不同意わいせつで執行猶予を獲得する方法は?

不同意わいせつで執行猶予を獲得する方法

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

 

不同意わいせつで起訴された!執行猶予はとれる?

1.不同意わいせつで起訴されたらどうなる?

不同意わいせつ罪で起訴されたら刑事裁判が始まり、最終的には判決が言い渡されます。不同意わいせつ罪の判決は次の3種類です。

 

 

①無罪判決

②執行猶予付きの懲役刑

③執行猶予なしの懲役刑(=実刑)

 

 

執行猶予とは条件つきで刑罰を執行しないことです。執行猶予付きの懲役刑であれば、執行猶予が取り消されない限り、社会の中で生活することができます。

 

 

これに対して、実刑判決であれば刑事施設に収容され、刑務所で服役することになります。

執行猶予について詳しく

 

 

2.懲役3年以下でないと執行猶予はつかない

不同意わいせつ罪の罰則は6か月以上10年以下の拘禁刑です。

 

 

拘禁刑とは、刑務作業が義務となっている懲役刑と異なり、受刑者の状況に応じて刑務作業や更生プログラムを柔軟に科すことができる刑罰です。

 

 

拘禁刑は現時点ではまだ実施されていません。2025年6月までに実施されることになっており、それまでの間は懲役刑として扱われます。

 

 

不同意わいせつ罪で執行猶予を付けるためには3年以下の懲役刑であることが必要です。3年を上回る懲役刑の場合は、法律上、執行猶予を付けられませんので、刑務所で服役することになります。

 

 

【執行猶予中の再犯】

執行猶予中に不同意わいせつ罪を犯して起訴され、執行猶予中に判決が下される場合、1年以下の懲役刑で、情状に特に酌量すべきものがあるときは再度の執行猶予を付すことができますが、ハードルはかなり高いです。

 

【刑務所に服役していた方】

以前に刑務所で服役したことがある方については、満期出所した日または仮釈放の満了日から5年以内に不同意わいせつ罪で起訴され有罪判決が下される場合は、執行猶予は付けられません。

 

【刑法25条】

次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。

一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

 

 

3.最終的には「情状」で決まる

懲役3年を超えれば執行猶予は付けられませんが、3年以下であれば必ず執行猶予が付くわけではありません。

 

 

最終的に執行猶予が付くか否かは「情状により」判断されます(刑法25条)。情状については以下で詳しく説明します。

 

 

不同意わいせつで執行猶予に影響する「情状」とは?

不同意わいせつで起訴された場合、裁判官は、「情状により」執行猶予をつけるか否かを決めます。

 

 

情状とは犯情と一般情状に分けられます。犯情とは犯罪に関わる事情です。具体的には以下の事情が挙げられます。

 

 

犯情

計画性の有無

侵入の有無

凶器の有無

犯行の継続時間

接触した場所

接触の程度

 

 

一般情状は、犯罪とは直接関係がない事情で、被害者の事情と被告人の事情に分けることができます。具体的には以下の事情が挙げられます。

 

 

一般情状
加害者の事情

被害者の年齢

被害者の落ち度

示談の状況

被害弁償の状況

被害者の事情

反省の有無

再犯防止への取り組み

家族の監督

前科・前歴

常習性

自首

 

 

判断の仕方としては、まず、犯情を検討することによって、大まかな刑罰の枠を決めます。その上で、一般情状である被害者の事情や被告人の事情を検討して、大まかな枠の中で具体的な刑罰を決めることになります。

 

 

弁護士としても、まずは被告人に有利な犯情を裁判官に指摘した上で、被害者の事情や被告人の事情について有利な点を主張・立証していくことになります。それでは犯情と一般情状について詳しく見ていきましょう。

 

 

不同意わいせつで執行猶予を獲得するポイント:犯情

1.計画性の有無

事前に計画を立てて不同意わいせつをした方が、より悪質であるとして実刑の可能性が上がります。これに対して、衝動的に不同意わいせつをした場合は、執行猶予の可能性が上がります。

 

 

2.侵入の有無

被害者の自宅に侵入して不同意わいせつをした場合、被害者に与える精神的苦痛が大きいため、より悪質と評価され実刑の可能性が上がります。

 

 

3.凶器の有無

ナイフ等の凶器を示して、「言うことを聞かないと刺すぞ!」等と言って脅迫した場合や、ロープで被害者の体をしばって不同意わいせつをした場合はより悪質と評価され、実刑の可能性が上がります。

 

 

4.犯行の継続時間

わいせつ行為の時間が長ければ長いほど、被害者の苦痛も大きくなるため、悪質と評価され実刑の可能性が上がります。逆に、2,3秒抱きついただけの場合は、相対的に悪質性が低いと評価され、執行猶予の可能性が上がります。

 

 

5.接触した部位

臀部よりも胸、胸よりも陰部に接触した方がより悪質と評価され、実刑の可能性が上がります。

 

 

6.接触の程度

全裸にしたり下着の中に手を入れ素肌に直接触る行為は悪質とみなされ、実刑の可能性が上がります。体を抱きしめたり着衣の上から接触する行為は、相対的に悪質性が低いとみなされ、執行猶予の可能性が上がります。

 

 

不同意わいせつで執行猶予を獲得するポイント:被害者の事情

1.被害者の年齢

被害者が幼児や年少者の場合、不同意わいせつの被害を受けたことによって、今後の人格形成に深刻な影響を受けることが予想されるため、より悪質と評価されやすくなり、実刑の可能性が上がります。

 

 

2.被害者の落ち度

被害者の方から誘ってきた等、被害者の落ち度といえる事情があれば、執行猶予の可能性が上がります。

 

 

3.示談

執行猶予に最も大きな影響を与える要素が示談です。「許す」という言葉が入った示談書に署名・捺印してもらえれば、執行猶予の可能性が非常に高くなります。

 

 

4.被害弁償

示談が成立しなかったとしても賠償金を被害者に受けとってもらえた場合は、有利な情状として裁判官に評価され、執行猶予の可能性が上がります。

 

 

不同意わいせつで執行猶予を獲得するポイント:被告人の事情

1.反省

不同意わいせつで執行猶予を獲得するためには、被告人が反省していることが前提です。裁判で反省文を証拠として提出したり、被告人質問で、被告人の口から反省の言葉を語ってもらいます。

 

 

2.再犯防止の取り組み

クリニックに通院したり心理士のカウンセリングを受けている場合は、更生のために努力しているとして、執行猶予の可能性が上がります。

 

 

3.家族の監督

家族が情状証人として裁判所に出廷し、被告人を監督すると誓約すれば、有利な事情になります。

 

 

それだけで執行猶予の可能性が大幅に上がることはありませんが、裁判官が執行猶予にするか実刑にするか悩んでいるケースでは、充実した監督プランを提示することにより、執行猶予の後押しとなります。

 

 

4.前科・前歴

執行猶予中の再犯の場合は別として、前科・前歴があるからといって、それだけで執行猶予の可能性がなくなるわけではありません。

 

 

ただ、執行猶予期間が経過していても、過去5年以内に性犯罪の前科があれば、かなり不利な要素になってしまいます。

 

 

5.常習性

起訴された事件がひとつであっても、同一の被害者に対して繰り返しわいせつ行為をしていたときは、悪質と評価され実刑の可能性が上がります。

 

 

例として、「電車で同じ被害者に何度も痴漢(不同意わいせつ)をした場合」、「近所に住む幼児を自宅に連れ込んで何度もわいせつ行為をした場合」等が考えられます。

 

 

6.被告人の年齢

若ければ若いほど柔軟で更生の余地があるといえるため、有利な情状にはなるでしょう。

 

ただ、「若い」というだけで、執行猶予の可能性が大幅に上がることはありません。裁判官が執行猶予にするかどうか悩んでいるときに、少しだけ執行猶予の後押しをするにとどまります。

 

 

7.自首

自首していれば減刑される可能性が十分にあります。不同意わいせつの法定刑は懲役6か月~10年ですが、減刑されれば懲役3か月~5年の範囲で判決が下されることになり、執行猶予の可能性が高まります。

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