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営利目的の覚醒剤事件について判例をふまえて解説

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

 

覚醒剤取締法の「営利目的」とは?

覚醒剤取締法は、営利目的の有無によって罰則に違いを設けています。「営利目的」とは、財産上の利益を得る目的のことです。

 

 

覚醒剤の密売により得た金銭は財産上の利益にあたります。密売に協力することにより、共犯者の自宅で寝泊まりさせてもらったり、覚醒剤を分けてもらうことも利益にあたります。

 

 

営利目的があるというためには、行為が反復継続してされる必要はありません。財産上の利益を得る目的があれば、1回限りの行為であっても営利目的が認められます。

 

 

営利目的の覚醒剤事件の罰則一覧

憲法は営利目的で覚醒剤事件を起こした場合の罰則は次の通りです。

 

 

 

営利目的あり

営利目的なし

覚醒剤の所持

懲役1年~20年

*情状により500万円以下の罰金が併科されることあり

10年以下の懲役

覚醒剤の譲渡・譲受け

覚醒剤の製造

無期懲役または懲役3年~20年

*情状により1000万円以下の罰金が併科されることあり

懲役1年~20年

覚醒剤の輸出・輸入

 

 

営利目的の覚醒剤事件と罰金

1.罰金が併科されることも

営利目的で覚醒剤事件を起こした場合、罰金刑が科されることがあります。この場合、懲役刑の代わりに罰金が科されるわけではなく、「併科」といって懲役刑に加えてさらに罰金が科されることになります。

 

 

覚醒剤取締法の条文では、営利目的がある場合、「情状により一千万円以下の罰金に処する」(営利目的の製造・輸出・輸入)、「情状により五百万円以下の罰金に処する」(所持・譲渡・譲受)とされています。

 

 

2.ほぼ全てのケースで罰金が併科される

罰金を併科する理由は、「営利目的で覚醒剤を扱っても割に合わない」ということを被告人に知らしめ、再犯を防止するためです。そのような理由はほぼ全ての営利目的事件にあてはまるため、判例ではほとんどすべてのケースで罰金が科されています。

 

 

3.罰金額はいくら?

具体的な罰金額は、被告人が取り扱った覚醒剤の量、取引の期間・回数、取引によって得た利益、被告人の資産状況等から判断されます。正犯の場合は100万円以上になることが多いです。幇助犯と認定された場合は、数十万円で済むこともあります。

 

 

4.罰金を払えないとどうなる?

判例では、罰金を払えない場合、「金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」とされることが多いです。

 

 

例えば200万円の罰金が確定したが100万円しか払えなかった場合、残り100万円÷1万円=100日間、労役場に留置されることになります。刑務所は労役場も兼ねているため、刑務所にいる期間がそれだけ長くなるということです。

 

 

罰金額が50万円以下の場合は、「金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」とされることが多いです。

 

 

営利目的の覚醒剤事件と没収・追徴

通常の覚醒剤事件と同様に、押収された覚醒剤は没収されます。営利目的があれば、覚醒剤だけではなく、覚醒剤を密売して得た金銭も没収されます。

没収とは?押収との違いや没収できる6つの物について解説

 

 

売上金を費消しており被告人の手元にない場合は同じ金額を追徴されます。前述の罰金刑は売上金の没収・追徴とは別に言い渡されます。

 

 

営利目的の覚醒剤事件は実刑?執行猶予?

初犯の覚せい剤事件では執行猶予が付くことが多いですが、営利目的があると実刑になることが多いです。裁判所は以下の事情に注目して、どのような刑罰がふさわしいかを決定します。

 

 

【裁判所が注目する事情】

・密売の期間

・密売の回数

・密売した覚醒剤の量

・密売による収益の程度

・密売組織での役割

・報酬の有無や金額

・前科

 

 

営利目的で覚醒剤事件を起こす人は、覚醒剤取締法違反の前科があることが多いので、営利目的という点に加え、同種前科があるという点でも刑罰が加重されます。

 

 

営利目的の覚醒剤事件の判例まとめ

 

営利目的あり

営利目的なし

名古屋高裁令和2年2月6日共犯者らと共に覚醒剤約339㎏を倉庫内で所持。執行猶予期間中の犯行。

懲役7年

罰金350万円

福岡地裁小倉支部令和2年7月20日

①約9カ月にわたり覚醒剤及び覚醒剤様のものを3名の顧客に合計33回譲り渡す。

②約109gの覚醒剤を所持していた。

懲役7年

罰金200万円

那覇地裁令和5年6月19日

共犯者が覚醒剤約200gを郵送で譲り受けた際に、事前に代金を発送者に振り込んだ。裁判では、共犯者の手足として利用され、報酬も得ていないとして幇助犯と認定された。

懲役3年・執行猶予5年

罰金30万円

長野地裁令和5年10月27日約3か月にわたり覚醒剤の密売を繰り返していた。

懲役6年6月

罰金100万円

横浜地裁令和5年11月2日

①約10か月、合計125回にわたり、覚醒剤及び覚醒剤様のもの約83g、大麻様のもの約37gを営利目的で譲渡

②覚醒剤49gを営利目的で所持

③同種前科の刑期を終えてから約半年後の犯行

懲役8年

罰金200万円

さいたま地裁令和5年12月222日犯罪組織がケニアから覚醒剤約394gを営利目的で輸入するにあたり、被告人が貨物の受取人として送付先住所を提供した事案。

懲役4年6月

罰金200万円

那覇地裁令和6年2月2日覚醒剤を約0.3gずつ30袋に小分けし、新品の注射器26本と一緒に営利目的で所持していた。

懲役3年6月

罰金30万円

 

 

【判例】覚醒剤事件で営利目的につながる事情は?

裁判所が覚醒剤事件で営利目的を認定するにあたって参考にする事情は以下となります。

 

 

☑ 自己使用にしては覚醒剤の所持量が多い(10グラム以上)

☑ 覚醒剤を小分けしたパケを多数所持している

☑ 計量器を所持している

☑ 軽量スプーンを所持している

☑ 新品の注射器を多数所持している

☑ SNSで隠語を使って覚醒剤を売る話をしていた

☑ 覚醒剤で逮捕された別の人間が被告人から覚醒剤を買ったと言っている

☑ 多量の覚醒剤を所持しているが定職がなく収入源が不明

☑ 多額の現金を所持しているが資金源が不明

☑ 暴力団に所属している

 

これらの事情があればあるほど、営利目的が認定されやすくなります。

 

 

営利目的の覚醒剤事件の弁護活動(営利目的を認める場合)

1.幇助犯であることを主張する

営利目的での覚醒剤の所持や譲渡は、密売グループによって組織的に行われることが多いです。密売グループのリーダーや指示役など重要な役割を果たしている者は、相当重い実刑になることが予想されます。

 

 

これに対して、密売グループの末端で使い走り的な作業しかしておらず、報酬もわずかである場合は、幇助犯と認定され執行猶予がつくこともあります。

 

 

【刑法】

第六十二条 正犯を幇ほう助した者は、従犯とする。

2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。

 

第六十三条 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。

 

 

密売グループの末端に過ぎない場合、被告人質問で、自分がしていた作業の内容や報酬の有無・金額を裁判官に話してもらいます。取り調べ段階でも「重要な役割を果たしていた」といった内容の調書をとられないようにします。

 

 

その上で、弁護士が、被告人は重要な役割を果たしておらず幇助犯に過ぎないことを主張し、執行猶予を求めます。

 

 

2.再犯防止のための環境を整える

営利目的を認める場合、密売グループと縁をきり正業に就くことによって、覚醒剤への経済的な依存を断ち切ります。

 

 

社会復帰後に雇用を約束してくれる方がいれば情状証人として出廷してもらいます。家族にも情状証人として出廷してもらい、本人をどのように監督していくのかを証言してもらいます。

情状証人とは?尋問の流れや本番で役に立つ5つのポイントを解説

 

 

具体的な監督方法としては、本人の携帯電話をチェックして不自然なやりとりがないか確認してもらいます。また、本人に代わって金銭管理をしてもらいます。このような活動をふまえ、弁護士が再犯のおそれがないことを主張していきます。

 

 

営利目的の覚醒剤事件の弁護活動(営利目的を否認する場合)

1.営利目的を否認する場合の2つの争い方

営利目的を否認する場合、以下の2つの争い方があります。

 

 

①密売グループが摘発されたケース

営利目的以前に覚醒剤の所持や譲渡に一切関わっていないと主張する

 

 

②単独犯として摘発されたケース

営利目的ではなく自己所有目的で所持していたと主張する

 

 

①のケースでは、不起訴(嫌疑不十分)や無罪を求めることになります。②のケースでは自己所有目的での所持に争いはないため、その限度での処分を求めることになります。具体的には執行猶予を求めることになるでしょう。

 

 

2.営利目的を否認する場合のポイント(捜査段階)

上記の①のケースであれ②のケースであれば、不利な調書をとられないようにすることが大切です。逮捕されるとすぐに取調べが始まります。取調官は捜査機関が描いたストーリーに沿った供述調書を作成しようとします。

 

 

取調官の誘導に乗ってしまったり、プレッシャーに負けてしまうと、「密売グループの一員として覚醒剤を所持していました。」とか「覚醒剤を売って生活費にしていました。」といった自白調書をとられてしまいます。

 

 

自白調書をとられてしまうと、刑事裁判でも営利目的があったと認知され、実刑判決が下される可能性が高くなります。

 

 

弁護士が被疑者に接見し、黙秘権等の重要な権利について説明した上、取調べにどのように対応すればよいのかをアドバイスします。

否認事件の刑事弁護

 

 

3.営利目的を否認する場合のポイント(公判段階)

営利目的を否認して起訴された場合、検察官は、営利目的を立証するために関係者の証人尋問を申請します。

 

 

証人の例として、同じ密売グループのメンバーとして逮捕された共犯者や被告人から覚醒剤を譲り受けて逮捕された客が考えられます。弁護士があらかじめ証人の供述調書を確認した上で、法廷で反対尋問を行い、証言が信用できないことを明らかにします。

 

 

4.自己所有目的を認める場合

営利目的を否認しつつ自己所有目的の限度で覚醒剤の所持を認める場合、依存症を克服するために、保釈された後に専門のクリニックに通院し、薬物依存の更生プログラムを受けてもらいます。薬物の問題を抱えた方が集う自助グループに参加してもらうこともあります。

 

 

裁判では家族に情状証人として出廷してもらい、被告人をどのように監督するかを証言してもらいます。

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