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復権とは?恩赦による復権のメリット3つと実情を弁護士が解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
復権とは?
天皇陛下の即位に伴い、令和元年10月22日に恩赦が実施されました。「恩赦」とは、刑事裁判の内容などを政府が変更するもので、三権分立の例外です。今回の恩赦のように、国家的な慶弔に際して行われることが多いです。
「復権」とは恩赦のひとつで、刑罰に伴う資格の制限を解除することです。
恩赦には、政令により一律に実施される政令恩赦と申請者のみに個別に実施される個別恩赦の2つがあります。個別恩赦はさらに、常に申請できる常時恩赦と、一定の期限を切って、特別の基準に該当する者のみが申請できる特別基準恩赦に分けられます。
今回は、政令恩赦として一律に復権が行われますが、それに漏れた人のために、特別基準恩赦で復権する道も用意されています。
このページでは政令恩赦としての復権について解説しています。
復権の要件
今回の政令恩赦による復権の要件は次の2つです。
①罰金を完納してから令和元年10月21日までに3年以上を経過した
②罰金を完納してから令和元年10月21日までに禁固以上の処分を受けたことがない
*厳密にいうとこれ以外にもありますがほとんどの方には関係がないため省略します。
これらの要件を満たす対象者は55万人に上ります。
ここでいう「罰金」とは刑事処罰としての罰金です。交通違反で青切符を切られたときに納める反則金のことではありません。反則金や違反点数の付加、免許取消し等の行政処分は刑罰ではありませんので、今回の復権による影響はありません。
また、刑事処罰であっても、懲役刑・禁固刑のように罰金より重い刑罰については対象外です。逆に、罰金より軽い拘留・科料の処分を受けた人も対象にはなりません。
罰金になることが多い犯罪として次のようなものがあります。
【罰金になりやすい犯罪】
交通違反 | 飲酒運転、スピード違反、無免許運転 |
交通犯罪 | 過失運転致死傷(軽傷のケース) *重傷のケースでは禁固刑・懲役刑の可能性が高くなります。 |
財産犯罪 | 窃盗、遺失物横領 |
粗暴犯罪 | 暴行、傷害、脅迫 |
性犯罪 | 痴漢、盗撮、児童買春 |
選挙犯罪 | 公職選挙法違反 |
その他 | 漁業法違反、廃棄物処理法違反 |
復権しても前科は消えない
復権は、あくまでも前科に伴う資格制限の効果を将来にわたって消滅させるものであって、前科そのものを消滅させるわけではありません。復権しても前科は一生残ります。
そのため、復権後に刑事事件を起こした場合、その事件の刑事手続において、復権の原因となった前科が不利に考慮されないということまで保証されるわけではありません。
また、海外渡航のためビザを取得する際に、渡航先の国によって前科が不利に考慮されないということまで保証されるわけではありません。
復権の3つのメリット
(1)資格の制限がなくなる
国家資格の中には罰金刑を受けたことにより制限される資格があります。例えば、看護師についての法律には次のような定めがおかれています。
次の各号のいずれかに該当する者には、前二条の規定による免許を与えないことがある。 一 罰金以上の刑に処せられた者 |
このような資格の制限は一生続くわけではありません。罰金を納付した後5年が経過すれば、刑の言渡しは効力を失い資格の制限は消滅します(刑法34条の2)。
【刑法34条の2のまとめ】
要件 | 効果 |
禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したとき | 刑の言渡しは効力を失う |
罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したとき |
今回の復権はこの5年の期間を3年に短縮するものです。つまり、罰金を完納してから、令和元年10月21日までに3年経過していれば、その間に禁固以上の刑を受けていない限り、罰金に伴う資格の制限はなくなります。
(2)公民権が回復する
公民権とは選挙権と被選挙権のことです。公職選挙法、政治資金規正法などの選挙に関する法律に違反し、罰金刑を受けたときは、裁判が確定した日から5年間、公民権が停止されることがあります。
この場合でも、①罰金を完納してから令和元年10月21日までに3年以上が経過し、②その間に禁固以上の刑を受けたことがなければ、10月22日以降は、再び選挙権・被選挙権を行使することができるようになります。
今回の復権によって停止されていた公民権が回復する人は約430人です。
(3)履歴書に書く必要がなくなる
罰金であっても刑罰である以上、前科になります。そして、前述したように、復権しても前科は残ります。前科については、判例で、履歴書の賞罰欄に記載する必要があるとされています。
もっとも、復権した場合は、履歴書の賞罰欄に前科を書く必要はないと考えられます。復権の目的は、罪を犯した人の更生意欲を高め、社会復帰を促進することです。にもかかわらず、履歴書の賞罰欄に前科を書かなければならないとすれば、社会復帰を妨げることになってしまうからです。
今回の復権では、①罰金を完納してから令和元年10月21日までに3年を経過しており、②その間に禁固以上の刑を受けたことがなければ、罰金の前科を履歴書の賞罰欄に記載する必要がなくなります。
復権の実情-ほとんどの人には関係ない
これまで見てきたように復権には2つのメリットがありますが、ほとんどの人にとっては実質的なメリットはないと思われます。
(1)資格制限の解除について
懲役・禁固の前科によって制限が生じる資格はたくさんありますが、罰金前科によって制限がかかってくる資格はそれほど多くはありません。メジャーな資格では、医師、看護師、薬剤師などです。
また、これらの資格についても、法律で、「罰金以上の処分を受けたときは免許を与えないことがある」という規定ぶりになっており、必ず免許を与えないとされているわけではありません。
実際にも、罰金程度の前科で免許の交付を拒絶される可能性は低いと思われます。そのため、資格関連でメリットを受けるのは、次のような方になるでしょう。
Aさんは医学部を卒業し、半年後に医師国家試験を控えている。ただ、3年前にスピード違反で罰金の処分を受けていることから、試験に受かっても、当分の間、医師免許を取得できないのではないかと思い悩み、試験勉強も手につかない。 |
このような方は、今回の復権により、「試験に受かっても医師になれないのではないか?」という不安が取り除かれ、試験勉強に専念できるというメリットがあります。ただ、このような人が数多くいるとも思われませんので、ほとんどの人にとっては無関係とうことになります。
(2)公民権の回復について
公民権の回復は確かに大きなメリットではありますが、今回の復権によって、実際に公民権が回復する方は約430人で対象者(55万人)の0.0008%にすぎません。ほとんどの人にとっては関係ないということになります。
(3)履歴書への記載について
復権すれば、履歴書の賞罰欄に罰金の前科を書く必要はなくなりますが、そもそも賞罰欄のない履歴書を使えば、復権していなくても前科を書く必要はありません。
また、前科は高度のプライバシー情報であり、刑事事件を起こしたことについて実名報道されていない限り、外部に漏れることは通常ありません。採用面接を受けた会社が警察などに電話して、前科の有無を確認することもできません。
そのため、履歴書に書く必要がなくなるという点でも実質的なメリットはないということになります。
根強い批判も
復権を含む恩赦については、被害者を始めとする国民感情を無視して「棚ボタ」的に恩典を与えることはおかしいとの根強い批判もあります。復権については、前述した通り、ほとんどの人にとっては無関係であり、効果についても疑問があります。
今後、復権を含む恩赦は、より慎重かつ抑制的に運用されていくかもしれません。
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