傷害罪の不起訴率は?不起訴となる事例や理由について

傷害罪の被疑者になった場合でも必ず前科がつくわけではありません。不起訴になれば前科を回避することができます。

 

 

このページでは傷害罪の不起訴率や不起訴になる3つの事例、不起訴となるための方法について解説しました。ぜひ参考にしてみてください!

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

 

傷害罪の不起訴率は?

1.不起訴とは

不起訴とは被疑者を刑事裁判にかけずに手続を終了させる処分です。不起訴になれば刑事裁判にならないため処罰されることはありません。そのため前科がつくこともありません。

 

 

これに対して、起訴とは被疑者を刑事裁判にかけることです。刑事裁判になると無罪にならない限り処罰され、前科がつくことになります。起訴するか不起訴にするかを決めるのは検察官です。

 

 

【刑事訴訟法】

第二百四十七条 公訴は、検察官がこれを行う。

不起訴処分とは?無罪との違いは?弁護士がわかりやすく解説

 

 

2.傷害罪の不起訴率

傷害罪の不起訴率は69%です。起訴された傷害事件のうち、略式起訴された事件が65%、正式起訴された事件が35%です。

 

 

略式起訴されれば簡易な略式裁判で審理され罰金刑を科されます。これに対して、正式起訴されたら公開法廷で審理され検察官から拘禁刑を請求されます。

 

 

傷害罪で不起訴になる事例は?

傷害罪の被疑者になってしまった場合、不起訴を目指して活動することになります。傷害罪で不起訴になる主な事例は次の3つです。

 

①起訴猶予で不起訴になる事例

②罪とならずで不起訴になる事例

③嫌疑不十分で不起訴になる事例

 

 

このうち、①と②の事例は検察官が無罪と判断したケース、③の事例は有罪と判断したケースです。それでは事例ごとにみていきましょう。

 

 

①傷害罪で起訴猶予で不起訴になる事例

検察官は、起訴して有罪に持ち込めるだけの証拠がある場合でも、必ず起訴するわけではありません。被疑者にとって有利な事情を考慮した上で、検察官の裁量で不起訴にすることもできます。このタイプの不起訴を「起訴猶予」(きそゆうよ)といいます。

 

 

起訴猶予は刑事訴訟法248条に規定されています。

 

【刑事訴訟法】

第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

 

傷害事件で被害者との間で示談がまとまった場合は、起訴猶予で不起訴になる可能性が高くなります。

 

 

刑訴法248条では、検察官は犯人の性格や年齢など様々な要素を考慮した上で起訴しないことができるとされていますが、実際は示談が成立しなければ、他に有利な事情があっても、起訴猶予で不起訴になる可能性は低いです。

 

 

②傷害罪で「罪とならず」で不起訴になる事例

相手から先に殴られたので自分の身を守るためにとっさに手を出したら傷害罪の被疑者になってしまった-このようなケースでは正当防衛の主張が認められる可能性があります。

正当防衛はどこまで認められる?成立要件や過剰防衛について

 

 

傷害罪が成立するためには、傷害罪の構成要件を満たした上で違法性があることが必要です。

 

 

【傷害罪の構成要件】

 

客観的な構成要件

主観的な構成要件

暴行による傷害罪

暴行してケガをさせること

暴行の認識があること

 

 

構成要件に該当しても正当防衛が認められる場合は違法性がないことになり、傷害罪は成立しません。検察官に「正当防衛が成立する」と判断された場合は、「罪とならず」(=犯罪が成立しない)で不起訴になります。

 

 

③傷害罪で嫌疑不十分で不起訴になる事例

☑ 暴行していない

☑ ケガをするほど叩いていない

☑ 共犯として逮捕されたが共謀していない

 

 

このような理由で傷害の容疑を否認した場合は、起訴されるか不起訴になるかは証拠次第です。起訴して有罪にもちこめるだけの証拠があれば、検察官は被疑者を起訴します。

 

 

検察官が起訴しても有罪に持ち込めるだけの証拠がないと判断すれば、不起訴にせざるを得ません。この場合の不起訴が嫌疑不十分による不起訴です。

 

 

傷害罪で不起訴を獲得するために弁護士ができること

1.【傷害罪】起訴猶予での不起訴を獲得する方法

弁護士が傷害事件の被害者と交渉して示談をまとめることにより、起訴猶予で不起訴になる可能性が高くなります。傷害事件の被害者と示談交渉をするためには、被害者の氏名や連絡先を把握する必要があります。

 

 

傷害事件の被害者は加害者に対して恐怖感をもっており、氏名や電話番号などの個人情報を知られたくないと思っています。捜査員もそのような被害者の心情を尊重しますので、加害者には被害者の個人情報を教えてくれません。

 

 

弁護士であれば被害者の方に安心してもらいやすく、捜査員を通じてスムーズに個人情報を教えてもらえることが多いです。

 

 

2.【傷害罪】「罪とならず」で不起訴を獲得する方法

先に相手から暴行を受け反撃したところ傷害事件になった場合は、弁護士が正当防衛の主張をして「罪とならず」での不起訴を求めます。

 

 

もっとも、正当防衛の要件は法律で厳格に定められており、全ての要件を満たして正当防衛が認められる事例は決して多くはありません。そのため、まずは正当防衛が成立する余地があるかについて、傷害事件に強い弁護士にご相談ください。

 

 

殴りかってきたため反撃したところ、相手が転倒したので馬乗りになって殴り続けて傷害を負わせた-このように防衛するためであってもやりすぎた場合は、正当防衛は成立せず過剰防衛となります(刑法36条2項)。

 

 

【刑法】

第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

 

 

傷害事件で過剰防衛が成立する場合でも不起訴になる余地はありますが、傷害罪が成立しているため不起訴理由は罪とならずではなく起訴猶予になります。

 

 

3.【傷害罪】嫌疑不十分で不起訴を獲得する方法

傷害罪の容疑を否認し嫌疑不十分で不起訴を獲得するためには、捜査機関に不利な調書とられないようにすることがポイントです。

 

 

日本の刑事裁判では「私がやりました」といった自白調書が非常に重視されます。そのため、「私が〇〇さんを殴ってけがをさせたと思います。」といった調書をとられると、「起訴しても有罪に持ち込める」と検察官を勢いづかせ、起訴される可能性が高くなります。

 

 

供述調書に署名指印すると後になって撤回することができません。そのため一度でも自白調書をとられると不起訴や無罪を獲得できる可能性が低くなります。

 

 

弁護士が早期に傷害事件の被疑者に接見し、黙秘権や署名押印を拒否する権利があることを教示します。その上でこれらの権利をどのように行使するかを説明し、不利な調書をとられないようにします。

黙秘とは?黙秘の意味や使い方、デメリットについて解説

供述調書の署名押印を拒否できる?メリットや拒否の仕方について

 

 

傷害罪は示談で不起訴が多い

傷害罪で不起訴になるケースとして、①起訴猶予で不起訴になる事例、②罪とならずで不起訴になる事例、③嫌疑不十分で不起訴になる事例があることを説明しました。不起訴に占めるそれぞれの割合は以下のようになります。

 

 

傷害事件が起訴猶予で不起訴になる確率

78%

傷害事件が罪とならずで不起訴になる確率

0.4%

傷害事件が嫌疑不十分で不起訴になる確率

20%

根拠…2023年版検察統計年報:罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員

 

上記のデータからわかることは、不起訴になった傷害事件のなかでは、起訴猶予で不起訴になった事件が最も多いということです。起訴猶予は被疑者が容疑を認めていることが前提になります。起訴猶予で不起訴になるためには、被疑者にとって有利な事情がなくてはなりません。

 

 

被疑者にとっての有利な事情の最たるものが示談です。起訴猶予になった傷害事件の多くで示談がまとまっていると考えられます。逆に「罪とならず」で不起訴になった事件はほとんどありません。このことからも正当防衛の主張は決して容易ではないことがわかります。

 

 

傷害の容疑を否認して、嫌疑不十分で不起訴になる確率は、「罪とならず」ほど低くはありませんが、それでも20%にとどまります。否認して起訴された場合、前科を回避するためには無罪を獲得するしかありません。司法統計では無罪となる確率は約0.1%です。

 

 

以上より傷害事件では被害者との間で示談をまとめて起訴猶予での不起訴を求めるのが合理的といえます。