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監護者わいせつ・監護者性交等とは?罰則や事件の流れ、弁護活動について
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
監護者わいせつとは
犯罪が成立するための要件を構成要件といいます。監護者わいせつ罪の構成要件は次の4つです。
①18歳未満の者に対して
②その者を現に監護する者が
③監護者としての影響力を利用して
④姦淫、肛門性交、口腔性交以外のわいせつな行為をすること。
監護者性交等とは
監護者性交等罪の構成要件は次の4つです。
①18歳未満の者に対して
②その者を現に監護する者が
③監護者としての影響力を利用して
④姦淫、肛門性交、口腔性交をすること
監護者わいせつ・監護者性交等の罰則
監護者わいせつの刑罰…懲役6か月~10年
監護者性交等の刑罰…懲役5年~20年
監護者わいせつ・監護者性交等の時効
監護者わいせつの時効…7年
監護者性交等の時効…10年
監護者わいせつ・監護者性交等と告訴
監護者わいせつ・監護者性交等のいずれも起訴にあたって被害者の告訴は必要とされていません。
監護者わいせつ・監護者性交等が新設された理由
監護者わいせつ罪と監護者性交等罪は、2017年の刑法改正によって、新たに設けられた犯罪です。
以前から、親や養親などの監護者が家庭内で被監護者に対して性加害をする事件が問題になっていました。13歳未満の被監護者に対して性的行為をすれば、たとえ被監護者の同意があっても強制わいせつ罪や強制性交等罪が成立します。
これに対して、被監護者が13歳以上の場合、被監護者の同意があれば、強制わいせつ罪や強制性交等罪は成立しません。
13歳以上の者に対する強制わいせつ罪や強制性交等罪は、暴行・脅迫を手段とする場合しか成立しないのです。
そのため、監護者による13歳以上の被監護者に対する性犯罪は、児童福祉法違反で処罰されていました。児童福祉法違反の罰則は10年以下の懲役または300万円以下の罰金です(両方科される場合もあります)。
しかし、監護者による性加害は、強制わいせつや強制性交等と同程度に悪質であるといえるため、新たに監護者わいせつ罪と監護者性交等罪が定められ、刑罰についても、強制わいせつ・強制性交等罪と同じになりました。
監護者わいせつ・監護者性交等は同意があっても関係ない
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は、暴行・脅迫が要件とされていません。そのため、暴行や脅迫がなくても、さらには相手の同意があっても、他の要件を満たしている限り、これらの犯罪が成立します。
精神的に未熟な18歳未満の被害者に対して、監護者が自らの影響力を利用して性的な行為をした場合、被害者がそれに同意していたとしても、自由な意思決定に基づくものとはいえないからです。
監護者わいせつ・監護者性交等の「監護者」とは
監護者とは18歳未満の者を現に保護・監督している者です。監護者にあたるかどうかは、法律で監護権が認められているか否かではなく、事実上、保護・監督しているかどうかで判断されます。
具体的には、同居の有無、日常の指導状況、身の回りの世話などの生活状況、生活費・教育費の出所などから判断されます。
典型的な監護者は児童と一緒に生活している実の親です。児童の母と結婚して児童と養子縁組をした養父や、児童の母のパートナーとして同居して世話をしている男性も監護者とみなされることがあります。
学校の教師やクラブのコーチ、養護施設の職員などは特定の場面で児童を保護・監督していますが、親と同程度に物心両面で全面的に保護・監督しているわけではないため、通常は、監護者にはあたりません。
たとえ監護者に該当しなくても、18歳未満の児童に対して影響力を行使し得るものが、性的行為を行った場合は、児童福祉法違反(10年以下の懲役または100万円以下の罰金、両方科される場合あり)が成立する余地があります。
監護者わいせつ・監護者性交等と児童相談所
監護者わいせつ・監護者性交等は、監護者から性的被害を受けた被害者が、学校の先生等に訴え出ることによって明るみになります。
被害者から状況を聞いた学校は、児童相談所に通報します。被害者はその日のうちに児童相談所に一時保護され、少なくとも2か月近くは自宅には帰されないのが通常です。
一時保護した当日に児童相談所は加害者である監護者または他の監護者に連絡し、児童相談所に来てもらい、一時保護したことを通知します。
その後、監護者は何度か児童相談所の呼び出しを受け、担当者から監護の状況や被害者の成育歴についてヒアリングされます。
監護者わいせつ・監護者性交等と逮捕・勾留
事件を認知した児童相談所は、警察との協定に基づき、性的虐待事案として警察に告発し、警察の捜査が始まります。監護者わいせつ・監護者性交等の被疑者は、逮捕・勾留される可能性が高いです。
被疑者は監護者として被害者に対して強い影響力をもっています。そのため、警察としては、被疑者を逮捕・勾留しないと被害者に接触し、自分に不利なことを言わないように圧力をかけるおそれがあると考えます。
逮捕は3日しかできませんが、勾留されると原則10日にわたって拘束されます。勾留が延長されるとさらに最長10日にわたって拘束が続きます。
監護者わいせつや監護者性交等のケースでは、長期間にわたって性加害が繰り返されていることが多いため、捜査に時間がかかるとして勾留が延長されることが多いです。
監護者わいせつ・監護者性交等と不起訴
1.不起訴率
監護者わいせつの不起訴率は45%、不起訴のうち起訴猶予が40%、嫌疑不十分が60%です。
*2021年版検察統計年報から算定しました(以下同じ)。
監護者性交等の不起訴率は27%です。不起訴のうち起訴猶予が43%、嫌疑不十分が57%です。
2.嫌疑不十分での不起訴を獲得するために
監護者わいせつ・監護者性交等ともに、嫌疑不十分が不起訴の半数を超えているのが特徴です。被監護者は若年で思い込みや被暗示性が強く、供述の信用性が十分に担保できないのが理由と思われます。
嫌疑不十分を目指すのであれば、取調官に不利な調書をとられないようにすることが必須です。逮捕直後から弁護士が接見し、取調官のプレッシャーに屈しないよう本人をサポートします。
3.起訴猶予での不起訴を獲得するために
起訴猶予になるのは「大事にしたくない」という被害者や近親者の意思によるところが大きいと思われます。
監護者わいせつ・監護者性交等で逮捕・勾留された場合は、仮に不起訴になったとしても、これまでのように被害者と同居して生活することは難しいと思われます。
弁護士が近親者や関係者との間で、被害者が安心できる環境をどのように築いていけばよいのかを協議し、刑事裁判とは異なる選択肢もあることをご提案します。その過程で示談をすることもあります。
監護者わいせつ・監護者性交等と起訴
1.起訴後の流れ
起訴されれば、保釈が許可されるまで勾留が続きます。保釈が認められるためには、両親等の家族に身元引受人になってもらい、保釈後は身元引受人と同居することが必要になるでしょう。
保釈されても被害者へ接触しないということを裁判官にどこまで納得してもらえるかがポイントになります。
監護者わいせつ・監護者性交等のケースでは、性加害が何度も行われていることが多いですが、起訴されるのは最も立証しやすい直近の1件になることが多いです。
起訴されれば2か月以内に初公判が実施され、争いがなければ初公判の1、2週間後に判決が言い渡されることが多いです。争いがあれば、判決まで半年程度かかることが多いです。
2.起訴後の弁護活動
①被害者供述の一部を不同意にする
監護者わいせつ・監護者性交等のケースでは、性加害の内容について、被害者の言っていることの一部が事実でないことがあります。
被害者の供述調書を検討し、もし事実でないことがあれば、刑事裁判で弁護士がその部分について証拠とすることに同意しない旨の意見を述べます。
弁護士が同意しなければ、検察官は不同意部分をマスキングして証拠として提出しますので、裁判官はその部分を見ずに事実を認定することになります。
ただ、不同意部分が多すぎると、検察官は被害者の証人尋問を請求します。
監護者から性加害を受けた被害者が、法廷でそれについて証言を余儀なくされるのは、被害者の心身にとって大きな負担になりますので、どの部分を不同意にするかは弁護士とも協議した上で慎重に判断します。
②被害者の環境調整を行う
執行猶予を獲得するためには、被害者が安心して生活できる環境作りに協力することが必要です。
環境調整については起訴前から行うべきですが、逮捕されてから起訴されるまでの約3週間しかなく、その間に環境調整を行うのは容易ではありません。
起訴後も引き続き、被害者の近親者や関係者と連絡をとりあって環境調整を行い、必要であれば示談という形で金銭面でのサポートを行います。
通常の性犯罪と異なり、示談ありきではなく、まずは被害者の環境調整に努め、そのための手段として示談を行います。
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