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飲酒運転
このページはウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
飲酒運転とは
飲酒運転には、酒気帯び運転と酒酔い運転があります。酒酔い運転の方が酔いが深く、刑罰が重くなります。
酒気帯び運転
呼気1リットルにつき0.15mg以上または血液1ミリリットルにつき0.3mg以上のアルコールを身体に含んだ状態で運転することをいいます。
酒酔い運転
酒気帯び運転のうち、アルコールの影響によって正常な運転ができないおそれがある状態で運転をすることをいいます。
お酒の強さには個人差があるため、正常な運転ができないおそれがあるかどうかは、身体に含まれるアルコールの量によって一律に判断されるのではなく、「真っ直ぐ歩くことができるか」、「ろれつが回っているか」、「手が震えていないか」等の状況から個別に判断されます。
飲酒運転の刑罰
酒気帯び運転と酒酔い運転の刑罰は次の通りです。
| 刑罰 |
酒気帯び運転 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
酒酔い運転 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
飲酒運転の同乗者にも犯罪が成立する?
飲酒運転の同乗者が次の2つの要件を満たすときは、飲酒運転同乗罪が成立します。
①運転者が飲酒運転をしていることを知っている
②運転者に自己を運送することを要求・依頼した
同乗者の刑罰は以下の通りです。
| 刑罰 |
酒気帯び運転 | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
酒酔い運転 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
飲酒運転で人身事故を起こしたときの刑罰
飲酒運転で人身事故を起こし、被害者を負傷させたり死亡させたときの刑罰は以下の通りです。
(1)酒気帯び運転での人身事故
懲役刑 | 懲役1月~10年 |
罰金刑 | 罰金1万円~150万円 |
*懲役刑(禁固刑)と罰金刑が両方科されることがあります。その場合、それぞれの刑罰の上限は上の表よりも軽くなります。
(2)酒酔い運転での人身事故
懲役刑 | 懲役1月~10年6月 |
罰金刑 | 罰金1万円~200万円 |
*懲役刑(禁固刑)と罰金刑が両方科されることがあります。その場合、それぞれの刑罰の上限は上の表よりも軽くなります。
(3)めいてい運転での人身事故
めいてい運転とは「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態で自動車を走行させること」をいいます。運転者がめいてい運転中に人身事故を起こし被害者を負傷させたり死亡させたときは、危険運転致死傷罪が成立します。
めいてい運転の刑罰は以下の通りです。
めいていの故意なし | 懲役1月~12年(負傷事故) 懲役1月~15年(死亡事故) |
めいていの故意あり | 懲役1月~15年(負傷事故) 懲役1月~20年(死亡事故) |
飲酒運転で人身事故を起こした後にごまかそうとしたらどうなる?
飲酒運転で人身事故を起こした後に、飲酒運転の発覚を免れるために逃げたときは、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪が成立します。飲酒運転の発覚を免れるため、事故後にさらにお酒を飲んだ場合も発覚免脱罪が成立します。刑罰は以下の通りです。
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪 | 懲役1年~12年 |
飲酒運転と逮捕
飲酒運転で検挙された場合、その場で逮捕されてしまうことが多いです。逮捕されても人身事故を伴わない場合や被害者が軽傷の場合は、勾留されずに釈放されることが多いです。重傷事故を起こした場合やめいてい運転による人身事故の場合は、勾留される可能性が高くなります。
飲酒運転と刑事処分
飲酒運転による交通事故が社会問題化していることから、近年、飲酒運転に対する処分は厳しくなっています。
人身事故を伴わない場合
酒気帯び運転であれば、初犯の方の場合、略式裁判で罰金になることが多いです。酒酔い運転の場合は、公判請求されて正式裁判となり、懲役刑を請求される可能性が高くなります。初犯の方であれば、通常、執行猶予がつきますが、執行猶予期間内に再び飲酒運転をした場合は、実刑判決になる可能性が高くなります。
人身事故を伴う場合
被害者のけがの程度が軽く示談が成立していれば、略式裁判で罰金にとどまることもありますが、通常は公判請求されます。執行猶予を獲得できる余地は十分にありますが、執行猶予期間中のケース、事故の態様が極めて悪質なケース、被害結果が重大なケースでは、実刑判決になる可能性が高くなります。
飲酒運転の弁護方針(罪を認める場合)
(1)示談をする
人身事故を伴う飲酒運転の場合、被害者と示談が成立すれば、実刑判決を回避できる可能性が格段に高まります。
自動車事故のケースでは、損害賠償の金額は、被害者の通院状況や休業日数、後遺障害の程度などによって、定型的に算出されますので、そのようにして算出した金額をベースに交渉することになります。
加害者が任意保険に加入している場合、示談金は保険によってカバーされます。任意保険に加入している場合は、仮に判決までに示談が成立しなかったとしても、「示談の見込みがある」として量刑上有利に考慮されます。
自賠責保険にしか加入していない場合は、以下の限度で保険によってカバーされます。
死亡による損害 | 3000万円 |
傷害による損害 | 120万円 |
後遺症による損害 | 4000万円 |
*物損はカバーされません。
実損害がこれらの金額を超える場合は、差額の支払いをベースとして示談交渉することになるでしょう。
【公判請求されたら】
弁護士が裁判所に示談書や保険証券を提出します。
(2)謝罪する
病院で被害者にお見舞いをしたり、手紙により謝罪します。通り一遍のことを述べるのではなく、自分の言葉で心をこめて謝罪することが大切です。交通事故のケースでは被害者側から「謝罪が遅い」と言われることが少なくありません。謝罪の申入れは、なるべく早い段階で行うべきです。
【公判請求されたら】
弁護士が、謝罪文の写しを証拠として提出します。また、本人に裁判官の前で被害者への思いを直接語ってもらいます。
(3)環境を改善する
飲酒運転を繰り返していた場合は、お酒に対する向き合い方を根本から変えてもらう必要があります。依存症のクリニックに定期的に通ってもらったり、断酒プログラムに参加してもらいます。医師に抗酒剤を処方してもらうこともあります。
【公判請求されたら】
弁護士がクリニックの受診証明書や断酒プログラムの参加証を証拠として提出します。
(4)その他の弁護活動
① 釈放させる
飲酒運転で逮捕された場合は、早期釈放に向けた弁護活動を行います。悪質で被害結果が重大なケースを除けば勾留前に釈放されることが多いです。
② 寄付をする
人身事故を伴わない飲酒運転の場合、被害者がいないので示談することができません。そこで、反省の気持ちを示すために交通遺児育英会などの公益団体に寄付をします。公判請求された場合は、弁護士が寄付金の領収書を証拠として提出します。
③ 被害者の事情を指摘する
被害者にもスピード違反などの落ち度があれば、検察官や裁判官に指摘します。被害者の落ち度が極めて大きい場合は、加害者の過失と事故との間に因果関係がないとして、人身事故については嫌疑不十分による不起訴を目指します。
飲酒運転の弁護方針(無罪を主張する場合)
(1)飲酒運転(道路交通法違反)について
飲酒してから交通事故が発生するまでにかなりの時間がたっている場合は、飲酒運転の故意が認められないとして無罪になる余地があります。
飲酒と事故との間に時間的間隔があると、飲酒検知器によってアルコールが検知されないことがありますが、その場合でも、捜査機関は、本人や第三者の供述に基づき、特殊な計算式(ウィドマーク法、上野式計算法)を用いて事故当時のアルコール濃度を推定し、飲酒運転の罪で起訴することがあります。
その場合、計算の基礎になった本人や第三者の供述が信用できないとして無罪となることもあります。弁護士が本人の認識や関係者の供述を検討し、不起訴処分あるいは無罪判決の獲得を目指します。
(2)交通事故について
① 自白調書を作らせない
交通事故については、本人に過失がなければ犯罪にはなりません。過失がないと思われる場合、捜査機関によって自白調書をとられないようにします。
飲酒運転のケースでは、「お酒を飲んで運転してしまった」、「相手がけがをしてしまった」という負い目から、自分が記憶していることを取調官に言うのをためらってしまい、取調官に言われるがままに供述してしまうことがよくあります。弁護士が、安易に自白調書が作成されないよう、継続的にバックアップしていきます。
② 弁護士が実況見分に立ち会う
交通事故のケースでは、警察が実況見分を行い、その結果を調書(実況見分調書)にまとめます。実況見分調書の図面には、事故前後の車や人の動きが克明にプロットされています。
実況見分調書は裁判でも重要な証拠となりますが、必ずしも正確なものではありません。捜査官は、事故現場で当事者に様々な質問をしながら実況見分を進めますが、当事者が事故前後の細かい状況をはっきり覚えていることはほとんどありません。運転者の記憶があいまいになりやすい飲酒運転のケースでは特にその傾向が顕著です。
もっとも、当事者が「覚えていません」と言っても、結局は、捜査官の誘導に押し切られる形で警察の思い通りに実況見分調書が作成されてしまうケースがほとんどです。可能な限り弁護士が実況見分に立ち会い、事実に反することが記録されないようにします。
【関連ページ】
飲酒運転と懲戒解雇
近年、飲酒運転が職場に発覚し、懲戒解雇などの重い処分を受けるケースが増えています。もし、不相当に重い処分を受けてしまった場合、民事訴訟等によって、処分の有効性を争うことも考えるべきでしょう。
懲戒解雇されてしまった場合は、訴訟によって解雇の有効性を争うとともに、賃金仮払い仮処分を申し立て給与の仮払いを求めることもできます。