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痴漢冤罪に強い弁護士-釈放・無罪・不起訴について
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
痴漢冤罪-事件直後に認めない!
痴漢冤罪に巻き込まれた場合、事件直後の本人の言動が裁判になったときに大きな意味をもちます。痴漢をしていないのであれば、現場から逃げたり、相手に謝罪したり、その場で示談の申入れをすることはご法度です。
そのようなことをすれば、後の刑事裁判で無罪を主張しても、検察官から「痴漢をしていないんだったらなぜ逃げたんですか?」、「なぜ謝ったんですか?」、「なぜ示談を申し入れたんですか?」等と追及され、裁判官にも「被告人の供述は信用できない。」と判断されてしまいます。
痴漢をしていないのであれば、その場で毅然と「やっていない。」と言うべきです。
痴漢冤罪でも早期釈放を目指すべき
一昔前は、痴漢冤罪を主張して容疑を否認した場合、長期の勾留を覚悟しなければなりませんでした。
しかし、近年は、裁判官も「客観的な証拠が乏しい」、「被害者の思いこみで犯人と決めつけられた場合に効果的な反論が難しい」という痴漢事件の特質に目を向けるようになっており、逮捕されても勾留されない運用が定着しつつあります。
否認しているからとって釈放をあきらめる必要はありません。一日も早い釈放を目指すべきです。
痴漢冤罪の裁判-当事者の供述がポイントになる
満員電車内の痴漢事件では、当事者の供述以外に証拠がないことが多いです。最近では電車内にも防犯カメラが設置されるようになりましたが、混み合っている電車内で痴漢している瞬間が写っていることはめったにありません。
そのため、痴漢冤罪の裁判では、「被告人の言っていることと被害者の言っていることのどちらが信用できるか」がポイントになります。
痴漢冤罪の裁判-被害者の証人尋問がメインになる
1.被害者の供述調書は証拠にならない
刑事裁判になれば、検察官は被害者の供述調書を証拠として提出しようとします。
もっとも、供述調書に書かれている内容が正しいとは限りません。誤った内容の調書が裁判の証拠とされれば、まさに冤罪になってしまいます。
そのため、供述調書は弁護人の同意がなければ原則として裁判の証拠にすることはできません。このルールを伝聞法則といいます。
被害者の供述調書は捜査機関にとって都合のよい内容になっています。そのため、弁護士は被害者の調書について不同意の意見を述べます。その結果、検察官は被害者の調書を証拠として提出できなくなります。
2.被害者の証人尋問が実施される
弁護士が被害者の供述調書を不同意にすると、検察官は被害者自身の証人尋問を請求します。証人尋問に対して弁護士が不同意の意見を述べることはできません。証人として出廷すれば、弁護士が反対尋問をすることによって証言の信用性をチェックできるからです。
被害者の証人尋問では、まず検察官が主尋問を行い、その後に弁護士の反対尋問⇒裁判官の補充尋問が行われます。
弁護士の反対尋問によって被害者の言っていることが不自然・不合理であることを明らかにできれば、被害者の証言が信用できないということになり、無罪をとれる可能性が高まります。
3.被害者の証言の信用性はこうして判断される
被害者の供述の信用性は次の観点から判断されます。
① 客観的な証拠や状況との整合性
② 証言の一貫性
③ 証言の具体性や迫真性
最も重要な指標は客観的な証拠や状況との整合性です。例えば、被害者と被告人の体格を前提として、被害者が言っている位置関係で、被害者が言っている仕方で、被告人が被害者に触れることができない場合は、信用性はないということになります。
被害者の証言が客観的な状況と矛盾することを示すために再現実験を行うこともあります。
証言の一貫性については、被害者が法廷で証言していることと供述調書の内容が異なっているか否かが問題になります。
細かい部分について多少違いがあったとしても信用性に影響はありませんが、「どのように痴漢されたか」等の中核的な部分について大きな違いがある場合は、信用性が低下します。
証言の具体性や迫真性は、被害者の証言が通り一遍の内容ではなく、痴漢被害を受けた体験者にしか語れないような詳細に及んでいるか否かで判断されます。
ただ、具体性や迫真性はあいまいな概念であり明確な基準がないため、①や②の指標の方が重視されます。
痴漢冤罪の裁判-被告人質問もメインになる
1.被告人の供述調書は証拠になる?
伝聞法則により、供述調書は弁護士の同意がない限り裁判の証拠とすることができません。
もっとも、被告人の供述調書については例外があります(伝聞例外)。すなわち、被告人が自分にとって不利益な事実を自白した調書については、その自白が任意にされたものでない疑いがない限り、証拠とすることができます。
【刑事訴訟法】
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「任意にされたものでない疑いがある自白」の例として、強制・拷問・脅迫による自白や不当に長い拘束下でなされた自白が挙げられます。
もっとも、現在では、そのような状況で取調べが行われることはめったにありません。つまり、痴漢したことを認める自白調書がとられると、それが裁判の証拠になることを阻止するのは難しいということになります。
自白調書が証拠になってしまうと、被告人が法廷で何を言っても、検察官から「ではなぜ取調べで痴漢したことを認めたんですか?」と突っ込まれ、裁判官にも信用してもらえず、無罪を獲得することが非常に難しくなります。
2.被告人質問で信用性が問われる
痴漢冤罪の裁判では被告人質問が実施され、「被告人の言っていることが信用できるか否か」が吟味されます。被告人の供述の信用性についても、被害者の証言と同じく以下の指標から判断されます。
①客観的な証拠や状況との整合性
②供述の一貫性
③供述の具体性や迫真性
被告人質問は弁護士の主質問⇒検察官の反対質問⇒裁判官の補充質問という順番で実施されます。被告人には黙秘権があるため、検察官の反対質問や裁判官の補充質問に対して黙秘することもできます。
黙秘したからといって「やましいことがあるから黙秘したんだろう。」と判断されることはありません。そのように判断されるのであれば、黙秘権を保障した意味がなくなるからです。
被告人質問では、経験豊富な検察官にやり込められて一気に有罪方向に傾くことが多いため、検察側の反対尋問に対しては全て黙秘するという方針も考えられます。
痴漢冤罪-最高裁の無罪判決をふまえて弁護活動を行う
1.痴漢の被害者証言の特徴
上で説明したように被害者の証言の信用性は、①客観的な証拠や状況との整合性、②証言の一貫性、③具体性や迫真性によって判断されます。
もっとも、痴漢は満員電車内で近くにいた乗客から身体を短時間触られるという単純な事件が多く、普通の能力を備えた者がその気になれば、このような基準を満たす供述をすることは難しくありません。
検察官も事前に被害者と入念なリハーサルを行い、上記の基準を満たすように証言を整えます。そのため、法廷での被害者の証言は、表面的には①~③の基準を満たしていることが多く、弁護士が反対尋問で崩すことは容易ではありません。
2.最高裁の無罪判決
満員電車内の痴漢事件は、被害者の思い込み等により被害申告がされて犯人と指摘された場合、その者が有効な防御を行うことは容易ではないという特質があります。
痴漢冤罪の裁判で、最高裁は上記のような特質をふまえ、次のような事情があるときは、被害者の供述の信用性判断は特に慎重に行う必要があると判示しました(最判平成21年4月14日)。
【最高裁が指摘した事情】
☑ 被害者の証言以外に痴漢をしたことの証拠がない
☑ 被告人が捜査段階から一貫して否認している
☑ 被告人は本件当時60歳であったが前科・前歴はない
☑ 被告人が痴漢をする性向をうかがわせる事情が記録上見当たらない
その上で、被害者証言について以下の点を指摘し、その信用性にはなお疑いが残るとして、無罪判決を下しました。
【最高裁が指摘した被害者証言】
☑ 被害者が述べる痴漢被害は、相当に執拗かつ強度なものであるにもかかわらず、被害者は車内で積極的な回避行動をとっていない
☑ そのことと被害者の被告人に対する積極的な糾弾行為が必ずしもそぐわない
☑ 被害者が、成城学園前駅でいったん下車しながら、車両を替えることなく、再び被告人のそばに乗車しているのは不自然である
弁護士としては、このような最高裁のフレームワークを十分に意識した上で、上記のような事情をできるだけ多く指摘すべきです。
痴漢冤罪の取調べにどう対応すればいい?
痴漢したことを認める自白調書をとられると、裁判になったときにその調書が証拠として提出されるため、無罪を獲得することが非常に困難になります。
だからこそ、検察官も自白調書があれば、「起訴しても有罪に持ち込める」と判断し起訴してくる可能性が高くなりますし、取調べの際も被疑者にプレッシャーをかけて何とかして自白調書をとろうとしてきます。
逆に自白調書をとれなければ、検察官が「公判を維持できない」と考え、嫌疑不十分で不起訴にすることもあります。不起訴になれば刑事裁判にかけられないので、早期に刑事手続から解放されます。前科がつくこともありません。
痴漢冤罪を主張する場合、取調官のプレッシャーに屈することなく否認を続け、自白調書をとらせないことが最大のポイントになります。
弁護士が被疑者にひんぱんに接見したり、取調べに同行して自白調書をとられないようサポートします。
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