- トップ
- > 執行猶予とは?執行猶予をとるための2つのステップを弁護士が解説
- > 執行猶予の取り消しとは?執行猶予の取り消しを防ぐ3つの方法を解説
執行猶予の取り消しとは?執行猶予の取り消しを防ぐ3つの方法を解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
執行猶予の取り消しとは
執行猶予になれば、直ちに刑務所に入ることはありません。これまで通り社会の中で生活することができます。
もっとも、執行猶予中に一定の条件に該当した場合は、刑務所に入らなければなりません。これが執行猶予の取り消しです。
執行猶予が取り消されるとどうなる?
執行猶予が取り消されると、判決で言い渡された懲役・禁固の期間、刑務所に収容されます。
例えば「懲役1年・執行猶予3年」という判決を受けた後、執行猶予が取り消されると、1年間、刑務所に入り服役する必要があります。
執行猶予が取り消されるケースで最も多いのは、執行猶予中に新たに罪を犯して実刑判決になった場合です。この場合は、猶予された刑と新たに実刑判決になった刑を合計した期間、刑務所に入ることになります。
【具体例】
判決① …懲役1年・執行猶予3年
↓
判決②… 執行猶予中に懲役1年6月の実刑判決を受けた
↓
判決 ①の執行猶予が取り消された。
このケースでは執行猶予の取り消しにより、判決①で言い渡された1年間服役することになります。これに加えて判決②で言い渡された1年6ヶ月服役することになるので、トータルの服役期間は2年6ヶ月になります。
*実際は仮釈放されることが多いので服役期間は多少短くなります。
執行猶予が必ず取り消されるケース
次の3つのいずれかに該当すると執行猶予が必ず取り消されます。なお、①のケースが圧倒的に多いため、時間がない方は②と③は読み飛ばしてもらって構いません。
【刑法26条:執行猶予の必要的取り消し】
①執行猶予の期間内にさらに罪を犯して禁固以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき
②執行猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁固以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき
③執行猶予の言渡し前に他の罪について禁固以上の刑に処せられたことが発覚したとき(他の罪の刑期満了から執行猶予の言渡しまでに5年が経過している場合、または他の罪について執行猶予の場合を除く)
わかりやすく説明すると次のようになります。
①…「再犯」をして執行猶予が取り消されるケース
②…「余罪」で実刑になったことにより執行猶予が取り消されるケース
③…「以前に実刑」」になったことが発覚したことにより執行猶予が取り消されるケース
執行猶予が取り消されることがあるケース
次の3つのケースでは、執行猶予が必ず取り消されるわけではありませんが、取り消される可能性があります。
【刑法26条の2:執行猶予の裁量的取り消し】
①執行猶予中にさらに罪を犯し、罰金に処されたとき
②保護観察付きの執行猶予中に遵守事項に違反しその情状が重いとき
③執行猶予の言渡し前に他の罪について禁固以上の刑に処され、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき
わかりやすく説明すると次のようになります。
①…「再犯」をして罰金になったとき
②…「保護観察のルール違反」が顕著なとき
③…「以前に執行猶予」」になったことが発覚したとき
執行猶予が取り消されるまでの流れ
執行猶予の取り消し事由に該当しても、それだけで執行猶予が自動的に取り消されるわけではありません。検察官が裁判所に執行猶予の取り消しを請求し、それが認められて初めて取り消されます。
執行猶予が取り消されるためには、執行猶予中に取り消し事由に該当するだけでなく、裁判所の取り消し決定も執行猶予中になされる必要があります。取り消しまでの流れは次のとおりです。
①執行猶予の取り消し事由が発生する
↓
②検察官が裁判所に執行猶予取り消しの請求をする
↓
③裁判所が本人または代理人の意見を聴く
↓
④裁判所が取り消しの決定を下す
執行猶予の取り消しで最も多いのは、猶予中に刑事事件を起こして実刑判決が確定するケースです。この場合も、本人や代理人が意見を言う機会は与えられますが、意見を言っても執行猶予は取り消されるでしょう。
保護観察のルールに違反しその情状が重いとして取り消し請求された場合は、「ルールに違反したかどうか」や「違反の程度が重いかどうか」に関して争う余地があります。本人側の意見が認められ、執行猶予の取り消しを避けられることもあります。
この場合は、本人が請求すれば口頭弁論の形式で審理され、弁護人を選任することもできます。検察官としても、裁判官の許可を得て、保護観察官に意見を述べさせることができます。
執行猶予の取り消しを防ぐ3つの方法
執行猶予の取り消しが最も多いのは、執行猶予中に新たな刑事事件を起こしてしまったケースです。このケースで執行猶予の取り消しを防ぐ方法は次の3つです。
1.不起訴処分を獲得する
執行猶予中に刑事事件を起こしても、不起訴処分になれば刑事裁判にかけられないため、処罰されることはありません。そのため執行猶予が取り消されることはありません。
痴漢や窃盗など被害者がいる刑事事件で不起訴を獲得するためには、示談をすることが非常に重要です。
薬物事件では被害者がいないため示談はできませんが、所持罪で量が非常に少ないケースや譲渡・譲受罪で薬物が見つかっていないケース、捜査手法に問題があるケースでは、不起訴を獲得できることがあります。
2.再度の執行猶予を獲得する
執行猶予中に刑事事件を起こして起訴されても、再度の執行猶予判決を獲得すれば、前の執行猶予が取り消されることはありません。再度の執行猶予の要件は次の3つです。
① 今回の判決が1年以下の懲役または禁錮であること
③ 特に酌量すべき情状があること
④ 前の執行猶予に保護観察がつけられていないこと
②と③の要件をクリアできるよう、弁護士が被害者と示談交渉をしたり、再発防止プランを実行してもらいます。
3.控訴・上告する
執行猶予が取り消されるためには、執行猶予中に実刑判決が確定していることが前提になります。その上で、検察官が裁判所に執行猶予の取り消しを請求し、猶予期間中に取り消し決定が出される必要があります。
そのため、執行猶予の満期が迫っているケースでは、実刑判決を受けた後に控訴や上告をすることにより、判決の確定を遅らせることが考えられます。
「執行猶予の取り消しを防ぐため判決の確定を遅らせたい」という事情は適法な控訴・上告の理由にはなりませんので、「量刑不当」、「法令違反」、「憲法違反」などの理由で控訴・上告します。
新たに犯した刑事事件について実刑判決が確定すれば、刑務所に収容されることは避けられませんが、猶予期間が経過していれば、執行猶予が取り消されることはありません。
そのため前の刑で服役する必要はなく、執行猶予が取り消された場合に比べて刑務所に入る期間は短くなります。
【関連ページ】