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刑の消滅とは?前科があっても資格をとって活躍できる!
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
刑の消滅とは?
刑の消滅とは、一定の要件を満たした場合に、刑の言い渡しの効力を消滅させる制度です。刑が消滅すると刑の言い渡しがなかったことになります。そのため、前科による資格の制限がなくなります。
例えば、医師法では、「罰金以上の前科があれば医師免許を与えないことがある。」と定められています。
【医師法】(抜粋)
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もっとも、罰金以上の前科があっても、刑が消滅すればこのような制限はなくなります。そのため、他の要件を満たしている限り、必ず医師免許を取得できるようになります。
ただし、前科によって失った資格が刑の消滅により復活するわけではありません。例えば、公務員であれば、禁錮以上の前科があれば当然に失職します。
東京都庁の職員が禁錮以上の前科があることを理由として失職した場合、刑が消滅すれば、自動的に東京都庁の職員に戻れるわけではありません。
ただ、公務員になる資格は回復しますので、公務員試験を受けることはできますし、試験に合格すれば東京都庁の採用選考に応募することもできます。
【地方公務員法】(抜粋)
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*国家公務員法にも同様の規定があります。
刑の消滅の要件
1.執行猶予のついた懲役・禁固刑
執行猶予を取り消されることなく猶予期間が経過したときに、刑が消滅します。例えば、猶予期間が8月3日までの場合、翌日の8月4日に刑が消滅します。
【刑法】
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2.執行猶予のつかない懲役・禁固刑(実刑)
刑の執行が終了したときから、罰金以上の刑が確定することなく10年を経過したときに刑が消滅します。
【刑の執行が終了したとき】
満期出所 | 出所日の翌日 |
仮釈放 | 仮釈放期間の満了日(=もし満期出所だった場合の出所日)の翌日 |
⇒仮釈放とは?仮釈放につながる3つのポイント等を弁護士が解説
3.罰金刑
罰金刑の執行が終了したときから、罰金以上の刑が確定することなく5年を経過したときに刑が消滅します。「刑の執行が終了したとき」とは罰金を納めた日のことです。
【刑法34条の2第1項】
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*記載したもの以外にも刑が消滅する事由はありますが、非常にまれなケースのため説明は省略させていただきます。
刑の消滅と前科
刑が消滅しても前科が消えるわけではありません。前科とは「過去に有罪の裁判を受けた事実」を意味しますが、刑が消滅してもその事実自体がなくなるわけではないからです。
刑が消滅した後に、別の犯罪を起こした場合、前科があることを理由として処分が重くなることもあります。
【最高裁昭和29年3月11日判決】 所論刑法三四条ノ二に「刑ノ言渡ハ其効力ヲ失フ」とあるのは、刑の言渡に基く法的効果が将来に向つて消滅するという趣旨であつて、刑の言渡を受けたという既往の事実そのもの(例えば、刑法四五条にいわゆる、或罪ニ付キ確定裁判アリタルトキ)まで全くなくなるという意味ではない。 |
刑の消滅-履歴書に前科を書かないといけない?
履歴書に賞罰欄があれば、前科について記載する義務があります。前科は、会社が採用するかどうかを決める上で重要な判断材料になるからです。
*履歴書に賞罰欄がなければ、前科について記載する義務はありません。
前科があるのに履歴書の賞罰欄に記載せず、入社後に前科が発覚した場合は、告知義務に違反したとして懲戒解雇されるリスクがあります。
もっとも、たとえ前科があっても、刑が消滅すれば、履歴書の賞罰欄に記載する義務はありません。刑の消滅は、社会復帰を促進する制度ですが、刑が消滅した後も履歴書に前科を記載しなければならないとすると、社会復帰の障害になってしまうからです。
刑の消滅-海外渡航の制限はある?
1.日本からの出国について
執行猶予中の方や仮釈放中の方は、パスポートを申請しても発給されなかったり渡航先が限定されることがあります。
もっとも、刑が消滅していれば、執行猶予中でも仮釈放中でもないため、これらを理由としてパスポートが発給されなかったり、渡航先が限定されることはありません。
2.海外からの入国について
渡航先のビザを取得する際に、渡航先の大使館から犯罪経歴証明書の提出を求められることがあります。犯罪経歴証明書は警察で発行してもらいます。
犯罪経歴証明書に前科が記載されていれば、ビザが発行されなかったり、判決書の現地語訳等の提出を求められることがあります。
刑が消滅すれば、犯罪経歴証明書に前科は記載されないので、このような制限もなくなります。
刑の消滅後の流れ
刑の消滅の主要な効果は「前科による資格の制限がなくなる」ということです。そこで、資格制限がどのような流れで解除されるのかを解説します。
①前科照会
資格の欠格要件に該当していないかを確認するため、国家資格の監督官庁が対象者の本籍地の市町村役場に前科の照会をします。
②刑の消滅照会
市町村役場の職員が犯罪人名簿を参照して、刑が消滅しているかどうかを確認します。たとえ刑の消滅期間が経過していても、その期間内に罰金以上の刑が確定していれば、刑が消滅していない可能性があります。
罰金刑のうち道路交通法違反と車庫法違反については、市町村役場の犯罪人名簿には記録されていないため、検察庁に確認する必要があります。
③監督官庁への報告
市町村役場が調査結果を監督官庁に報告します。刑が消滅していればその旨報告します。これにより、対象者の資格制限が解除されます。
刑の消滅前に懲役・禁錮・罰金刑を受けたとき
刑(「前刑」といいます)が消滅する前に、再び犯罪を犯し、懲役・禁錮・罰金刑(「後刑」)が確定した場合は、前刑の消滅期間は中断します。
この場合、後刑の執行を終わった時点で、前刑と後刑の消滅期間が同時にスタートします。
もっとも、後刑が先に消滅すれば、最初から中断事由がなかったことになるため、前刑は当初の消滅期間の経過によって消滅します。つまり後刑の影響を受けないことになります。
【具体例】
2022年3月31日 | 刑務所から満期出所 |
2022年4月1日 | 刑の消滅時効(10年)がスタート |
2025年4月1日 | 交通違反で罰金を支払った |
2030年4月1日 | 罰金刑が消滅 |
2032年4月1日 | 実刑判決が消滅(罰金刑の影響なし) |
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