被害者は、民事訴訟を提起して加害者に対して損害賠償を請求することができますが、民事訴訟は判決が出るまで6か月以上かかることが多いです。

 

 

また、被害者が自力で民事訴訟を提起することは難しいため、弁護士に依頼する必要がありますが、弁護士費用については判決で認容された金額の1割しか賠償が認められません。そのため、弁護士費用を差し引くと赤字になるケースもあります。

 

 

刑事手続の中で示談をする場合は何か月もかかることはまずありませんし、「駅の利用を制限してもらいたい」といった要望についても、加害者側の弁護士が柔軟に対応してくれることが多いです。そのため、示談で解決することは痴漢事件の被害者側にとってもメリットがあるといえるでしょう。

 

 

痴漢事件の示談金の相場は?

 

痴漢の示談金の相場は、迷惑防止条例違反に該当する痴漢で30万円から50万円程度です。

 

 

不同意わいせつ罪に該当する痴漢の場合は50万円から100万円程度です。不同意性交等罪に該当する痴漢の場合はさらに高額になることが多いです。

 

 

痴漢をした後に被害者と口論になったり、「訴えるぞ!」等とすごんだ場合は、被害感情が厳しく示談金が高めになる傾向があります。

 

痴漢事件で示談金を吊り上げられたら?

痴漢事件で示談金を吊り上げられたら?

 

痴漢のような刑事事件の示談交渉では、被害者の方が有利な立場になります。被害者は示談しなくても民事で損害賠償請求できますが、加害者は、「起訴されて前科がつく」、「釈放が遅れる」といった重大なデメリットがあるためです。

 

 

示談交渉では加害者の方が立場的に弱くなるため、被害者から示談金を吊り上げられることがあります。示談金を吊り上げられた場合、加害者が「この金額以上は提示できない。それ以上であれば示談不成立でもよい。」ときっぱり覚悟を決めれば、弁護士もその方向で交渉します。

 

 

刑事事件の加害者ということでどうしても立場的に弱いところがあるため、加害者の覚悟が決まっていないと、被害者から示談金を吊り上げられて右往左往してしまい、結果的に高額になってしまうことがあります。

 

 

示談金の高額化を防ぐためには覚悟を決めていただくことが重要です。逆説的ですが覚悟を決めて交渉すると示談金を吊り上げられても、最終的には妥当な金額でまとまることが多いです。

 

痴漢事件で弁護士なしで示談できる?

痴漢事件で弁護士なしで示談できる?

 

1.加害者は被害者の個人情報を知ることができない

痴漢事件で被害者と示談交渉を始めるためには、まず被害者から電話番号を教えてもらう必要があります。もっとも、痴漢の被害者は、自分の個人情報を加害者本人に知られたくないと思っています。

 

 

警察や検察は被害者の気持ちを尊重しますので、加害者本人に被害者の個人情報を教えることはありません。

 

 

2.弁護士が窓口になれば被害者も安心して交渉できる

痴漢事件の加害者が弁護士に依頼すれば、被害者の個人情報を弁護士限りで管理し加害者に言わないことも可能です。

 

 

そのため、弁護士が窓口になれば、被害者としても安心して個人情報を弁護士に伝えて、示談交渉を始めることができます。

 

痴漢事件の示談の流れは?

痴漢事件の示談交渉の流れは次の通りです。

 

 

①痴漢事件が発生

②加害者または家族が弁護士に依頼する。

③弁護士が警察の担当者に対して「被害者と示談をさせていただきたいので、電話番号を教えてもらえませんでしょうか?」と依頼する。

*送検されている場合は検察官に依頼します。

④担当者が被害者に電話して、「弁護士が示談の話をしたいので電話番号を教えてくださいと言っていますがどうしますか?」と確認する。

⑤被害者が電話番号を教えてもいいと言えば、担当者から電話番号を教えてもらえる。

⑥弁護士が被害者に電話して示談交渉に入る。

⑦示談の話がまとまる。

⑧加害者から弁護士の預り金口座に示談金を振り込んでもらう。

⑨示談書への署名・捺印と引き換えに弁護士が被害者に示談金をお渡しする。

 

 

①から⑤までの所要時間は早ければ1日です。ただ、捜査担当者が被害者に電話してもなかなかつながらないこともあります。つながっても「家族と相談して考えたい。」等と言う方もいます。そのため1週間程度かかることもあります。

 

 

⑥の示談交渉の期間は、事件によってケースバイケースです。早いときは数日で示談の話がまとまることもありますが、1か月以上かかることもあります。

 

 

加害者としては1日も早く示談をまとめたいところですが、せかすと逆効果になりかねませんので慎重に対応します。

 

痴漢事件の示談書は?

痴漢事件の典型的な示談書は次の通りです。

 

 

示 談 書

 

 〇〇(以下「甲」という)と 〇〇(以下「乙」という)との間において、令和〇年〇月〇日、〇〇駅から〇〇駅の間を進行中の電車内において発生した、甲を被害者、乙を加害者とする痴漢事件(以下「本件」という)につき、以下のように示談が成立したので、示談成立の証として本書面2通を作成し、甲及び乙代理人各1通ずつ保管する。

1 乙は、甲に対し、本件について深く謝罪し、甲はこれを受け入れる。

2 乙は、甲に対し、本件の示談金として、金〇万円の支払義務があることを認める。 

3 乙は、甲に対し、前項の金〇万円を本日支払い、甲はこれを受領した。

4 乙は、甲に対し、今後、故意に甲に近づかないことを誓約する。

5 甲と乙は、本件及び本示談書の内容につき、捜査機関の担当者に開示するなど合理的な理由のある場合を除き、第三者(甲乙の家族を除く)へ開示しないことを誓約する。

6 甲は、本件について、乙を許すこととし、乙の刑事処罰を求めない。

7 甲と乙は、本示談書記載のほか、甲乙間に何らの債権債務が存しないことを相互に確認する。

以 上

 令和  年  月  日

(甲)

 

 

(乙代理人)

 

 

 

 

痴漢事件の示談のポイントは?

痴漢事件の示談のポイント

 

1.示談書に宥恕文言を入れる

宥恕文言(ゆうじょもんごん)とは、「許す」とか「刑事処罰を求めない」といった被害感情が和らいでいることを示す文言のことです。

 

 

示談をしても示談書に宥恕文言がなければ、処罰される可能性が高くなります。確実に不起訴をとるためには示談書に宥恕文言を入れる必要があります。上で紹介した示談書では、第6項が宥恕条項になります。

 

 

2.示談書に精算条項を入れる

精算条項とは「示談書に記載されている義務以外の義務を負わない」ことを保証する条項です。

 

 

精算条項がなければ、終局的な解決が保証されたわけではないため、示談金を払っても、その後に被害者から追加で賠償請求されるリスクが残ります。そのため、精算条項もぜひとも示談書に入れておきたいところです。

 

痴漢事件で示談を拒否された場合の対処法は?

痴漢事件で示談を拒否された場合の対処法

 

痴漢事件で示談が成立するかどうかは、被害者から電話番号を教えてもらえるか否かにかかっています。

 

 

電話番号を教えてくれるということは、被害者としても「話を聞いてもよい」というスタンスのため、紆余曲折があったとしても最終的には示談がまとまることが多いです。

 

 

被害者の電話番号は警察官や検察官を通じて確認しますが、「示談をするつもりはない」として、被害者に電話番号を教えるのを拒否されることがあります。

 

 

もし示談を拒否され電話番号を教えてもらえなかった場合は、どうすればよいのでしょうか?

 

 

痴漢の被害者が最も恐れているのは、氏名や住所などの個人情報が加害者側に知られてしまうことです。そのような不安を取り除くために、弁護士が捜査員を通じて被害者の個人情報を加害者に開示しないことを約束します。

 

 

被害者の不安な気持ちを軽くすることにより、電話番号を教えてもらうことができ、示談が成立することも多々あります。

 

痴漢事件の示談に強い弁護士とは?

痴漢事件の示談に強い弁護士とは?

 

痴漢事件の示談の成否を左右する最も大きな要素は示談金額です。弁護士費用が高い事務所に依頼すると予算の大半が弁護士費用にとられてしまい、肝心の示談金が不足するリスクがあります。

 

 

「弁護士費用が高過ぎて示談金を用意できず示談できなかった」-このような最悪の展開を避けるためには、できるだけ弁護士費用が安い事務所に依頼した方がよいです。

 

 

弁護士費用が安いと十分な示談金を用意することができ、示談の成功率がアップします。その意味で弁護士費用が安い弁護士の方が示談に強いといえるでしょう。

 

痴漢事件の示談のQ&A

Q:示談金はどのようにして被害者に支払うのですか?

 

 

A:示談金の支払方法は弁護士が現金を持参して被害者に直接お渡しする方法と、被害者から銀行口座を教えてもらい銀行振込でお支払する方法の2つがあります。

 

 

いずれの方法による場合でも事前に依頼者から示談金を弁護士の預り金口座に振り込んでもらいます。銀行振込でお支払する場合、口座情報も個人情報になりますので、加害者ではなく弁護士が示談金を振り込むのが通常です。

 

 

ウェルネスの弁護士はこれまで約200件の痴漢事件の示談をまとめてきました。痴漢事件で弁護士をお探しの方はお気軽にウェルネス03-5577-3613までお電話ください。

 

 

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