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暴行・傷害と正当防衛
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
暴行・傷害における正当防衛の位置づけ
1.正当防衛であれば暴行罪や傷害罪にならない
暴行・傷害事件では正当防衛が問題になることがあります。正当防衛が認められると暴行罪や傷害罪は成立しません。なぜ暴行罪も傷害罪も成立しないのでしょうか?
それは、正当防衛が違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)にあたるからです。
2.違法性阻却事由とは
犯罪が成立するためには、被疑者の行為がそれぞれの犯罪を構成する要件(構成要件といいます)に該当する必要があります。もっとも、たとえ構成要件をすべて満たしていたとしても、その行為に違法性が認められなければ、犯罪は成立しません。
構成要件はそれぞれの犯罪のエッセンスです。そのため、構成要件を満たしていれば、違法性があると一応は推定されますが、例外的に違法性が否定される事情がいくつかあります。 これを違法性阻却事由といいます。
例えば、医師が手術をするために患者の身体にメスを入れることは、形式的には、傷害罪の構成要件に該当しますが、「正当業務」として違法性が阻却されるため、傷害罪は成立しません。このケースでは、「正当業務」が違法性阻却事由になります。
3.正当防衛も違法性阻却事由
正当防衛も違法性阻却事由のひとつです。そのため、正当防衛が成立すれば違法性がないことになり、犯罪は成立しません。
暴行罪の構成要件は、「人に対して有形力を行使すること」です。傷害罪の構成要件は、「人の生理的機能に障害を与えること」です。これらの構成要件を満たしていても、正当防衛が成立すれば違法性はなく、暴行罪や傷害罪は成立しません。
正当防衛の3つの要件
正当防衛が成立するためには次の3つの要件を全て満たす必要があります。
1.急迫不正の侵害があること
正当防衛が認められるためには、防衛者が現に侵害を受けているか、侵害が差し迫っていることが必要です。
そのため、過去の侵害に対する正当防衛は認められません。一方、侵害が現に差し迫っている限り、防衛者がその侵害を予期していたとしても、それだけで急迫性は否定されません。
2.防衛の意思があること
正当防衛が認められるためには、自己または他人の権利を防衛する意思が必要です。
正当防衛は冷静に考えて行うものではなく、反射的・本能的に行われるため、防衛の明確な意図までは不要です。また、防衛者が怒りで逆上して反撃行為をしたとしても、それだけで防衛の意思が否定されるわけではありません。怒りと防衛の意思は併存し得ると考えられているからです。
3.過剰防衛でないこと
反撃行為に行き過ぎがあれば過剰防衛となり正当防衛は認められません。拳での攻撃に対してナイフで反撃するのは行き過ぎといえるでしょう。
「武器対等の原則」と言って、素手に対して素手、刃物に対して刃物であれば正当防衛が認められやすいです。ただ、武器対等であっても、相手が攻撃をやめた後もパニックになって反撃を続けた場合は、過剰防衛になります。過剰防衛が成立すると情状により刑が減軽されるか免除されます。
暴行・傷害で正当防衛を主張した場合の流れ
1.起訴前
暴行・傷害の被疑者や弁護士が、検察官に対して正当防衛を主張し、検察官がその主張をくつがえすのが難しいと判断したときは、不起訴処分になります。
不起訴処分にはいろいろな種類がありますが、正当防衛に関連して不起訴となる場合は、「罪とならず」と「嫌疑不十分」の2つが考えられます。
正当防衛になることが明白な場合は「罪とならず」により不起訴処分になります。防衛行為に行き過ぎがあり正当防衛にならない疑いがあるが、それを証明できる証拠が不十分な場合は「嫌疑不十分」により不起訴処分になります。
検察官が被疑者や弁護士による正当防衛の主張をくつがえすことができると判断した場合は、他に犯罪の成立を妨げる事情がない限り、起訴してくるでしょう。
2.起訴後
正当防衛を主張しているケースで起訴された場合、否認事件ですので、略式裁判ではなく正式裁判で審理されます。
刑事裁判では、犯罪の成立に関する事情は検察官が立証責任を負っています。そのため、「正当防衛であること」を被告人や弁護士が立証する必要はなく、検察官が「正当防衛ではないこと」を立証しなければいけません。
とはいえ、裁判で被告人や弁護士が正当防衛について何も言わなければ、「正当防衛ではないこと」を前提として審理され判決が下されます。そのため、正当防衛について審理してもらうためには、被告人や弁護士の方から正当防衛であると主張することが必要です。
被告人や弁護士から正当防衛であると主張されれば、今度は、検察官が「正当防衛ではないこと」を立証することになります。
具体的には、法廷で被害者や目撃者の証人尋問を行い、正当防衛となるような事情がなかったことを引き出そうとします。
これに対して、弁護士は被害者や目撃者に反対尋問を行い証言の信用性を争ったり、被告人質問で、正当防衛となるような事情があったことを被告人に説明してもらいます。
裁判で正当防衛の主張が認められた場合は、無罪判決が言い渡されます。
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