強制わいせつ罪とは?要件や逮捕後の流れなど「知りたいこと」を全解説

不同意わいせつ罪を定めた改正刑法が令和5年(2023年)7月13日に施行されました。

 

 

不同意わいせつ罪とは、従来の強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が統合された犯罪で、同意のない状況でのわいせつ行為を処罰しています。

 

 

2023年7月13日以降にわいせつ行為をした場合は、強制わいせつ罪ではなく不同意わいせつ罪の成否が問題になります。不同意わいせつ罪の要件や逮捕率、逮捕後の流れ等については以下のページで解説しています。

不同意わいせつ罪とは?刑法改正でどう変わる?弁護士が解説

 

 

2023年7月12日以前にわいせつ行為をした場合は、不同意わいせつ罪ではなく強制わいせつ罪の成否が問題になります。

 

 

そのため、このページでは、「2023年7月12日以前にわいせつ行為した方またはその容疑をかけられている方」を対象として、強制わいせつ罪について解説しています。

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しました。

 

 

 

強制わいせつ罪の刑罰

強制わいせつ罪の刑罰は6ヶ月以上10年以下の懲役です。強制わいせつ罪で起訴されれば公開法廷で審理され、検察官から懲役刑を請求されることになります。第一審の判決は次のいずれかになります。

 

 

強制わいせつ罪の要件

強制わいせつ罪の要件は相手の年齢によって異なります。 

 

1.相手が13歳以上の場合

相手が13歳以上の場合、強制わいせつ罪の要件は、相手に対して、暴行または脅迫を用いて、わいせつな行為をすることです。

 

2.相手が13歳未満の場合

相手が13歳未満の場合、強制わいせつ罪の要件は、相手に対してわいせつな行為をすることのみです。暴行や脅迫は要件とされていません。

 

 

たとえ相手の同意があったとしても、わいせつな行為をするだけで強制わいせつ罪になります。13歳未満の男女は、そもそも性的な行為の意味を理解できず、有効な同意をする能力がないと考えられるからです。

 

強制わいせつ罪の「暴行」とは?

強制わいせつ事件で最もよくあるケースは、13歳以上の女性に対して暴行を用いてわいせつな行為をすることです。暴行の程度については、わいせつ行為を行うのに必要な程度であれば足りるとされています。

 

 

強制性交等罪の手段としての暴行は、被害者の反抗を著しく困難にする程度である必要がありますが、強制わいせつ罪の暴行については、そこまでは求められていません。

 

 

典型的な暴行は殴ったり蹴ったりすることです。体を押さえたり、服を引っ張る行為も暴行になります。

 

 

<暴行⇒わいせつ行為>と常に2回の行為が必要となるわけではなく、暴行それ自体がわいせつ行為に該当してもよいとされています(暴行=わいせつ行為)。

 

 

【暴行がわいせつ行為になる例】

①いきなり強い力でキスをする

②満員電車内で突然胸をもむ

 

強制わいせつ罪の「脅迫」とは?

強制わいせつ罪の要件となる「脅迫」とは、相手を怖がらせる目的で害悪を告知することです。「言う通りにしないと殺すぞ」と言って怖がらせるのは脅迫にあたります。

 

 

脅迫の程度については、わいせつ行為を行うのに必要な程度であれば足り、強制性交等罪のように、被害者の反抗を著しく困難にする程度である必要はないとされています。

 

 

強制わいせつ罪の「わいせつ」とは?

強制わいせつの「わいせつ」行為とは、性欲を刺激・興奮させ、人の性的な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為のことです。どのような行為が強制わいせつの「わいせつ」行為になるのか、具体的にみていきましょう。

 

【具体例】

キスをする

唇にキスをした場合は強制わいせつ罪の「わいせつ」行為にあたります。頬や腕にごく一瞬キスしたような場合は、強制わいせつ罪ではなく、迷惑防止条例違反や暴行罪として扱われることが多いです。

 

 

抱きしめる

一瞬抱きよせるだけであれば強制わいせつ罪の「わいせつ」行為とまではいえず、暴行罪や迷惑防止条例違反として扱われることが多いです。強い力で継続して抱きしめた場合は、強制わいせつ罪の「わいせつ」行為にあたります。

 

胸を触る

胸をわしづかみにしたり、もんだり、ブラジャーの中に手を入れて素肌を直接触った場合は強制わいせつ罪の「わいせつ」行為にあたります。

 

 

すれ違いざまに服の上から一瞬触ったり、電車内で服の上から掌を当てたときは、強制わいせつ罪ではなく、迷惑防止条例違反として扱われることが多いです。

 

陰部を触る

下着の中に手を入れて触った場合は、強制わいせつ罪の「わいせつ」行為にあたります。服の上から股間に手を当てた場合は迷惑防止条例違反として扱われることが多いです。

 

 

膣に指や物を入れる行為は、2023年7月12日以前は、「わいせつ行為」にあたり強制わいせつ罪になっていましたが、7月13日以降は、「性交等」にあたり、不同意性交等罪になります。

⇒不同意性交等罪とは?

 

陰茎を押しあてる

陰茎を押し当てる行為は迷惑防止条例違反として扱われることが多いですが、強い力で持続的に押し当てた場合、強制わいせつ罪の「わいせつ」行為と評価されることがあります。

 

 

満員電車の中で被害者の手をとって自己の陰部を触らせることも「わいせつ」行為に該当します。

 

口淫させる

口淫させることは、強制わいせつ罪の「わいせつ行為」ではなく、より重い強制性交等罪の「口腔性交」に該当します。

 

肛門に陰茎を挿入する

肛門に陰茎を挿入することは、強制わいせつ罪の「わいせつ行為」ではなく、より重い強制性交等罪の「肛門性交」に該当します。

 

 

肛門に指や物を入れる行為は、2023年7月12日以前は、「わいせつ行為」にあたり強制わいせつ罪になっていましたが、7月13日以降は、「性交等」にあたり、不同意性交等罪になります。

⇒不同意性交等罪とは?

 

 

強制わいせつになるか否か微妙なケースもありますので、詳細は刑事事件に詳しい弁護士にご相談ください。

 

 

強制わいせつ罪と告訴

強制わいせつ罪で起訴するためには被害者の告訴が必要でしたが(親告罪)、改正刑法が施行された2017年7月13日から、告訴がなくても起訴できるようになりました(非親告罪)。

 

 

施行日より前に生じた強制わいせつ事件についても告訴が不要とされました。

 

強制わいせつ罪の時効

刑事事件の時効を公訴時効といいます。強制わいせつ罪の公訴時効は7年です。公訴時効が経過すると起訴できなくなるので、逮捕されることもありません。

 

 

犯行現場に指紋や精液等が残されている場合、何年もたった後に別の刑事事件を起こして検挙されると、指紋やDNAを照合することにより犯人として特定され、逮捕されることがあります。

 

 

強制わいせつ致死傷罪とは?

強制わいせつ罪または強制わいせつ未遂罪を犯し、それによって相手を負傷させた場合は、強制わいせつ致傷罪が成立します。相手を死亡させた場合は強制わいせつ致死罪が成立します。

 

 

刑罰はいずれも無期懲役または懲役3年から20年です。強制わいせつ致死傷罪で起訴されたら、裁判員裁判で審理されることになります。強制わいせつ致傷罪の時効は20年、強制わいせつ致死罪の時効は30年です。

 

 

強制わいせつ罪で逮捕された後の流れ

強制わいせつ罪で逮捕されたら、検察官の勾留請求⇒裁判官の勾留質問を経て、3日以内に勾留されるか釈放されるかが決まります。

 

 

勾留されたら原則10日、延長されたら最長20日にわたって勾留されます。検察官は最長20日の勾留期間内に被疑者を起訴するか釈放するかを決めなければなりません。

起訴前の流れ(逮捕・勾留あり)

 

 

起訴されれば刑事裁判が始まります。起訴事実を認めていれば一審である地方裁判所の判決まで2か月程度で終わることが多いです。否認している場合は、判決まで6か月以上かかることが多いです。

刑事裁判の流れ

 

強制わいせつ罪の逮捕率は?

2022年に刑事事件になった強制わいせつのうち、被疑者が逮捕されたケースは55%です。強制わいせつ罪で逮捕された後、勾留されたケースは93%です。

 

 

勾留期間は原則10日ですが、さらに最長10日の限度で延長できます。勾留が延長されたケースは87%です。

 

*上記の強制わいせつ罪には強制わいせつ致死傷罪、監護者わいせつ(致死傷罪)も含まれます。

*本ページの数値は2022年検察統計年報に基づいています。

 

強制わいせつ罪の起訴率は?

強制わいせつ罪で2022年に起訴されたケースは32%とそれほど高くありません。

 

 

2017年7月13日から起訴にあたって告訴が不要とされました。それに伴い、「告訴なし」を理由とする不起訴がなくなったかわりに、起訴猶予での不起訴が9%(2016年)から48%(2022年)に激増しました。

不起訴とは?無罪との違いや前歴・罰金との関係

 

 

その結果、2022年の起訴率(32%)は2016年(39%)より逆に低くなりました。

 

 

強制わいせつ罪の弁護活動

強制わいせつ罪の弁護活動は、不同意わいせつ罪の弁護活動と同じです。詳しくは以下のページをご覧ください。

不同意わいせつ罪の弁護活動

 

 

 

 

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