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逮捕状とは?取り下げや却下についても解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
逮捕状とは?
人を逮捕するためには、原則として逮捕状が必要です。逮捕状とは逮捕を許可する令状です。捜査機関の請求を受けて裁判所が発付します。
逮捕は、意思に反して人の身柄を拘束するという点で人権を大きく制約する処分です。そのため、捜査機関が勝手に逮捕することができないよう、逮捕状を出してよいかどうかを裁判所に審査させることにより、不当な逮捕を防ぐ仕組みになっています。
逮捕状は誰が請求するの?
逮捕状を裁判所に請求できるのは検察官と司法警察員です。ほとんどの刑事事件では警察官が逮捕状を請求しています。警察官のうち巡査部長以上の者が司法警察員になりますが、警察官の場合、司法警察員であっても、警部以上級の者でないと逮捕状を請求できません。
階級 | 司法警察員か否か | 逮捕状の請求権 |
警視総監 | 司法警察員 | ○ |
警視監 | 司法警察員 | ○ |
警視長 | 司法警察員 | ○ |
警視正 | 司法警察員 | ○ |
警視 | 司法警察員 | ○ |
警部 | 司法警察員 | ○ |
巡査部長 | 司法警察員 | × |
巡査 | 司法巡査 | × |
逮捕状はどうやって請求するの?
逮捕状の請求は、逮捕状請求書という書面を裁判所に提出することによってします。逮捕状の請求にあたっては、逮捕状請求書だけではなく、逮捕の理由や必要があることを裏づける資料を提出しなければいけません。
【資料の例】
・被害届
・防犯カメラの映像をまとめた捜査報告書
・目撃者の供述調書
これらの添付資料だけで、電話帳より分厚くなることも少なくありません。通常は、実際に捜査を担当した警察官が、逮捕状請求書と裏づけ資料を裁判所の令状部に提出して、逮捕状を請求します。
裁判官に対して、逮捕の必要性があること等を口頭で説明することもあります。裁判所には、令状を請求しにきた警察官のためのスペースがあり、そこで警察官が待機しています。
逮捕状請求の取下げはできる?
逮捕状請求は取り下げることができます。
裁判官は、確認したいことがあれば、逮捕状の請求者に裁判所へ来るよう求めることができます。裁判官が、逮捕状の請求者から話を聞いても、逮捕の理由や必要性がないと判断した場合は、請求者に対して、「ちょっと難しいですね。」等と心証を開示することがあります。
逮捕状の請求者も裁判官と話をするなかで、「無理かもしれない」と判断することがあります。そのようなケースでは、自発的に逮捕状の請求を取り下げることがあります。
逮捕状の取下げ率や却下率は?
2017年に逮捕状が請求された数は全部で8万6343件です。このうち逮捕状請求が取り下げられたケースは1212件、却下されたケースは31件にとどまります。
逮捕状請求 | 件数 | 割合 |
許可 | 8万5100件 | 98.56% |
取り下げ | 1212件 | 1.4% |
却下 | 31件 | 0.04% |
| 8万6343件 |
|
却下率はわずか0.04%(1万件に4件)です。
逮捕状の請求は秘密裡に行われるので、被疑者や弁護士が逮捕状の発付を阻止する手立てがないということになります。結果として、ほとんどの逮捕状請求が認められているのが現状です。
逮捕状には何が書かれているの?
逮捕状には次の事項が記載されています。
①被疑者を特定する事項
被疑者の氏名、年齢、職業、住所
②犯罪を特定する事項
罪名、被疑事実の要旨
③その他
・逮捕状発付の年月日
・有効期間
・連行する警察署
逮捕状には裁判官が記名・押印しないといけません。たまに、裁判官が押印を忘れたまま逮捕状が出され、警察もそのことに気づかず、被疑者を逮捕してしまうことがあります。
押印がない逮捕状は無効ですので、押印がないことが発覚した時点で被疑者をすぐに釈放しなければいけません。実務でもそのように運用されています。緊急逮捕の要件を満たす場合は、釈放後に改めて緊急逮捕することになります。
逮捕状の有効期間は?
逮捕状には有効期間があります。有効期間を過ぎると逮捕状は失効しますので、その逮捕状によって被疑者を逮捕することはできません。有効期間が過ぎた逮捕状は、裁判所に返さないといけません。
逮捕状の有効期間は原則7日です。逮捕状が出された初日は有効期間にカウントされません。
被疑者が逃亡していて有効期間内に逮捕状を執行できない場合は、改めて逮捕状を請求することになります。2回目の逮捕状では有効期間が1か月、3回目以降は有効期間が3か月に延長されることが多いです。
国外逃亡している場合は、6ヶ月の有効期間が認められることもあります。
逮捕状が出ると必ず逮捕されるの?
逮捕状が出されたとしても、必ず逮捕されるわけではありません。その後の事情により逮捕の必要がなくなったときは、逮捕せず在宅のまま捜査します。この場合、逮捕状は有効期間内であっても、直ちに裁判官に返還しなければいけません。
逮捕状はどうやって執行するの?
逮捕状によって被疑者を逮捕するためには、逮捕状を被疑者に示さないといけません。容疑の概要を被疑者がわかる程度に呈示すれば足り、逮捕状を読ませる必要まではありません。
呈示のタイミングは逮捕前が原則ですが、被疑者が逃げたり抵抗するときは、逮捕と同時でもよいとされています。
逮捕状の緊急執行とは?
1個の逮捕状で全国的に指名手配しているケース等で、被疑者をみつけた捜査員が逮捕状をもっていない場合は、次の2つの事実を告げれば、逮捕状を示さないでも逮捕することができます。
【告げるべき事実】
①逮捕状が出ていること
②被疑事実の要旨
これを逮捕状の緊急執行といいます。この場合でも逮捕状はできる限り速やかに呈示しないといけません。
逮捕状が出ていることを知ることができる?
逮捕状が出ていることを事前に知ることはできません。警察から事前に「あなたに逮捕状が出ています」と連絡がくることはありませんし、自分から警察に問いあわせても絶対に教えてくれません。
そもそも警察が逮捕状を請求するのは、「この被疑者は逃げたり証拠を隠滅する可能性が高い」と判断したからです。逮捕状を出ていることを本人に知らせると、逃げられたり証拠を隠されてしまい、逮捕状をとった意味がなくなってしまいます。
ただ、刑事事件の経験豊富な弁護士であれば逮捕状が出ているかどうかをある程度は推測することができます。詳しくは以下のページをご覧ください。
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