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送検拒否とは?ハンマー殴打事件のケースをもとに弁護士が詳しく解説
「福生市で高校生をハンマーで殴打し殺人未遂で逮捕された男性が送検拒否」-このようなニュースが報道各社から配信されました。
このページでは刑事事件に詳しいウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎(登録番号第39896号)が「送検拒否」について解説しました。ぜひ参考にしてみてください。
送検拒否とは?
送検拒否とは「検察庁に連行されることを拒否する」ことです。「刑事訴訟法」という法律によって、逮捕されれば48時間以内に検察官に送致する手続きを取らなければなりません。
この規定によって、逮捕された被疑者は、逮捕の翌日かおそくとも翌々日に検察庁に連行されます。
被疑者は検察庁に連行された後、検察官の取調べを受けます。検察官は警察から引き継いだ捜査資料や取調べの状況をふまえ、被疑者を勾留請求するか釈放するかを決めることになります。
ニュース報道されたハンマー殴打事件の場合は、福生署で逮捕されていますので、多摩地区を管轄する東京地方検察庁立川支部に連行されます。
通常は護送バスに乗せられて他の被疑者と一緒に検察庁に連行されますが、ハンマー殴打事件のようにマスコミに注目されている場合は、被疑者を撮影するために多数のカメラマンが警察署に集まりますので、護送の支障にならないように、警察車両に乗せられ単独で護送されます(単独護送)。
送検拒否はどうやってする?
集中護送であれ単独護送であれ、検察庁に連行されるタイミングは朝になります。午前8時過ぎに警察署を出発することが多いです。
出発の少し前に留置係官が房に来て、被疑者に対して、「これから検察庁に行きます。準備しますので出てください。」等といって、房から出るように促します。
送検拒否するためには、このタイミングで「検察庁には行きません」と言うことになります。
送検拒否した時の警察の対応は?
被疑者が送検拒否したからといって、強制的に腕をとって検察庁まで連行することはできません。そのようなことをすれば人権侵害として大問題になります。
送検拒否した場合、通常は、留置係の責任者が房まで来て、「送検拒否なんて聞いたことがない。みんな検察庁には行ってますので、行きましょう。」等と説得します。説得している場面を、他の留置係官がデジタルカメラで撮影していることもあります。
それでも送検を拒否した場合は、強制力の行使は許されませんので、留置係官としてもあきらめざるを得ないということになります。
送検拒否した時の検察の対応は?
送検は検察官の取調べを受けるために行われますが、送検拒否したからといって、検察官が留置場まで取調べに来てくれるわけではありません。また、刑事手続の流れがストップするわけでもありません。
送検拒否という態度自体が、証拠隠滅のおそれを推認させる事情となるため、送検拒否した場合、検察官は被疑者の勾留を請求します。
送検拒否した時の裁判所の対応は?
検察官が被疑者の勾留を請求した場合、請求の当日か翌日に被疑者は裁判所に連行されます。
ニュースになっているハンマー殴打事件の場合、東京地方検察庁立川支部の検察官に勾留請求された翌日に東京地方裁判所立川支部に連行されることが多いです。
被疑者は裁判所で裁判官の勾留質問を受けます。裁判官は検察官から引き継いだ捜査資料や勾留質問の際の被疑者とのやりとりをふまえ、被疑者を勾留するか否かを決めます。
送検拒否した被疑者は、通常は、裁判所に連行されることも拒否しますので、勾留質問は実施されないということになります。
その場合も刑事手続がストップするわけではありません。送検拒否という態度自体に証拠隠滅のおそれが推認されるため、裁判官は検察官の勾留請求を許可します。その結果、被疑者は勾留されます。
送検拒否のメリットは?
送検拒否のメリットは「報道カメラマンによる撮影を回避できる」ことと「黙秘を徹底できる」ことです。以下詳しく解説します。
1.報道カメラマンによる撮影を回避できる
ハンマー殴打事件のように広く世間の関心を集めている場合、送検時の被疑者の様子がマスコミのカメラマンによって撮影され広く報道されます。
カメラマンによって撮影されるタイミングは、警察署の庁舎を出て護送バスや警察車両に乗り込む直前になります。
送検拒否をすれば、そもそも警察署から外に出ないため、マスコミによって自分の姿が撮影・報道されません。
2.黙秘を徹底できる
被疑者には黙秘権がありますので、取調べで言いたくないことを言う必要はありません。黙秘権を行使することによって、不利な供述調書がとられることを阻止することができます。
とはいえ、いざ取調べが始まると、被疑者が黙秘権を行使しても、取調官があの手この手でプレッシャーをかけてきて、最終的には口を割ってしまい不利な調をとられることが多々あります。
ハンマー殴打事件についても、被疑者は殺人未遂で逮捕されましたが、殺意を否認しています。取調べに応じると取調官のプレッシャーに耐え切れず、「殺意がありました」といった自白調書をとられてしまうリスクがあります。
送検拒否すれば、取調べ自体が実施されないわけですから、実質的に黙秘権を行使するのと同様の効果(=不利な調書の作成を防ぐ)が得られるということになります。
送検拒否のデメリットは?
送検拒否のデメリットは「勾留される」ことと「保釈が許可される可能性が低くなる」ことです。以下詳しく解説します。
1.勾留される
送検拒否するとほぼ間違いなく勾留されます。勾留されると、原則10日・最長20日にわたって拘束されます。検察官は最長20日に勾留期間内に被疑者を起訴するか釈放するかを決めます。
軽微な事件の場合は、逮捕されても勾留されずに釈放されることが多々あります。送検拒否をすることによって「勾留前に釈放される」道がなくなります。
2.保釈の可能性が低くなる
弁護士が保釈請求をすれば、検察官が保釈が相当か不相当かについて書面で意見を述べます。裁判官は弁護士の保釈請求書と検察官の意見書を参考にして、保釈を許可するか却下するかを判断します。
送検拒否をすることにより、検察官は弁護士の保釈請求に対して、「取調べにも応じておらず証拠隠滅の可能性が高い」などと徹底的に反論してきます。
そのため保釈が許可される可能性が低くなります。
ハンマー殴打事件で送検拒否は妥当か?
ハンマー殴打事件については、「殺人未遂」という重大事件で逮捕されており、仮に送検に応じたとしても、勾留前に釈放されたり、起訴直後に保釈が許可される可能性は低い状況です。
送検に応じたとしても、早期釈放の可能性が低いため、送検拒否によって生じるデメリットは小さいと言えます。被疑者が殺意を否認していることもふまえると、送検拒否が本人の意思によるのか弁護士による戦略なのかはわかりませんが、間違った方針であると言うことはできないと考えます。
もっとも、殺意を否認しているとはいえ、ハンマーという殺傷能力のある凶器を使用していること、被害者が「眼底骨折」という重傷を負っている事実をふまえると、裁判で「殺意がなかった」と認定される可能性は高くはありません。
そのため、送検拒否せず取調べに応じた上で、反省をアピールするという方針も十分にありうるでしょう。その場合、「警察署を出たときに顔を上げない」ことによって顔が撮影されることを防ぐことは可能です。




