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痴漢の初犯で実刑?痴漢が不同意性交等罪になるケースを解説
2024年5月30日、痴漢事件で起訴されていた男性に懲役4年の実刑判決が下され、報道されました。痴漢の手口は、朝の満員電車で女子高生の下着の中に手を入れた上、陰部に手指を挿入するという悪質なものです。
この事件のポイントは次の3つです。
①起訴されたのが前科・前歴のない初犯の男性だったこと
②示談(刑事和解)が成立していたこと
③懲役4年の実刑判決だったこと
【刑事和解とは】 刑事和解とは示談の内容を刑事裁判の公判調書に記載してもらうことです。これにより、もし示談金が支払われない場合、加害者の財産に対して強制執行することが可能になります。当事者間で示談が成立していることが前提となる制度です。 |
これまでは、初犯の痴漢事件で起訴されても実刑判決になることはまずありませんでした。本件では初犯である上に示談も成立しているので、従来の量刑相場からすると格段に重い判決といえるでしょう。
そのような事情もあり、今回報道された事件は刑事事件を手がけている弁護士に非常に注目されています。このページでは、どうしてこのような重い判決が出たのかを刑事事件の経験豊富な弁護士 楠 洋一郎が解説しました。
痴漢は何罪になる?
痴漢に適用される犯罪は次の3種類です。
①都道府県の迷惑防止条例違反
②刑法の不同意わいせつ罪
③刑法の不同性交等罪
着衣の上からでん部を触った場合は迷惑防止条例違反になります。下着の中に手を入れて陰部やでん部を直接触った場合は不同意わいせつ罪になります。
下着の中に手を入れるだけではなく、陰部の中に手指を入れると不同意性交等罪になります。
【刑法】
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2023年7月に改正刑法が施行されましたが、それ以前は、着衣の上からでん部を触った場合は迷惑防止条例違反、下着の中に手を入れた場合は強制わいせつ罪として扱われていました。
つまり、痴漢の犯罪類型は、軽い迷惑防止条例違反と重い強制わいせつ罪の2種類でした。
これに対して、改正刑法の施行後は、手指を陰部に挿入した場合に不同意性交等罪が成立することとなり、これまでの2つの類型に最も重い類型が加わり全部で3種類になりました。
痴漢で不同意性交等罪になると実刑?執行猶予は?
2023年7月以降は、陰部に手指を挿入して痴漢をした場合は不同意性交等罪になります。不同意性交等罪の刑罰は懲役5年~懲役20年と迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪に比べて格段に重くなっています。
【痴漢の罰則】
迷惑防止条例違反(東京都) | 6月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
不同意わいせつ罪 | 懲役6月~10年 |
不同意性交等罪 | 懲役5年~20年 |
法律上、初犯の方に執行猶予を付けるためには処断刑が3年以下の懲役・禁錮刑である必要があります。
不同意性交等罪の刑罰の下限は懲役5年です。そのため不同意性交等罪で有罪になると、酌量減軽されない限り、処断刑が3年以下にはならず執行猶予をつけられないことになります。
「酌量減軽」とは、犯罪の情状に酌量すべきものがあるときに法定刑の上限と下限を半分にすることです。
【刑法】
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不同意性交等のケースで酌量減軽されれば、懲役2年6月~10年の範囲で刑が決まるので、執行猶予が見えてくることになります。
痴漢したことを認めている場合、酌量減軽すべき情状として第一に挙げられるのは示談ということになります。そのため、示談を成立させることが執行猶予をとるための一番の近道になります。
⇒不同意性交等で執行猶予をとる方法は?示談で酌量減軽をめざす!
痴漢(不同意性交等罪)で実刑になった理由は?
今回報道されたケースでは、初犯で被害者との間で示談が成立していたにもかかわらず、懲役4年の実刑になりました。どうしてこのような重い判決になったのでしょうか?
懲役4年は不同意性交等の刑罰の下限よりも1年短いため、酌量減軽はされているということになります。本件では示談(刑事和解)が成立していると報道されているため、示談したことにより酌量減軽されたと考えられます。
酌量減軽されているが執行猶予にまで至らなかった理由として考えられるのは、次の3点です。
*下記の点については報道されていませんので、弁護士楠洋一郎の推測です。
1.宥恕文言がなかった
宥恕文言(ゆうじょもんごん)とは「加害者を許す」とか「処罰を求めない」といった被害者の処罰感情がないことを示す文言のことです。
示談が成立しても示談書に宥恕文言がなければ、裁判所にあまり評価してもらえません。報道では示談の内容までは不明ですが、刑事和解のベースになった示談書に宥恕文言がなかったため実刑判決になった可能性が十分にあります。
2.示談金が低すぎた
宥恕ありの示談が成立したとしても、相場より示談金が低すぎると裁判所の評価も低くなってしまいます。迷惑防止条例違反の示談金の相場は30~50万円です。不同意性交等罪が適用される痴漢は、最も悪質な類型ですので、50万円以上は払っておきたいところです。
弁護士費用が高い事務所に依頼すると、弁護士費用に圧迫されて肝心の示談金を用意できなくなることがありますのでご注意ください。
3.示談以外の情状が不足していた
報道では、法廷でどのような弁護活動が展開されたかについては言及されていませんでしたが、示談が成立したということ以外の情状が十分に主張されていなかった可能性があります。
痴漢は依存性のある犯罪ですので、「再犯防止のためにどのような取り組みをしているのか」ということも判決に影響を与えます。具体的には、性依存症のクリニックに通院したり自助グループに参加することが考えられます。
このような取り組みを継続的に行ってもらい、被告人質問で通院状況について話してもらったり、診断書や通院証明書を証拠として提出することにより、再犯防止に尽力していることを裁判所に理解してもらいます。
報道されている事件では、このような活動が十分になされていなかったのかもしれません。
痴漢(不同意性交等罪)で実刑を回避する方法は?
痴漢をして不同意性交等罪で逮捕された場合、実刑を回避するためには不起訴を目指すべきです。不起訴とは刑事裁判にかけないことです。不起訴になればそもそも裁判にならないので処罰されることはなく、前科もつきません。
不起訴を獲得するためには、被害者との間で宥恕文言のある示談書を取り交わし、示談金として相応の金額を支払うことが必要です。
起訴前の逮捕・勾留中は再犯防止活動をすることはできませんが、東京等の都市部では、留置場まで出張してくれる専門家もいますので、専門家の出張カウンセリングを受けることが考えられます。ウェルネスでそのような専門家を紹介することも可能です。
示談で不起訴を目指すのは時間との闘いです。痴漢で勾留された場合、検察官は最長20日の勾留期間内に被疑者を起訴するか釈放するかを決めなければなりません。そのため、不起訴を目指すためには20日以内に示談書を検察官に提出する必要があります。
逮捕されたら可能な限り早期に弁護士を呼びましょう。