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礼拝所不敬罪とは?構成要件や判例について弁護士が解説
長崎の原爆追悼施設である原子爆弾無縁死没者追悼祈念堂で焼肉をしたとして、52歳の男性が礼拝所不敬罪で逮捕されました。ニュースを見て「礼拝所不敬罪ってなんだろう?」と思われた方がいるかもしれません。
このページでは刑事事件に詳しい弁護士が礼拝所不敬罪の罰則や要件、判例について解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
礼拝所不敬罪とは
礼拝所不敬罪とは、神祠(しんし)、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をすることです(188条1項)。
礼拝所不敬罪は、一般の宗教感情を保護することを目的としており、宗教そのものや特定の宗教のみを保護しているわけではありません。そのため、信教の自由(憲法20条)には反しないとされています。
礼拝所不敬罪の罰則
礼拝所不敬罪の罰則は、以下のいずれかとなります。
①6か月以下の懲役
②6か月以下の禁固
③10万円以下の罰金
初犯の場合は、略式裁判で罰金になることが多いです。
⇒略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説
礼拝所不敬罪の時効
礼拝所不敬罪の時効は3年です。
礼拝所不敬罪の構成要件
犯罪が成立する要件を構成要件といいます。礼拝所不敬罪の構成要件は次のとおりです。
1.神祠
神祠(しんし)とは神道により神を祭った場所のことです。社務所や厨房(庫裡)は神を祭った場所ではないため、神祠ではありません。
2.仏堂
仏堂とは仏教の寺院や礼拝所のことです。仏教であれば宗派は問いません。寺務所は事務スペースのため仏堂にはあたりません。
3.墓所
墓所とは死体や遺骨、遺品が埋葬されているお墓のことです。墓石があっても、これらの物が埋葬されていなければ墓所にはあたりません。
4.その他の礼拝所
神祠、仏堂、墓所以外で、多くの人が神聖視し宗教的な尊崇の念を持つ場所です。宗旨は問いません。
【具体例】
ひめゆりの塔
道ばたの地蔵
しめなわをした神木
引き取り手のない原爆犠牲者の遺骨を納めた原子爆弾無縁死没者追悼祈念堂も、一般人が宗教的な崇敬の念を抱く場所であるため、「その他の礼拝所」にあたります。
なお、男根などを祭った性器崇拝の施設は、広く一般公衆が崇敬の念を持っているとはいえないため、「その他の礼拝所」にはあたらないとされています。
5.公然
「公然」とは不特定多数が認識することができる状態のことです。そのような状態であれば、実際に不特定多数に認識されていなくても公然性の要件を満たします。
原子爆弾無縁死没者追悼祈念堂は、24時間、誰でも中に立ち入ることができるため、不敬行為をしたときに、犯人以外に誰もいなくても公然性の要件を満たしています。
6.不敬な行為
不敬な行為とは、一般人の宗教感情を害し、神聖を汚す行為のことです。単に礼拝をしないというだけでは不敬な行為にはあたりません。
【具体例】
・仏像に落書きをする
・ご神体に汚物を投げつける
・仏殿に土足で上がりこむ
・墓石を押し倒す
原子爆弾無縁死没者追悼祈念堂で焼肉をすることも、死者に対する尊崇の念を害し神聖を汚す行為といえ、不敬な行為にあたるといえるでしょう。
礼拝所不敬罪の判例
1.墓所に向かって放尿するような姿勢をとった事件
被告人が他人の墓所の入口で、A一家に対する悪感情を示すために、「小便でもひっかけてやれ。」等といいながら放尿する姿勢をとったが、実際に放尿はしなかった事件。
裁判所は、実際に放尿していなくても、放尿するかのような姿勢をとること自体、それを見る者に墓所に対する崇敬の念に著しく反する思いを与えるものであるとして、礼拝所不敬罪の成立を認めた(東京高裁昭和27年8月5日判決)。
2.深夜2時ごろ墓碑を押し倒した事件
岡山県の共同墓地で、深夜2時頃、ほか2名と共謀して多数の墓碑等を押し倒した事件。弁護人は深夜2時で通行人は誰もいなかったため、公然性に欠けるとして無罪を主張した。
裁判所は、県道につながる村道近くの墓地で、近隣に他人の住居も散在していたことから、たまたま深夜2時に行われたもので通行人がいなくても、なお公然性の要件を満たすとして、礼拝所不敬罪の成立を認めた(最高裁昭和43年6月5日決定)。
このページは弁護士 楠 洋一郎がが執筆しています。
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