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傷害に強い弁護士に相談-被害者から見た示談のメリットも解説

傷害で逮捕された後の流れや示談について刑事事件に詳しい弁護士 楠 洋一郎が解説しています。傷害事件において示談をすることは、加害者だけはなく、被害者にもメリットがあります。

 

 

このページでは被害者側のメリットについても解説しています。ぜひ参考にしてみてください!

 

 

 

傷害とは?

傷害罪は刑法204条に規定されています。

 

 

「傷害」とは、人の生理的機能に障害を与えることです。打撲や骨折等の外傷だけではなく、めまいや失神、PTSDも生理的機能の障害に含まれます。

 

 

傷害事件で最も多いのが、被害者に殴る・蹴るなどの暴行を加えて外傷を負わせるケースです。ただ、傷害の手段は暴行に限られるわけではありません。以下のように暴行によらない傷害もありえます。

 

 

①何度も無言電話をかけてノイローゼにさせる

②隣の家に騒音を流し続けて住人を不眠症にさせる

嫌がらせによる傷害事件について弁護士が解説

 

 

傷害の罰則は?

傷害罪の刑罰は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。一口に傷害といっても、かすり傷程度の軽傷からひん死の重傷まで程度はさまざまですので、それに応じて刑罰にも幅があります。

 

 

傷害の時効は?

1.刑事事件の時効

刑事事件の時効を公訴時効といいます。公訴時効が経過すると起訴できなくなりますので逮捕されることもありません。傷害罪の公訴時効は10年です。

 

 

2.民事事件の時効

傷害は民法709条の不法行為になるため民事事件にもなることがあります。民事の損害賠償請求権の時効は次の2つの期間のうちのどちらか早く到来した方です。

 

 

①被害を受けたこと及び加害者を知った時から5年間

②傷害事件が発生した日から20年間

 

 

傷害と暴行の違いは?

暴行とは人に暴力をふるうことです。「殴る」「蹴る」等の暴力をふるった時点で暴行罪が成立します。その暴力によって相手がケガをすれば傷害罪になります(暴行罪は傷害罪に吸収されます)。ケガをしなければ暴行罪にとどまります。

 

 

相手の胸をついたり肩を押す程度の行為でも暴行にはなりますが、それによってけがが生じなければ傷害にはなりません。胸をついたり肩を押したことにより相手が転倒してケガをした場合は、傷害罪が成立します。

 

 

傷害の故意がなくても傷害罪になる!?

傷害罪が成立するためには、暴行についての認識(故意)があれば足り、「ケガをさせてやろう」、「ケガをするかもしれないがそれでもいい」という傷害の故意までは必要とされていません。

 

 

例えば、「口論相手の肩を押したところ、予期に反して相手がバランスを崩し転倒してケガをした。」というケースでは、「肩を押す」という暴行の故意は認められますので、ケガをさせるつもりがなかったとしても傷害罪が成立します。

 

 

嫌がらせをしてPTSDを発症させる等、暴行以外の方法を用いた場合は、傷害罪が成立するためには「精神疾患になるかもしれない」といった傷害の故意が必要になります。

 

 

傷害と診断書

傷害事件の被害者が警察に被害を訴えた場合、まずは暴行罪の被害届を提出することが多いです。その後、被害者が病院に行って診断書を取得し、警察に提出した時点で傷害事件に切りかわります。

 

 

流血している場合のようにケガが生じていることが明らかなケースでは、診断書がなくても最初から傷害事件として扱われることがありますが、この場合も後に警察から診断書を提出するよう求められます。

 

 

軽傷で一度も病院に行かずに完治した場合は診断書を取得することができませんが、このようなケースでは、たとえケガの写真を警察に提出したとしても、傷害事件として立件される可能性は低いです。

 

 

傷害致死罪とは?

被害者を暴行して死亡させた場合は、傷害致死罪が成立します。殺意があれば殺人罪になりますので、傷害致死罪が成立するのは、「殺すつもりはなかったけれども、被害者を暴行して結果的に死なせた場合」に限られます。

 

 

傷害致死罪の罰則は懲役3年~20年で、裁判員裁判で審理されます。時効については、民事の時効は傷害事件と同じですが、刑事の時効は20年と傷害事件よりも10年長くなります。

 

 

傷害の逮捕率は?

2022年に警察が取り扱った傷害事件のうち、被疑者が逮捕されたケースは55%です。

 

 

全治1か月以上の重傷を負わせた場合や集団で暴行してケガをさせた場合は逮捕されることが多いです。泥酔して駅員やタクシードライバーを殴ってケガをさせた場合は、軽傷でも逮捕されることが多いです。

 

 

傷害事件で逮捕された後に勾留されたケースは77%、勾留が延長されたケースは59%です。

 

*本ページの数値は2022年検察統計年報(最新版)に基づいています。

*上記の傷害罪には傷害致死罪および現場助勢罪も含まれます。

 

 

傷害で逮捕された後の流れは?

傷害事件で逮捕されたら検察官や裁判官の審査を経て勾留されるか釈放されるかが決まります。勾留の要件は逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあることです。

 

 

逮捕されたら翌日か翌々日に検察官の取調べを受けます。検察官が勾留の要件を満たすと判断すると、裁判官に対して勾留請求します。裁判官は勾留請求の当日か翌日に、勾留質問を行い、勾留するか釈放するかを決めます。

 

 

勾留されると原則10日にわたって留置場で拘束されます。勾留が延長されるとさらに10日の限度で勾留が拘束が続きます。

起訴前の流れ(逮捕・勾留あり)

 

 

傷害で逮捕-弁護士ができることは?

傷害事件で逮捕された後に勾留されると、原則10日にわたって身柄が拘束されるため、逮捕されたことが職場に発覚し、解雇されるリスクが出てきます。

 

 

勾留を阻止するため、弁護士が勾留の要件がないことを意見書に記載して検察官や裁判官に提出します。

早期釈放を実現する

 

 

逮捕されてから勾留されるまで最短で1日、最長でも3日しかありません。また、国選弁護人は勾留された後しか利用することができません。そのため、できるだけ早く私選弁護人に依頼する必要があります。

⇒逮捕後されたらすぐに弁護士を呼ぼう!弁護士費用や呼び方を解説

 

 

傷害の不起訴率は?

2022年に検察庁で扱われた傷害事件のうち、不起訴になったケースは66%です。起訴された34%の傷害事件のうち公判請求されたケースは39%、略式請求されたケースは61%です。

 

 

暴行罪(18%)と比べると公判請求される割合がかなり高くなっています。公判請求されると誰でも傍聴できる公開法廷で審理され、検察官から懲役刑を請求されることになります。

 

 

公判請求であれば略式請求であれ、起訴されると無罪判決にならない限り前科が付いてしまいます。司法統計によれば無罪となる確率は0.1%程度です。

 

 

上で見たように傷害事件の不起訴率は5割を超えているので(66%)、前科を回避するためには、不起訴を目指すのが現実的です。

 

 

傷害の加害者が示談をするメリット

傷害の加害者が示談をするメリットは以下の3つです。

 

 

1.不起訴の可能性が高くなる

被疑者を起訴するか不起訴にするかを決めるのは検察官です。検察官は、起訴するか否かを決めるにあたり、被害者の処罰感情を重視します。そのため、示談という形で被害者に許してもらえれば、不起訴になる可能性が高まるのです。

 

 

起訴されたとしても、その後に示談が成立すれば、執行猶予になる可能性が高くなります。裁判官も実刑にするか執行猶予にするかを決めるにあたり、示談を重視しているからです。

 

 

2.早期釈放の可能性が高くなる

勾留の要件は逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあることです。被害者との間で示談が成立すれば、重い処分を下される可能性が低くなるため、逃亡のおそれが低下したと判断されやすくなります。

 

 

また、示談が成立すれば被害者との間で紛争が円満に解決されたことになるため、証拠隠滅のおそれも低下したと判断されやすくなります。

 

 

そのため、示談が成立すれば早期に釈放される可能性が高くなります。弁護士が検察官に示談書を提出すれば、翌営業日までに釈放されることが多いです。

 

 

3.民事事件も同時に解決

傷害事件は民法709条の不法行為に該当するため、被害者は民事で損害賠償請求することもできます。刑事で罰金刑になったとしても、罰金は国に支払われるものであり被害者に支払われるわけではありません。そのため、被害者から損害賠償請求されるリスクは残ります。

 

 

示談が成立すれば、示談書に「お互いに債権債務なし」という精算条項が入ります。精算条項があれば、示談金以外に被害者から追加で賠償請求されることはありません。つまり、紛争が完全に解決されたことになるのです。

 

 

傷害の被害者が示談をするメリット

傷害の被害者が示談をするメリットは以下の3つです。

 

 

1.迅速に解決できる

民事訴訟をするよりも刑事手続の中で示談をした方が迅速に解決できます。刑事手続で示談をする場合は、加害者側の弁護士と交渉することになりますが、交渉に数か月かかることはまずありません。

 

 

これに対して民事訴訟を提起する場合は、終了するまで短くても半年程度はかかります。弁護士に依頼すれば、被害者本人が民事訴訟の対応をする必要はありませんが、何度も弁護士と打ち合わせをしたり、当事者として裁判所に出廷して尋問を受けたりする必要が出てきます。

 

 

刑事事件であれば最短で数日程度で交渉が終了し、示談金が支払われることもあります。

 

 

2.費用倒れを防止できる

傷害の被害者のなかには、「民事訴訟で請求できるので示談なんてする必要はない」と考えている方もいるかもしれません。

 

 

重傷を負ったり後遺症が生じたケースでは民事訴訟で数百万円またはそれ以上の判決が出る可能性もありますが、全治1,2週間の軽傷事件で民事訴訟を提起しても、数十万円程度の判決にしかならないと思われます。

 

 

被害者が民事訴訟を一人で提起するのは難しいので弁護士を雇うことになりますが、弁護士費用は少なくとも40万円~50万円程度は必要になります。そのため、民事訴訟で得られた金額から弁護士費用を差し引くとマイナスになることもあります。

 

 

刑事手続の中で示談をすれば、加害者側の弁護士が間に入って交渉しますので、費用倒れになることはなく、確実に示談金を取得することができます。

 

 

3.個人情報を秘密にしておける

刑事手続の中で示談をした場合、被害者は自分の個人情報を加害者に秘密にしておくことができます。示談書に氏名を記載する必要はありますが、被害者が希望すれば、弁護士が被害者の個人情報をマスキングした上で加害者に示談書のコピーを渡します。

 

 

民事訴訟を提起すると.訴状に原告(=被害者)の氏名や住所を記載する必要があります。訴状は裁判所から被告(=加害者)の自宅に送達されますので、加害者に氏名等の個人情報が知られてしまいます。

 

 

傷害の示談金の相場は?

1.全治1週間~2週間の示談金相場

全治1~2週間の軽傷事件の示談金相場は「20万円+治療費」になります。

 

 

2.重傷事件の示談金相場

全治1か月以上の重傷事件では、示談金として、治療費・休業損害のほか、入通院の期間に応じた慰謝料を支払うことが多いです。慰謝料の金額は交通事故と同様の方法で算定されることが多いです。

 

 

交通事故のケースでは、「損害賠償額算定基準」(赤い本)という本に賠償金の相場が紹介されており、弁護士も裁判官もこの本に書かれている相場を参考にしています。例えば、赤い本では通院期間1か月の場合の慰謝料は28万円となっています。

 

 

刑事の傷害事件の場合は、民事の交通事故と異なり、被害者に後遺症が残ることは少ないですが、もし後遺症が残った場合は、逸失利益や後遺障害の慰謝料を支払う必要が出てくるでしょう。

 

 

傷害で示談しないとどうなる?

1.示談しないと刑事と民事の2つに影響する

傷害は刑事事件(刑法204条)にも民事事件(民法709条)にもなり得ます。そのため、示談をしなければ、刑事と民事の両方に影響が及びます。

 

 

 

2.示談しないと刑事事件はどうなる?

傷害事件の被害者と示談しなければ、全治1、2週間の軽傷事件では、略式起訴され罰金になることが多いです。

略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説

 

 

罰金でも前科になってしまうので、前科を避けたいということであれば、被害者と示談した方がよいでしょう。

 

 

全治1か月以上の重傷事件や凶器を用いたケースでは、示談しなければ、初犯でも公判請求され検察官から懲役刑を請求される可能性が高くなります。けがの程度によっては初犯でも実刑になることがあります。

 

 

重傷事件でも被害者と示談をすれば、不起訴の可能性が高まりますし、仮に起訴されたとしても執行猶予になることが多いです。

 

 

3.示談しないと民事事件はどうなる?

傷害事件の被害者と示談しなければ、被害者から民事訴訟を提起される可能性があります。けがが軽ければ民事訴訟になる可能性は低いですが、けがが重ければ、治療費や休業損害、逸失利益、慰謝料などを民事訴訟で請求される可能性が高くなります。

 

 

民事訴訟は刑事手続とは別に進行します。もし民事訴訟になれば終了するまで短くても半年はかかるでしょう。被害者と示談をしておけば、民事事件も解決したことになるので、後日、民事訴訟になることはありません。

刑事事件と民事裁判

 

 

傷害で示談できない場合

被害者から不当に高額な請求をされたりして示談がまとまらなかった場合、賠償金を供託したり、弁護士会や慈善団体へ贖罪寄付(しょくざいきふ)をします。

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贖罪寄付とは?金額・タイミング・方法について

 

 

不起訴や執行猶予を獲得するため、弁護士が供託書や贖罪寄付の証明書を検察官や裁判官に提出します。