非接触事故でもひき逃げになる?弁護士が解説

交通事故は通常、車やバイク等の乗り物が歩行者や他の乗り物に接触することにより発生しますが、接触を伴わない事故もあります。

 

 

このページでは接触を伴わない非接触事故のひき逃げについて、ウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が解説しました。ぜひ参考にしてみてください!

 

 

 

非接触事故とは?

非接触事故とは車両や人との接触のない交通事故のことです。車と車、車とバイク、車と自転車、車と歩行者、-交通事故は通常これらが接触することによって発生します。

 

 

もっとも、接触のない交通事故もあります。それが非接触事故です。誘引事故ともいいます。非接触事故の例として次のような事故が挙げられます。

 

 

①車が前方をよく確認せずに右折しようとしたところ、前方から直進してきたバイクと接触しそうになった。バイクの運転者が衝突を避けるために左にハンドルを切ったところ、歩道に乗り上げ転倒してケガをした。

 

 

②自転車で車道の端を走行していたところ、後方から走ってきた車が自転車を追い抜き道路わきの駐車場に入るために急に左折してきた。自転車の運転者が衝突を避けるため急ブレーキをかけたところ、転倒してケガをした。

 

 

非接触事故であっても、加害者の過失と被害者のケガとの間に因果関係があれば、過失運転致傷罪が成立します。過失運転致傷罪の罰則は7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

 

 

被害者が重傷を負った場合は逮捕されることもあります。逮捕された後の流れについては以下のページをご覧ください。

逮捕後の流れや釈放のタイミングについてわかりやすく解説

 

 

非接触事故でもひき逃げになる?

車やバイクを運転中に人身事故を起こした場合、けが人を救護する義務があります(道路交通法72条1項)。

 

 

非接触事故であっても救護義務は発生しますので、非接触事故を起こしてそのまま現場を立ち去れば、ひき逃げ(救護義務違反)になります。

 

 

ひき逃げの罰則は15年以下の懲役または200万円以下の罰金です。

 

 

ひき逃げ事件で被害者の怪我が重ければ、逮捕・勾留される可能性が高いです。逮捕された後の流れについては以下のページをご覧ください。

逮捕後の流れや釈放のタイミングについてわかりやすく解説

 

 

非接触事故でひき逃げにならないケース

ひき逃げは故意犯です。そのため、ひき逃げは、人身事故を起こしたことを認識していながら、あえてけが人を救護せずにその場を立ち去った場合に成立します。

 

 

ひき逃げが成立するためには、「確実に人身事故を起こした」という確定的な認識までは必要なく、「人身事故を起こしたかもしれない」という未必的な認識で足りるとされています。

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人身事故を起こしたという認識が全くなければ救護義務が発生しませんので、そのまま現場を立ち去ってもひき逃げになりません。

 

 

接触事故の場合は、実際に接触している以上、「人身事故を起こしたことに気づきませんでした。」と言っても通用しないことが多いです。

 

 

これに対して、非接触事故の場合は接触していないため、運転者が人身事故を起こしたことに気づいていないケースもあります。このようなケースではひき逃げにはなりません。

 

 

なお、人身事故について成立する過失運転致傷罪については、過失犯であり故意は要件とされていませんので、運転者が事故を起こしたことに気づかなかったとしても、過失やけがとの因果関係という要件を満たす限り犯罪が成立します。

 

 

非接触事故でひき逃げとされないために

非接触事故を起こして現場から立ち去った場合、目撃者がナンバープレートの一部を覚えていたことにより特定され、警察が家に来ることが多いです。ドライブレコーダーや防犯カメラといった証拠から特定されることもあります。

 

 

ひき逃げ事件の被疑者になった場合は、警察署で取調べを受け供述調書が作成されます。供述調書は検察官が起訴・不起訴を判断するために重要な証拠になります。起訴されれば、裁判官も供述調書をふまえて有罪・無罪を判断します。

 

 

非接触事故を起こしたことに気づいていなかった場合はひき逃げにはなりません。もっとも、取調官に「事故を起こしたことに気づいていませんでした。」と言ってもなかなか納得してくれません。

 

 

むしろ「そんなはずないだろ!」、「嘘をつくな!」等とプレッシャーをかけられて、「事故を起こしたことに気づいていました。」といった自白調書をとられてしまうことが多いです。

 

 

いったん自白調書をとられてしまうと、後に撤回することはできませんので、起訴され有罪となる可能性が高くなります。

 

 

非接触事故を起こしたことに気づかなかった場合は、取調べを受ける際、弁護士に同行してもらった上で、「事故を起こしたと気づいていませんでした」という供述を貫くべきです。

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非接触事故でひき逃げ回避-免許取消になることはある?

非接触事故を起こしたことに気づかなかった場合、当初はひき逃げ容疑で捜査が進められていても、自白調書をとられなければ、人身事故(過失運転致傷)のみで処罰され、ひき逃げ(道路交通法違反)は嫌疑不十分で不起訴になることがあります。

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もっとも、道路交通法違反で不起訴になっても、公安委員会から意見の聴取についての通知が自宅に届くことがあります。通知の中に「救護義務違反」、「免許取消」の記載があれば、意見の聴取を経て運転免許が取り消されることになります。

 

 

「不起訴になったのにどうして救護義務違反で免許が取り消されるのか?」と思われるかもしれません。

 

 

「不起訴」は刑事手続の処分です。これに対して、免許取消は行政処分です。刑事手続と行政手続は別箇の手続ですので、刑事手続でひき逃げが否定されても、行政手続でひき逃げが認定されて免許取消になることは多々あります。

 

 

意見の聴取は裁判ではありませんが、弁護士を代理人に選任して出席してもらうことができます。その場で弁護士から公安委員会に意見書を提出することもできます。

 

 

このようなケースでは「刑事で不起訴になったので免許取消にはならないだろう」と安易に考えるのではなく、まずは弁護士にご相談ください。