刑事事件の時効

刑事事件の時効について

 

 

 

 

刑事事件の時効は2つ

刑事事件の時効には公訴時効刑の消滅時効の2種類があります。

 

 

公訴時効と刑の消滅時効は適用される場面が異なります。公訴時効は犯罪の結果が発生した日から進行します。これに対して、刑の消滅時効は裁判が確定した日から進行します。

 

 

皆さんがイメージする刑事事件の時効は公訴時効です。まずは公訴時効についてわかりやすく説明していきます。

 

 

公訴時効

1.公訴時効とは

公訴時効とは起訴できるタイムリミットです。公訴時効が過ぎてしまうと、検察官は起訴することができなくなります。そのため、刑事裁判を始めることができず、処罰することもできなくなります。

 

 

犯罪が発生してから長期間が経過すると、証拠を集めることが難しくなり、誤った裁判がなされるおそれがあり可能性が高まります。また、犯罪の社会的影響も小さくなることから、起訴を許さないこととしたのです。

 

 

もし検察官が時効になっていることを見逃して起訴してしまった場合、裁判官は、審理に入ることなく「免訴」という裁判を下します。

 

 

2.時効期間

人を死亡させた罪で最高刑が死刑にあたるもの(殺人、強盗致死など)については時効はありません。以前は時効がありましたが、凶悪犯罪についての国民の厳しい処罰感情をふまえ、2010年に撤廃されました。

 

①人を死亡させた罪で最高刑が死刑にあたる犯罪→時効なし

 

その他の犯罪については、刑罰の程度などに応じて次の10ランクに分けられています。

 

②人を死亡させた罪で禁錮以上の刑にあたるもの(死刑にあたる犯罪を除く)

 

 

最高刑

時効期間

Aランク

無期懲役・無期禁錮

30

Bランク

最長20年の懲役または禁錮

20

Cランク

その他

10

 

ではそれぞれのランクをみていきましょう。

 

Aランク(時効期間30年)の刑事事件

強制わいせつ等致死、強制性交等致死

 

Bランク(時効期間20年)の刑事事件

傷害致死、危険運転致死

 

Cランク(時効期間10年)の刑事事件

過失運転致死、業務上過失致死

 

③<人を死亡させた罪で禁錮以上の刑にあたるもの>以外の犯罪

 

 

最高刑

時効期間

Aランク

死刑

25

Bランク

無期懲役・無期禁錮

15

Cランク

15年以上の懲役・禁錮

10

Dランク

15年未満の懲役・禁錮

Eランク

10年未満の懲役・禁錮

Fランク

5年未満の懲役・禁錮or罰金

Gランク

拘留・科料

 

では、それぞれのランクをみていきましょう。

 

 Aランク(時効期間25年)の刑事事件

現住建造物等放火、外患誘致、

 

Bランク(時効期間15年)の刑事事件

強盗致傷、強盗強姦、強制わいせつ致死傷、強制性交等致死傷

 

Cランク(時効期間10年)の刑事事件                                                                              

強盗、傷害、傷害致死、覚せい剤輸出入

 

Dランク(時効期間年)の刑事事件

窃盗万引きを含む)詐欺業務上横領恐喝覚せい剤使用・所持

 

Eランク(時効期間年)の刑事事件

大麻所持、私文書偽造、酒酔い運転、過失運転致傷

 

Fランク(時効期間年)の刑事事件

痴漢盗撮公然わいせつ住居侵入暴行酒気帯び運転

 

Gランク(時効期間年)の犯罪

軽犯罪法違反

 

 

3.時効直前に逮捕できる?

被疑者を逮捕すると、検察官は約3週間以内に起訴するか釈放するかを決めないといけません。

起訴前の流れ(逮捕・勾留あり)

 

 

そのため、捜査機関は、被疑者を逮捕すると、速やかに供述調書などの証拠を作成しないといけません。ひと通りの証拠をそろえて起訴するまでに、通常、逮捕から2週間程度はかかります。

 

 

そのため、時効の数日前に逮捕しても、証拠を揃えることができず起訴できない可能性が高いです。別の刑事事件の容疑がない限り、時効になる数日前の時点で逮捕される可能性はほぼなくなったと言ってよいでしょう。

 

 

4.起訴すれば時効は関係ない

公訴時効になる直前に被疑者を逮捕しても、時効がくるまでに起訴することは難しいでしょう。逆に、公訴時効になる直前に被疑者を起訴してしまえば、その後、裁判が何年続いたとしても、時効にはなりません。

 

 

刑事事件の時効は、「起訴することができる期間」であって、「(いったん起訴した後に)判決を下すことができる期間」ではないからです。

 

 

刑の消滅時効

1.刑の消滅時効とは

刑の消滅時効とは、確定した判決に基づき刑罰を執行できるタイムリミットです。例えば、懲役3年の実刑判決を受けていたとしても、刑の消滅時効が過ぎてしまうと、刑務所行きにはなりません。

 

 

時の経過とともに国民の処罰感情も緩やかになっていくと考えられることから、刑の消滅時効制度が設けられました。

 

 

刑の消滅時効が問題となるのは、在宅で起訴され実刑判決になった後、逃走したケースであり、実際にはほとんどありません。

 

 

2.6つの時効期間

刑の消滅時効は、裁判所で宣告された刑罰に応じて次の6ランクに分けられています。法定刑の上限が基準となる公訴時効と異なり、裁判で実際に宣告された刑が基準となります。

 

 

宣告された刑罰

時効期間

Aランク

無期懲役・禁錮

30

Bランク

10年以上の懲役・禁錮

20

Cランク

3年以上10年未満の懲役・禁錮

10

Dランク

3年未満の懲役・禁錮

Eランク

罰金

Fランク

拘留・科料・没収

 

 

時効に似た制度-告訴期間

1.告訴期間とは

時効と似た制度として告訴期間があります。

 

 

刑事事件のなかには告訴がなければ起訴できない犯罪があります。このような犯罪を親告罪といいます。親告罪は、告訴期間が過ぎると告訴できなくなります。告訴できないので起訴されることもなく、逮捕されたり家宅捜索されることもありません。

 

 

このように、公訴時効が起訴までのタイムリミットであるのに対し、告訴期間は告訴のタイムリミットになります。

 

 

2.告訴期間は6か月

告訴期間は、犯人を知ったときから6か月です。「犯人を知った」とは、犯人が誰であるかを特定できる程度に知ればよく、氏名・住所等の詳細を知る必要はありません。

 

 

3.告訴期間が適用される犯罪

告訴期間は親告罪に適用されます。

 

 

【親告罪の例】

器物損壊

名誉棄損侮辱罪

親族間でなされた窃盗詐欺、背任、恐喝横領

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しました。