不同意わいせつで余罪が多数ある場合の流れや対処法について

不同意わいせつで余罪が多数ある場合

 

不同意わいせつ罪を定めた改正刑法が2023年7月13日に施行されました。この日以降に発生したわいせつ事件については、強制わいせつではなく不同意わいせつの成否が問題になります。

不同意わいせつ罪とは?刑法改正でどう変わる?弁護士が解説

 

 

このページでは、路上で被害者の身体に触れる不同意わいせつ事件を何件も起こしてしまった場合の流れや対処法について、弁護士 楠 洋一郎が解説しています。ぜひ参考にしてみてください。

 

 

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-3つの特徴

不同意わいせつで逮捕されたケースでは、逮捕された事件のほかに、同じような不同意わいせつ事件を何件も起こしていることがあります。このような余罪多数の不同意わいせつ事件の特徴は次の3つです。

 

  

①夜に住宅街の路上で行われることが多い

②自宅近くで行われることが多い

③胸をもんだり抱きついたりしてすぐに逃げることが多い

 

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-逮捕される?

電車内での痴漢であれば、被害者が警察に通報しないこともありますが、路上で不同意わいせつの被害を受けた場合、被害者が受けるショックは大きく、通常はすぐに110番通報します。

 

 

通報があれば、警察は被害届を受理して捜査を始めます。

 

 

被害者を尾行していれば動線が長く、それだけ防犯カメラに捉えられている可能性が高くなります。犯行の瞬間が防犯カメラで撮影されていなくても、尾行している状況や逃走している状況が撮影されていれば、犯人特定の有力な証拠になります。

 

 

余罪多数の不同意わいせつ事件では、どれかひとつの事件について犯人として特定されれば、その事件について逮捕される可能性が高いです。

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-勾留される?

逮捕は最長でも3日しかできませんが、勾留されると原則10日、最長20日にわたって身柄が拘束されます。

起訴前の流れ(逮捕・勾留あり)

 

 

余罪多数の不同意わいせつ事件では、加害者は自宅近くでわいせつ行為をすることが多く、加害者の生活圏と被害者の生活圏がかぶっていることが多いです。

 

 

そのため、裁判官に、「被害者と再び接触するおそれがあり証拠隠滅の可能性が高い。」と判断され、勾留される可能性が高くなります。余罪がある場合は、勾留される可能性がより高くなります。

 

 

勾留は事件ごとに行われるため(事件単位の原則)、余罪捜査の必要性は、逮捕した事件を勾留する理由にはなりません。

 

 

もっとも、逮捕された事件にとって、余罪は「重要な情状事実」になるため、「重要な情状事実に関する証拠を隠滅するおそれがある。」として、勾留される可能性が高くなります。

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-再逮捕される?

1.再逮捕とは?

最初に逮捕した事件とは別の事件で逮捕することを再逮捕といいます。複数の余罪がある場合、逮捕するか否かは事件ごとに判断されます。

 

 

余罪多数の不同意わいせつ事件についても、被害届が出ている事件ごとに逮捕するか否かを判断します。そのため、余罪についても証拠があれば、再逮捕される可能性があります。

再逮捕とは?報道や執行猶予との関係など「気になること」を全解説

 

 

2.余罪で再逮捕されるタイミング

再逮捕されるタイミングは次のようになるのが一般的です。

 

 

①最初の不同意わいせつで示談が成立し釈放された場合→釈放当日に余罪で再逮捕

②最初の不同意わいせつで示談が成立せず起訴された場合→起訴当日に余罪で再逮捕

 

 

余罪が複数あれば再逮捕も複数回行われる可能性があります。

 

【再逮捕される事件を予測するポイント】

どの事件で再逮捕されるかを予測するポイントは、「家宅捜索で押収された衣類」です。捜査員は、あらかじめ防犯カメラ映像を精査して、余罪の犯人がどのような服を着ていたかを把握しています。防犯カメラ映像に写っている犯人と被疑者の同一性を確認するため、犯人が着ていた衣類と同じ衣類が被疑者の自宅にあるかどうかを確認します。

 

家宅捜索にきた際、捜査員が本人に対して、余罪の犯人が写っている防犯カメラの画像を見せながら、「この服あるでしょ?出して。」とピンポイントで言ってきます。

 

もしその衣類を着用して別の事件を起こしたことがあれば、次はその事件で再逮捕される可能性が高いです。

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-自首して逮捕を回避できる?

1.自首とは

自首とは、犯罪と犯人の両方が捜査機関に発覚する前に、自発的に出頭して自分がした犯罪について申告し、処分を委ねることです。

 

 

2.自首すれば逮捕を回避できる?

路上で不同意わいせつをした場合、犯人として特定されれば逮捕される可能性が高いです。それでは、自首すれば逮捕を避けられるでしょうか?

 

 

逮捕の要件は、逃亡したり証拠を隠滅するおそれがあることです。自首という形で自発的に警察に出頭して自供すれば、逃亡や証拠隠滅のおそれは低いと判断されやすくなり、逮捕を避けられる可能性が上がります。

 

 

不同意わいせつについても、単発の事件であれば、自首することによって逮捕を避けられる余地は十分にあります。

 

 

一方、複数の不同意わいせつをしたケースでは、事件の重大性や被害者が複数いることから、逃亡や証拠隠滅のおそれが高いと判断されやすく、自首しても逮捕される可能性はかなりあります。

 

 

3.自首するメリット

複数の不同意わいせつ事件を起こした場合、自首しても逮捕される可能性は十分にあります。ただ、自首には以下のメリットもあるため、出頭する意味はあるといえるでしょう。

 

 

①執行猶予を獲得できる可能性が高くなる

②保釈が許可される可能性が上がる

③示談交渉をスムーズに進めやすくなる

 

 

自首が成立するためには、犯人として特定される前に警察に出頭する必要があります。そのため、自首するのであればできるだけ早く動くべきです。

 

 

4.自首の範囲

警察に出頭して全ての不同意わいせつ事件を自供した場合、どの事件についても犯人として特定されていなければ、全ての事件について自首が成立します。一部の事件について特定されていれば、その事件について自首は成立しません。

 

 

特定の不同意わいせつのみ自供し余罪について何も言わなかった場合、同じエリアで似たような事件が発生していれば、余罪についても追及されます。

 

 

取調べで追及されて余罪について自供しても、自発的に申告したわけではないので、自首は成立しません。

 

 

複数の不同意わいせつ事件を起こしたケースでは、自首するか否かやどの範囲で自供するかについて、自首同行の経験豊富な弁護士に相談した方がよいでしょう。

 

 

【関連ページ】

不同意わいせつで自首するメリット・デメリットや自首の流れを弁護士が解説

自首に弁護士が同行するメリットや同行の弁護士費用について

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-余罪取調べにどう対応する?

1.黙秘が基本

不同意わいせつの取調べで余罪について聞かれたら、どのように対応すればよいのでしょうか?余罪がある場合でも、再逮捕されるまでは証拠の状況などがわからないため、黙秘した方がよいでしょう。

黙秘とは?黙秘の意味や使い方、デメリットについて解説

 

 

再逮捕された後は、取調官の発言や証拠の状況をふまえ、黙秘を続けるか自白して示談交渉に入るかを検討することになります。まずは弁護士にご相談ください。

 

 

2.覚えていない場合はどうする?

余罪多数の不同意わいせつ事件については、本人も記憶の整理が十分にできていないことがあります。路上での不同意わいせつは決して珍しいタイプの事件ではなく、他人が起こした事件であることも考えられます。

 

 

取調べで追及された余罪についてはっきり覚えていない場合は、「たぶんこの事件も自分だろう。」と安易に認めるのは禁物です。

 

 

そのようなケースでは、弁護士から取調官に対して、「本人が覚えていないのでまずは防犯カメラを本人に見せてください。」と要請します。

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-起訴される?

1.事件ごとに判断される

余罪があったとしても、起訴するか不起訴にするかは事件ごとに判断されます。最初に逮捕された事件について、被害者との間で示談がまとまれば、その事件については不起訴になる可能性が高いです。

 

 

示談がまとまらなければ起訴されることなりますが、公判を維持するだけの証拠がない場合は嫌疑不十分で不起訴になることもあります。起訴されると刑事裁判が始まります。

 

 

2.追起訴とは?

余罪があるケースでは、逮捕された事件ごとに起訴・不起訴が個別に判断されます。複数の不同意わいせつ事件をまとめて起訴することは通常ありません。2件目以降の起訴は「追起訴」と呼ばれます。

 

 

追起訴された場合は、複数の裁判が別々に進むのではなく、「弁論の併合」といってひとつの手続にまとめられ、同じ裁判官が審理します。判決も全ての事件についてまとめて言い渡されます。

追起訴とは?追起訴されやすい4つの犯罪や裁判の流れについて

公判の流れ(追起訴あり)

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-示談で不起訴・執行猶予を獲得する

1.起訴前

検察官は、不同意わいせつ事件の起訴・不起訴を判断するにあたって、示談を非常に重視しています。そのため、示談が成立すれば不起訴になる可能性が高くなります。

 

 

起訴・不起訴は個別に判断されるため、ひとつの事件について示談が成立したからといって全ての事件で不起訴になるわけではありません。そのため、複数の事件で立件されている場合は、全ての被害者と示談をするのが理想です。

 

 

起訴されてしまうと、その後に示談が成立しても、起訴が取り消されるわけではありません。

 

 

起訴されるまでのタイムリミットは逮捕されてから約3週間です。そのため示談を目指すのであれば、逮捕直後から弁護士に依頼して示談交渉をスタートすべきです。

 

 

2.起訴後

起訴されると刑事裁判が始まります。裁判官は量刑を決めるにあたって、被害者の処罰感情を重視しているため、示談という形で許してもらえれば、執行猶予の可能性が高くなります。

 

 

複数の不同意わいせつ事件で起訴された場合、初犯でも実刑判決になることがありますので、起訴後であっても示談をした方がよいでしょう。

 

余罪多数の不同意わいせつ-再発防止策について

多数の不同意わいせつ事件を起こしたケースでは、最初はドキドキしながらわいせつ行為をしていたものの、警察に捕まらないため感覚がマヒしていき、何件もの事件を起こした末に逮捕されることが多いです。

 

 

自分の行為を正当化するため、「ちょっと触るぐらいなら大丈夫だろう。」と認知にゆがみが生じていることも少なくありません。

 

 

再犯防止を徹底するためには、性犯罪治療のクリニックに通院した方がよいでしょう。地域によっては、勾留されている警察署まで出張カウンセリングに来てくれる専門家もいます。ウェルネスでそのような専門家を紹介することも可能です。

 

 

刑事裁判になった場合は、カウンセラーに証人として出廷してもらったり、被告人質問で、再犯防止のためにどのようなことをしているかを本人に話してもらいます。

 

 

余罪多数の不同意わいせつ-家族のサポートについて

本人が更生するためにはご家族のサポートが不可欠です。ご家族には日常生活の中で本人を監督してもらいます。

 

 

スマートフォンのGPS機能を利用して本人の位置情報を把握したり、出勤前後や帰宅前後にSNSで連絡をとりあってもらいます。

 

 

加害者の家族会に参加して性依存症についての理解を深めてもらうこともあります。起訴された場合は、情状証人として裁判所に出廷し、本人をどのように監督していくのかを話してもらいます。

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