強制性交等致傷

このページはウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

強制性交等致傷と強姦致傷

2017年6月の刑法改正により、強姦致傷罪は強制性交等致傷罪に改められました。それに伴い対象となる行為が拡張され、刑罰も重くなりました。改正刑法が施行されたのは2017年7月13日です。

 

2017年7月13日よりも前の行為については強姦致傷罪、この日以後の行為については強制性交等致傷罪が適用されます。

 

強制性交等致傷と強姦致傷の違い

(1)強制性交等致傷

13歳以上の女に対して

暴行脅迫を手段として

姦淫、肛門性交、口腔性交

or

それらの行為をしようとして

けがをさせること

13歳未満の女に対して

 

(2)強姦致傷

13歳以上の女性に対して

暴行脅迫を手段として

姦淫

or

それらの行為をしようとして

 

けがをさせること

 

13歳未満の女性に対して

 

(3)違いのまとめ

強姦致傷は女性のみが被害者となるのに対し、強制性交等致傷は男性も被害者になり得ます。行為については、強姦致傷が姦淫のみであるのに対し、強制性交等致傷は肛門性交や口腔性交も含んでいます。

 

強制性交等致傷の刑罰

強制性交等致傷の刑罰は懲役年~20年または無期懲役です。強姦致傷(懲役年~20年または無期懲役)より刑の下限が1年重くなりました。

 

強制性交等致傷の時効

強制性交等致傷の時効は15年です。

 

強制性交等致傷とけがの関係

(1)姦淫それ自体によってけがが生じた場合

この場合は、当然、強制性交等致傷罪になります。

【具体例】

姦淫によって膣壁が裂傷を負った。

 

(2)強制性交等の手段である暴行によって直接けがが生じた場合

この場合も強制性交等致傷罪になります。

【具体例】

強姦するために被害者の顔を殴ってけがをさせた。

 

(3)強制性交等の機会にけがが発生した場合

(1)と(2)以外のケースでも、強制性交等と密接に関連する行為によってけがが生じた場合は強制性交等致傷罪が成立すると考えられています。

【具体例】

・強制性交等の被害者が逃げる際に転倒してけがをした。

・強制性交等の加害者が逃げる際に被害者の足を踏んでけがをさせた。

 

強制性交等致傷の成立時期

強制性交等の実行に着手した上で、被害者にけがをさせれば、強制性交等が未遂に終わったとしても強制性交等致傷となります。

 

【具体例】

加害者が被害者を強姦しようとして押し倒したところ、通行人に見られたためその場から逃げたが、被害者は押し倒された際、肩を打撲した。

 

自覚がないまま強制性交等致傷で立件されることもある

本人が暴行したつもりは全くないのに強制性交等致傷で立件されることがあります。それが膣壁裂傷や肛門裂傷の場合です。男性器を膣や肛門に挿入した際、摩擦で膣壁や肛門に裂傷が生じることがあります。その場合、被害者が警察に医師の診断書を提出すると強制性交等致傷として立件されます。

 

強制性交等致傷と裁判員裁判

強制性交等致傷は、法定刑に無期懲役が定められていることから、起訴されると裁判員裁判で審理されることになります。裁判員裁判について次の2点をおさえておいてください。

 

(1)裁判が始まるまでの準備期間が長い

裁判員裁判の審理自体は数日から1週間程度で終わることが多いです。ただ裁判が始まるまでの準備(「公判前整理手続」といいます)に約半年~10か月程度かかります。

 

この準備手続には裁判員は参加しません。裁判官・検察官・弁護士のみで、争点や証拠の整理を行います。裁判までに時間がかかるということは、保釈が認められない限り、長期間勾留されるということを意味します。

 

(2)性犯罪は厳罰化の傾向

裁判員裁判の大きな特徴として、性犯罪で厳しい判決が相次いでいるという点があります。裁判員は職業裁判官以上に性犯罪に厳しい目をもっています。強制性交等致傷についても、多くのケースで10年近くの実刑が下されています。

 

これらの点から、強制性交等致傷については、裁判にしない=起訴させないための弁護活動が重要になります。

 

強制性交等致傷で不起訴を獲得するためには

(1)強制性交等致傷を認めている場合

この場合、被害者と示談をして、告訴を取り下げてもらうことが非常に重要です。強制性交等致傷は告訴がなければ起訴できないというわけではありません。

 

しかし、検察官は、起訴するか不起訴にするかの判断をするにあたって、被害者の意思を重視しますので、示談が成立すれば、特に軽傷のケースでは、不起訴になる可能性が高くなります。

 

検察官は、弁護士でなければ被害者の連絡先を教えてくれませんので、示談交渉は弁護士が行うことになります。逮捕されてから起訴されるまので期間は約3週間です。不起訴を獲得するためには、この期間内に、弁護士が示談をまとめる必要があります。

 

3週間というと時間に余裕があると思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。検察官による被害者への意思確認、被害者との示談交渉、示談金の受渡し、検察官への示談書の提出などの手続を全てこの期間内に行う必要があります。

 

そのため、逮捕されれば一刻も早く弁護士をつけて示談交渉を始めるべきです。

 

(2)無罪を主張する場合

逮捕されてから、検察官が起訴するか不起訴にするかを判断するための期間は約3週間です。この期間内に起訴するため、捜査機関は自白調書を作成しようと、連日被疑者の取調べを行います。

 

特に強制性交等致傷では、目撃者がいない場合が多く、証拠に占める自白調書のウェイトが大きくなるため、取調官は被疑者に様々なプレッシャーをかけて自白調書を作成しようとします。

 

被疑者としては、捜査機関の圧力に負けず、自白調書をとられないようにすることが大切です。そのためには、取調べに際して、黙秘することが基本です。黙秘というと黙っているだけで簡単ではないかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。取調官も時間の制限があるなかでなんとか自白をとろうと必死です。

 

そのような状況で、黙秘を貫くのは決して容易なことではありません。弁護士が連日被疑者と接見し、サポートする必要があります。

 

強制性交等致傷で起訴されたら(容疑を認めている場合)

起訴されたら裁判員裁判で審理されることになります。自白事件の裁判員裁判では、審理が終わった後に、裁判員と裁判官が量刑について評議します。

 

評議においては、犯罪行為の悪質性によって、刑の大まかな枠が決められます。その上で、示談等の情状によって、この枠の中で具体的にどの程度の刑罰にするのか絞り込んでいきます。

 

弁護士としては、このような量刑評議の枠組みを十分に理解した上で弁護活動を行うことが必要です。以下、犯罪行為の悪質性とその他の情状に分けて解説していきます。

 

(1)犯罪行為の悪質性について

犯罪行為の悪質性を左右する事情は次の通りです。

①計画性の有無・程度

②暴行・脅迫の仕方

③強制性交等の内容

④犯行継続時間

⑤凶器の有無

⑥けがの程度 

弁護士が同種の事案を分析し、被告人に有利な事情があれば、裁判員に対して説得的にプレゼンテーションしていきます。

 

(2)その他の情状について

①示談

犯罪によって最も影響を受けたのは被害者である以上、被害者との間で示談が成立したという事情は、裁判員に対しても訴求力が強く重要な情状になります。起訴後であっても示談成立に向け尽力すべきです。

 

②更生可能性

刑罰の目的は犯した罪の報いを受けさせるだけではありません。罪を犯した人間を更生させることも刑罰の重要な目的です。裁判員に「この被告人なら更生できる」と思ってもらうためには、弁護士が次の3つの点を裁判員にわかってもらうことが必要です。

 

A 被告人が心の底から反省していること

B 家族や友人など周囲のサポート体制が整っていること

C 被告人が性的逸脱行動に及んだ原因を理解し、具体的な再発防止策を講じていること

 

これに対応して、弁護士としては、次の3つの活動を行います。

A 被告人との対話を通じて内省を深めさせる

B 家族や友人と緊密に連絡をとりサポート体制を構築する

C 専門医やカウンセラーの支援のもと、被告人に自身の問題を理解させた上で、具体的な再発防止策を立てさせる

 

Cについては、留置場への出張カウンセリングサービスを利用し、保釈前からカウンセリングを受けてもらうこともあります。ウェルネスでは性犯罪治療の専門家と連携し、根本的な更生を目指します。

 

強制性交等致傷で起訴されたら(無罪を主張する場合)

無罪を主張する場合は、裁判員裁判の準備段階(公判前整理手続)で、具体的にどの点について争うのかを弁護士が明確にします。

 

その上で、犯人性を争うのであれば、裁判員裁判で弁護士がアリバイ事実等を主張していくことになります。相手方の同意があったということであれば、同意があったことを推認させる事情を弁護士が主張していくことになります。

 

また、被害者(と称する人物)や目撃者(と称する人物)の供述の信用性を争うため、弁護士が法廷で反対尋問をすることによって供述の矛盾を明らかにしていきます。

 

 

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