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児童福祉法違反とは?児童淫行罪を中心に弁護士がわかりやすく解説
児童福祉法違反は、学校の教師が生徒と性行為をしたり、風俗店で未成年を雇ったときによく問題になる犯罪です。
このページは刑事事件に強い弁護士が児童福祉法違反の要件や処分の傾向、弁護活動について解説しました。ぜひ参考にしてみてください。
児童福祉法の「児童」とは?
児童福祉法の「児童」とは18歳未満の男女のことです。児童ポルノ法や淫行条例と同様の意味になります。
児童福祉法違反-児童淫行罪とは?
児童福祉法には児童に関する様々な犯罪が定められていますが、そのうち最も重い犯罪が児童に淫行をさせる罪(児童淫行罪)です。
【児童福祉法第34条1項】
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条文では「淫行をさせる」となっていますが、第三者に淫行させる場合だけでなく、自分自身が児童と淫行をした場合も含まれます。
以下では児童淫行罪の要件について解説しています。
1.「淫行」とは?
児童淫行罪の「淫行」とは「児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為」をいいます(最高裁平成28年6月21日決定)。
「性交類似行為」とは手淫や口淫をいいます。
児童をもっぱら性欲のはけ口にしているようなケースでは淫行と判断されるでしょう。逆に、真摯な交際関係にあれば、児童と性交等をしても淫行にはあたらないと判断される余地が十分にあります。
2.「淫行をさせる行為」とは?
児童淫行罪の「淫行をさせる行為」とは、「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し、促進する行為」をいいます(最高裁昭和40年4月30日決定)。
具体的には以下の要素を総合考慮して判断されます(最高裁平成28年6月21日決定)。
①行為者と児童の関係
②助長・促進行為の内容
③児童の意思決定に対する影響の程度
④淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯
⑤児童の年齢
⑥その他当該児童の置かれていた具体的状況
このうち最も重要な判断要素は①行為者と児童の関係です。よくある児童淫行罪の行為者として以下の立場の人です。
・学校の教師
・被害者の母の交際相手
・児童相談所の職員
・放課後デイサービスの指導員
*実父や養父などで実際に児童を監護している場合は、監護者性交等や監護者わいせつが問題になります。
児童福祉法違反-児童淫行罪の罰則
1.法定刑
児童淫行罪の罰則は10年以下の懲役または300万円以下の罰金です。「併科」といって懲役と罰金が両方科される場合もあります。
【児童福祉法60条1項】
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2.児童淫行罪で罰金はまずない
児童淫行罪の条文には罰金刑が定められていますが、実際は罰金刑になることはまずありません。起訴されれば正式裁判で審理され、公開の法廷で検察官から懲役刑を請求されることが多いです。
同じく児童を対象とする児童ポルノ法違反や淫行条例違反では、初犯の方がいきなり実刑になることはまずありませんが、児童福祉法違反では初犯でも実刑になることが少なくありません。
執行猶予を獲得するためには、早い段階から児童犯罪に強い弁護士にサポートしてもらった方がよいでしょう。
児童福祉法違反-児童淫行罪の関連犯罪
1.児童買春罪(児童ポルノ法違反)
児童買春罪は18歳未満の児童に対価を払って(または払う約束をして)性交または性交類似行為をすることです。児童買春罪の罰則は5年以下の懲役または300万円以下の罰金です。
2.淫行条例違反
淫行条例違反は18歳未満の児童と性交または性交類似行為をすることです。対価の支払(約束)がないことが児童買春罪との違いです。淫行条例違反の罰則は、ほとんどの自治体で2年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
3.監護者性交等罪
監護者性交罪は、18歳未満の児童を監護する者が、監護者としての影響力を利用して性交・肛門性交・口腔性交をすることです。監護者性交等罪の罰則は懲役5年~懲役20年です。
3.監護者わいせつ罪
監護者わいせつ罪は、18歳未満の児童を監護する者が、監護者としての影響力を利用して性交・肛門性交・口腔性交をすることです。監護者わいせつ罪の罰則は懲役6か月~懲役10年です。
児童福祉法違反のその他の犯罪
児童福祉法では児童淫行罪とならんで次のような行為が犯罪とされています。
【児童福祉法第34条】
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児童淫行罪を除く上記の犯罪の罰則は、3年以下の懲役または100万円以下の罰金です(懲役と罰金の併科あり)。
児童福祉法違反の逮捕率は?
児童淫行罪を含む児童福祉法違反の逮捕率は68%です。
*2021年版の検察統計年報(最新版)から算定しました。このページに記載されている確立はこの統計から算定しています。
逮捕は最長3日しかできませんが、勾留が認められると原則10日にわたって拘束されます。勾留が延長されると最長で20日にわたって拘束されます。
児童福祉法違反で勾留される確率は100%、勾留が延長される確率は87%です。
児童福祉法違反で逮捕されると勾留される確率が極めて高いですが、容疑を認めていれば起訴直後に保釈が許可されるケースも多々あります。
児童福祉法違反の起訴率は?
児童淫行罪を含む児童福祉法違反の起訴率は63%です。起訴された事件のうち17%が略式請求、83%が公判請求されています。
略式請求された場合は略式裁判で罰金になります。公判請求された場合は、公開法廷で審理され、検察官から懲役刑を請求されます。
児童福祉法違反の時効
児童淫行罪の時効は7年です。その他の児童福祉法違反の時効は3年です。
児童福祉法違反と示談
児童福祉法は児童の健全な育成という社会全体の利益を保護する法律です。
強制わいせつ罪のように個人の性的自由を保護しているわけではないので、被害者と示談をしたからといって、不起訴や執行猶予に直結するわけではありません。
もっとも、児童淫行罪の加害者は、被害者に多大な精神的・肉体的苦痛を与えています。その他の児童福祉法違反についても、児童の健全な成長に悪影響を与えています。
そのため、示談という形で被害者側の許しを得れば、処分にあたって有利に考慮されるといえるでしょう。
示談交渉の相手方は児童の保護者になります。児童の保護者は加害者と直接やりとりしたくないと思っていることが多いので、弁護士を通じて交渉することになります。
児童福祉法違反の示談以外の弁護活動
1.クリニックへの通院
児童淫行のケースでは、加害者にクリニックに通院してもらい治療やカウンセリングを受けてもらうことがあります。通院状況を弁護士が検察官や裁判官に説明して不起訴や執行猶予を目指します。
2.家族の監督
再犯をしないよう、家族に本人の生活状況を監督してもらいます。家族に監督プランをまとめた陳述書を作成してもらい弁護士が検察官に提出したり、情状証人として出廷してもらいます。
⇒情状証人とは?尋問の流れや本番で役立つ5つのポイントを解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しました。
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