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刑事事件とは?流れや民事事件との違い
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
刑事事件とは
「刑事事件とは何か」を定義している法律はありません。一般的には、犯罪行為のうち警察や検察等の捜査機関が認知し、捜査に着手した事件のことをいいます。
① 逮捕された
② 家宅捜索された
③ 被疑者として取調べを受けている
このようなケースは全て刑事事件といえるでしょう。現行犯で検挙されたケースを除くと、警察のコンタクトがある前は、刑事事件になっているかどうかは、本人も把握できていないのが通常です。
逮捕や家宅捜索、警察からの出頭要請があってはじめて、自分が刑事事件の被疑者になっていることに気づくことが多いです。
【民事事件との比較】 民事事件は私人間のトラブルです。
「お金を貸したのに返してくれない。」 「夫と離婚したい」 「親族と相続でもめている」
これらが典型的な民事事件です。民事不介入の原則により、警察が純粋な民事事件に介入することはありません。当事者間の話し合いで解決できなければ、裁判所に民事裁判を提起することになります。
被害者がいる刑事事件も、広い意味では被害者・加害者間のトラブルといえ、民事事件になり得ます。 |
刑事事件の当事者は誰か?
被害者がいる事件の場合は、刑事事件の当事者は、①被害者と②被疑者または被告人です。薬物事件やスピード違反など被害者がいない事件の場合は、刑事事件の当事者は被疑者・被告人のみです。
被疑者とは、捜査機関から「犯罪行為をしたのではないか?」と疑われ、捜査を受けている人です。被疑者が起訴されると被告人と呼ばれます。
被疑者や被告人のなかには、罪を認めている人もいれば、「自分はやっていない」と無罪を主張する人もいます
起訴されて刑事裁判になれば、検察官と被告人が裁判の当事者になります。検察官は、被告人が罪を犯したことやふさわしい刑罰について主張・立証活動を行い、国家刑罰権の行使を裁判所に求めます。
誤解されやすいのですが、被害者は刑事裁判の当事者ではありません。被害者も刑事裁判に参加し、意見等を述べることができる場合がありますが、裁判の当事者は被害者ではなく、被告人と検察官です。
判決で罰金が言い渡された場合も、被告人は被害者に支払うのではなく、国に対して支払うことになります。
【民事事件との比較】 刑事事件の被害者は、民事で加害者に損害賠償請求をすることができます。話し合いがまとまらなければ、民事裁判を起こすこともできます。
刑事裁判と異なり、民事裁判では被害者は加害者と並んで当事者となります。すなわち、被害者が原告、加害者が被告になります。民事裁判で被害者が勝訴すれば、加害者は被害者に賠償金を支払うことになります。 |
刑事事件の流れ
1.4つのステップ
刑事事件は、大まかに分けて、次の4つのステップに分けることができます。
① 警察の捜査
② 検察の捜査・処分
③ 刑事裁判
④ 裁判の執行
2.送検
①警察の捜査から②検察の捜査・処分へ移行することを「送検」といいます。刑事事件は原則として送検されます。ただ、万引き等の軽微な事件で一定の条件を満たした場合は、送検されないこともあります。これを微罪処分といいます。
警察は被疑者を逮捕した場合、48時間以内に送検の手続をとるか釈放するかを決めなければなりません。
被疑者を逮捕せず在宅事件として捜査している場合、送検までの時間制限はありません。一般的には最初に警察から連絡があった日から2,3カ月後に送検されることが多いです。複雑な事件の場合は送検まで6ヶ月以上かかることもあります。
逮捕した事件の送検を「身柄送検」、逮捕していない事件の送検を「書類送検」といいます。
逮捕した場合は、被疑者の身柄そのものを検察庁に連行するため身柄送検と呼ばれます。逮捕していない場合は、捜査書類のみを検察官に送りますので、書類送検といいます。
3.起訴
被疑者が起訴されると、②検察の捜査・処分から③刑事裁判のステップに移行します。被疑者を起訴することができるのは検察官のみです。これを検察官の起訴独占主義といいます。
送検されてから検察官が起訴するまでの期間は、被疑者が勾留されているか否かによって異なります。勾留されていれば、最長20日の勾留期間内に起訴するか釈放するかを決めなければいけません。
勾留されていなければ期間制限はありません。一般的には送検されてから、2,3カ月程度で、検察官は起訴するか不起訴にするかを判断します。
被疑者は起訴されると被告人として刑事裁判の当事者になります。裁判の当事者である被告人には、十分な防御活動の機会を保障する必要があります。そこで、起訴後は原則として被告人に対する取調べは実施されません。
送検されたからといって必ず起訴されるわけではありません。全ての刑事事件のうち起訴される事件は40パーセント弱です。それ以外は不起訴処分になります。
不起訴処分には多くの種類がありますが、最も多いのは起訴猶予による不起訴処分です。起訴猶予とは、検察官が刑事裁判で問題なく有罪を立証できるものの、被疑者が反省していることや示談が成立していること等をふまえて、裁量により起訴しないこととする処分です。
被疑者が無罪を主張している場合は、嫌疑不十分により不起訴になることもあります。
被疑者のスタンスは弁護士の活動にも大きな影響を与えます。被疑者が罪を認めているときは、弁護士はまずもって被害者との示談の成立を目指します。一方、被疑者が無罪を主張しているときは、弁護士は、被疑者に黙秘権を行使させ、自白調書をとらせないことに注力します。
4.刑事裁判
起訴されると刑事裁判が始まります(ステップ③)。起訴されてからおおむね1か月半後に初公判が開かれます。軽微な自白事件であれば、審理は初公判1回で終わります。初公判の1,2週間後に判決が言い渡されます。
否認事件であれば、初公判後おおむね1か月に1回のペースで公判が開かれます。複雑な事件では裁判が終了するまで1年以上かかることもあります。
一定の重大犯罪は裁判員裁判で審理されます。
一審の地方裁判所の判決に不服がある場合は、高等裁判所に控訴することができます。高等裁判所の判決にも不服がある場合は、最高裁判所に上告することができます。
【民事事件との比較】 民事事件では、原告が裁判所に訴状を提出することによって民事裁判が始まります。民事裁判の期間はケースバイケースですが、大きな特徴として、「和解によって終了することが多い」という点が挙げられます。
原告・被告がひととおり主張・反論を尽くし、争点が整理できた段階で、裁判官は、原告・被告に和解を打診することが多いです。裁判上の和解が成立すれば、民事裁判は終了します。民事裁判になったケースのうち40パーセント弱が和解で終了します。
これに対して、刑事裁判が和解で終了することはありません。被告人の死亡などの例外的な事情がない限り、判決が下されることになります。 |
5.裁判の執行
有罪判決が確定すると、被告人に対して裁判を執行します。
刑罰の種類は、軽いものから順に、科料、拘留、罰金、禁錮、懲役、死刑です。
*これらに加えて没収が科されることもあります。
科料は1000円以上1万円未満、罰金は1万円以上の財産刑です。
拘留・禁固・懲役は、受刑者を刑事施設に収容する自由刑です。拘留の期間は1日以上30日未満で、懲役・禁錮の期間はいずれも1か月から20年です。無期懲役や無期禁錮は期間の定めなく刑務所に収容されます。
懲役刑や禁錮刑であっても、裁判で執行猶予がつけられると、新たに罪を犯す等して執行猶予が取り消されない限り、その犯罪で刑務所に収容されることはありません。
これらの刑罰を決めるのは裁判所ですが、実際に裁判の執行を指揮するのは検察官です。
そのため、過料や罰金は検察庁に納付します。もし納付できなければ、最終的には検察官の指揮によって労役場に収容されます。懲役刑や禁錮刑を受けた場合も検察官の指揮で収容手続きが行われます。
【民事事件との比較】 民事裁判で勝訴判決を得たにもかかわらず、被告が判決で命じられたお金を払わなかったり、建物の明け渡しをしない場合、原告は裁判所に強制執行を申し立てることができます。強制執行の種類としては、不動産・預金・給与の差し押さえや建物の明け渡し等があります。 |
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