あおり運転

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

最終更新日…2020年8月9日

 

 

あおり運転とは

あおり運転とは、特定の車やバイクの走行を妨害する目的で、危険で悪質な運転をすることです。

 

【あおり運転の例】

☑ クラクションを鳴らしながら前の車を追い回す

☑ 強引に割り込んできて急ブレーキをかける

☑ ぎりぎりまで幅寄せしながら走行する

 

あおり運転と妨害運転罪

1.妨害運転罪の創設

2017年に東名高速道路で、あおられた自動車に乗っていた夫婦が、車外で後続のトラックにひかれて死亡しました。

 

この事件以降、あおり運転の危険性がクローズアップされ、全国的に取締りの強化を求める声が広がりました。

 

もっとも、あおり運転を直接処罰する規定がなかったため、暴行罪などで検挙せざるをえず、危険性が高いわりに処罰が軽いとの批判がありました。

 

そのような事情を背景として、道路交通法が改正され、あおり運転に対する罰則を定めた妨害運転罪が新設されました。2020年6月30日から施行されています。

 

2.妨害運転罪の要件

あおり運転をした場合、妨害運転罪が成立する可能性が高いです。妨害運転罪の要件は次の3つです。

 

(1)目的の要件

他の車両等の通行を妨害する目的があることが要件になります。

 

(2)行為の要件

次の10種類の行為のいずれかをしたことが要件になります。

行為

具体例

①通行区分違反

対向車線を逆走する

②急ブレーキ禁止違反

必要がないのに急ブレーキをかける

③車間距離の不保持

前の車のすぐ後ろを走る

④進路変更禁止違反

急なわりこみ

⑤追い越し方法違反

左側からの追い越し

⑥減光等義務違反

不要なパッシング

⑦警音器使用制限違反

執拗なクラクション

⑧安全運転義務違反

幅寄せ、蛇行運転

⑨最低速度違反

高速道路でのノロノロ運転

⑩高速道路駐停車禁止違反

高速道路での不要な駐停車

 

(3)方法の要件

他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法で上記の行為のいずれかをしたことが要件となります。

 

捜査の現場では、ドライブレコーダーの映像から、あおり行為の内容や行為に及んだ経緯、行為をしていた時間等からこれらの要件を立証していくことになるでしょう。

 

3.妨害運転罪の刑罰

3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

 

【加重されるケース】

高速道路上で他の自動車を停止させたり著しい危険を生じさせた場合は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金になります。

 

あおり運転と器物損壊

自動車を運転していて物損事故を起こしても犯罪にはなりません。器物損壊になるのではないかと思われるかもしれませんが、器物損壊罪は故意がないと成立しません。通常の自動車事故のように過失で物を壊した場合は、故意がなく器物損壊罪にはなりません。

 

器物損壊罪の故意の種類としては次の2種類があります。

①積極的に物を壊そうとする意思

②積極的に壊そうとまでは思っていないが、壊れるかもしれないがそれでもいいという意思(未必の故意)

故意とは?確定的故意と未必の故意について弁護士が解説

 

あおり運転中に他車に衝突したときは、危険な運転をしている以上、少なくとも②の未必の故意があると考えられるので、器物損壊罪が成立します。

 

器物損壊罪の刑罰は、①3年以下の懲役、②30万円以下の罰金、③科料のいずれかです。

 

あおり運転と脅迫

あおり運転をしながら、相手のドライバーに対して、「殺すぞ!」等といって、恐怖感を与えた場合は、妨害運転罪に加えて脅迫が成立します。

 

脅迫罪の刑罰は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

 

あおり運転と殺人

あおり運転をしながら、「相手が死ぬかもしれないが死んでもいい。」と思って、自分の車を衝突させ、実際に相手のドライバーや同乗者を死なせてしまった場合は、殺人の未必の故意が認められ、殺人罪が成立します。たとえ死ななかったとしても殺人未遂が成立する余地があります。

故意とは?確定的故意と未必の故意について弁護士が解説

 

殺人罪の刑罰は、①死刑、②無期懲役、③5年以上の懲役のいずれかです。 

 

【あおり運転で殺人罪で起訴され懲役16年となったケース】

車を運転中、バイクに前に入られたことに立腹し、何度もクラクションを鳴らした後に時速100キロ弱でバイクに自車を衝突させ、被害者を頭蓋骨骨折により死亡させた事件。

 

衝突後に加害者が「はい。終わり。」と言っていたことがドライブレコーダーに記録されていたことが決め手となり、殺人の未必の故意が認定され、懲役16年を宣告されました。被告人は控訴・上告しましたが減刑されることなく懲役16年で確定しました。

 

あおり運転と暴行・傷害

あおり運転により相手の車を停止させた後に、車を降りて、相手車両のドライバーを殴ったり蹴ったりすれば暴行傷害が成立します。

 

暴行罪の刑罰は、①2年以下の懲役、②30万円以下の罰金、③拘留、④科料のいずれかです。傷害罪の刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

 

あおり運転と強要

あおり運転によって、相手のドライバーが路肩などに車を停止することを余儀なくされたときは、強要罪が成立します。

 

暴行によって人に義務のないことを行わせると強要罪になります。強要罪の暴行とは、相手の自由な意思決定を妨げ、行動の自由を制約するものであればよく、相手に接触する必要はありません。

 

あおり運転によって相手のドライバーが恐怖にかられて、本来停車する必要がなかったにもかかわらず、停車することを余儀なくされた場合は、あおり運転自体が「暴行」と評価され強要罪が成立します。

 

強要罪の刑罰は3年以下の懲役です。

 

あおり運転により死傷事故が生じたケース

あおり運転により相手車両に衝突しドライバーや同乗者を死傷させた場合、次の3つの要件を満たすと、危険運転致死傷罪(妨害目的運転)が成立します。

 

①人または車の通行を妨害する目的があること

②走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人または車に著しく接近すること

③重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転すること

 

刑罰は被害者にけがをさせたときは15年以下の懲役、死亡させたときは1年~20年の懲役です。

 

これら3つの要件のいずれかに該当しないときは、過失運転致死傷罪が成立します。刑罰は①7年以下の懲役、②7年以下の禁錮、③100万円以下の罰金のいずれかです。

 

あおり運転と示談

あおり運転をして妨害運転罪などの被疑者になってしまったときは、被害者である相手車両のドライバーと示談をすることが最も重要な弁護活動になります。

 

自動車事故のケースでは、被害者との示談交渉は保険会社に任せるのが通常です。もっとも、あおり運転をしたが交通事故が発生していない場合は、保険会社が示談交渉してくれるわけではありません。

 

被害者は加害者にあおられて怖い思いをしています。そのような被害者が加害者と個人情報を交換して、示談交渉することは期待できません。示談交渉は弁護士に依頼した方がよいでしょう。

 

あおり運転によって交通事故を起こしてしまった場合は、被害者救済のため、対人賠償保険、対物賠償保険が下りる可能性は高いですが、保険会社による示談交渉と並行して、弁護士をたてて、被害者と示談交渉した方がよいでしょう。

 

刑事事件では、「許す」とか「処罰を求めない」といった宥恕文言(ゆうじょもんごん)が入った示談書があれば、不起訴の可能性が高くなりますが、保険会社はそこまで考えて示談をしてくれるわけではないからです。

示談の相談は弁護士へ

 

あおり運転と行政処分

あおり運転の行政処分は次の通りです。

犯罪

違反点数

処分(カッコ内は欠格期間)

危険運転致死または殺人

62点

免許取消し(8年)

危険運転致傷

けがの程度や後遺症の有無に応じて45~55点

免許取消し(5~7年)

妨害運転

25点

免許取消し(2年)

妨害運転(著しい危険)

35点

免許取消し(3年)

*免許停止、取消しの前歴があるとより重い処分になります。

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