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特殊警棒・催涙スプレーと凶器携帯罪(軽犯罪法違反)
特殊警棒や催涙スプレーを自宅で所持しても犯罪にはなりません。これに対して、以下のような状況で警察官に所持品検査をされると、刑事事件になることがあります。
☑ 車の中に特殊警棒を置いていた
☑ 護身用に催涙スプレーを持ち歩いていた
特殊警棒や催涙スプレーを家の外に持ち出すと軽犯罪法の凶器携帯罪にあたる可能性があるためです。
このページでは特殊警棒や催涙スプレーの持ち出しがどのような場合に凶器携帯罪に該当するのか、事件化した場合の流れについて、刑事事件に詳しい弁護士が解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
凶器携帯罪とは
凶器携帯罪は軽犯罪法で以下のように規定されています。
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。 二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者 |
軽犯罪法は社会生活の様々なルールを法律にしたもので、罰則は拘留または科料です。拘留は30日未満の身柄拘束、科料は1万円未満の財産刑です。
軽犯罪法違反で処罰される場合は9000円の科料になることが多いです。「たった9000円!?だったらまあいいか。」と思われるかもしれません。
しかし、れっきとした刑罰ですので、9000円であっても前科がつくことになります。この点が交通違反の反則金との違いです。
科料になれば、ビザを取得する際に必要となることがある「犯罪経歴証明書」にも、犯罪歴としてしっかり記載されますので、微罪だからといって甘く見ることはできません。
⇒前科とは?前歴との違いや5つのデメリット、結婚・就職に影響は?
特殊警棒・催涙スプレーと凶器携帯罪
1.凶器になる?
凶器携帯罪の対象になる凶器とは「人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」です。
特殊警棒で人の頭を叩けば命にかかわることもあるでしょうから凶器にあたります。催涙スプレーは、目が多少しびれるというだけでは凶器にはあたりませんが、しばらく視力障害が生じる場合や失明のおそれがある場合は凶器にあたります。
2.隠して携帯
凶器携帯罪が成立するためには、凶器を「隠して携帯」する必要があります。例えば以下のようなケースです。
☑ ズボンのポケットに催涙スプレーを入れていた
☑ 車のドアポケットに特殊警棒を置いていた
☑ カバンの中に特殊警棒を入れていた
特殊警棒にせよ催涙スプレーにせよ、通常は人に見えないように携帯しているでしょうからこの要件を満たします。なお、特殊警棒も催涙スプレーも刃物ではありませんので、銃刀法違反にはなりません。
3.正当な理由
特殊警棒や催涙スプレーを隠して携帯していても、「正当な理由」があれば凶器携帯罪は成立しません。それでは、護身用に特殊警棒や催涙スプレーを携帯している場合は正当な理由があると認められるでしょうか?
最高裁判所は、凶器携帯罪の正当な理由について、次の各事情を総合的に考慮して判断すべきとしています。
【客観的要素】
・凶器の用途や形状・性能
・隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係
・隠匿携帯の日時・場所
・隠匿携帯の態様
・周囲の状況
【主観的要素】
・隠匿携帯の動機、目的、認識
最高裁はこれらの事情をふまえて、以下のケースについて正当な理由があるとして無罪を言い渡しました。
小型の催涙スプレー1本を、健康上の理由で行うサイクリングに際して、もっぱら防御用としてズボンのポケットに入れて携帯していた事案 |
護身用であれば常に正当な理由があるとはされないことにご注意ください。例えば、次のような場合は正当な理由が否定される可能性が高いです。
☑ 日中のイベントなど護身の必要性が低い場合
☑ 市販の特殊警棒を改造してより強力にした場合
☑ 催涙スプレーの噴霧力が強く周囲に拡散する場合
☑ 反社会集団のメンバーが携帯している場合
☑ 格闘技経験のある屈強な成人男性が携帯している場合
☑ 「売られたケンカを買う」つもりで携帯していた場合
凶器携帯罪と逮捕
凶器携帯罪で逮捕されることはまずありません。
なぜなら、凶器携帯罪のように拘留または科料に当たる罪については、たとえ逮捕の要件を満たす場合でも、次の2つのいずれかに該当する場合しか逮捕できないと定められているからです(刑事訴訟法199条1項但書)。
①住居不定
②捜査機関の出頭要請に応じない場合
住居があっても警察官に住所を言わない場合、住所を言っても免許証等の裏づけ資料を見せない場合は、住居不定とみなされることがあるためご注意ください。
凶器携帯罪の処分の流れ
1.警察官の所持品検査
特殊警棒や催涙スプレーは警察官の所持品検査によって発見されることが多いです。
巡回パトロール中の警察官や自動車警ら隊が不審な人物を見かけると、声をかけて職務質問を行います。さらに所持品検査を行い特殊警棒や催涙スプレーを見つけると、最寄りの警察署へ連行することが多いです。
警察署で始末書を書かされて終わりになることもありますが、刑事事件として扱われることも少なくありません。
供述調書や取調べ状況報告書が作成されれば、凶器携帯罪で事件化していると考えてよいでしょう。
2.書類送検
所持品検査を受けた日から2,3か月で警察から検察に捜査書類が引き継がれます。そのタイミングで担当の検察官が決まります。
検察官が処罰が相当と考えた場合は、被疑者を呼び出して略式裁判の説明をし、その後に簡易裁判所に略式起訴します。
⇒略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説
検察官からの呼び出しがない場合、または呼び出しがあっても略式裁判の説明がない場合は不起訴になります。不起訴になれば前科はつきません。
3.略式裁判
凶器携帯罪で略式起訴されると、略式裁判で審理されます。略式裁判は検察官が提出した書類のみで審理され、法廷は開かれません。
そのため、本人は裁判所に行く必要なく、「略式命令」と言う書面で結果が通知されます。略式命令は裁判所から自宅に郵送されます。
凶器携帯罪で不起訴を獲得するために
凶器を携帯していたことについて正当な理由があると言える場合、弁護士が意見書でどうして正当な理由があると言えるのかを指摘し、嫌疑不十分による不起訴を求めます。
ただ、上で述べたように、正当な理由があるか否かは様々な事情の総合判断になるため、事件によってはかなり微妙なケースもあります。
正当な理由がないという主張だけで押し切ろうとした場合、検察官に公判請求され正式裁判になるリスクもあります。
そのため、仮に正当な理由が認められない場合の予備的な主張として、「本人が反省していること」や「家族が監督を誓約していること」等の情状を指摘し、起訴猶予による不起訴を求めます。贖罪寄付をすることも有用です。
このようにウェルネスの弁護士は意見書で2段階の主張をすることによって、凶器携帯罪で不起訴になる可能性を最大化するようにしています。