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被害者参加制度とは-被害者ができることや被告人の対応方法

被害者参加制度とは

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

被害者参加制度とは

被害者参加制度とは、被害者の声を刑事裁判に反映させるための制度です。2008年にスタートしました。被害者参加制度によって、被害者や関係者は次のような活動ができるようになりました。

 

公判への出席

検察官への意見申述

証人尋問

被告人質問

被害者論告

 

被害者参加制度を利用できる犯罪

被害者参加制度は以下の犯罪に限り利用することができます。

 

【被害者参加制度を利用できる犯罪】

 

犯罪の類型

具体例

故意の犯罪行為により人を死傷させた罪

殺人、傷害致死、傷害、強盗致死傷、強制わいせつ致死傷

重大な性犯罪

強制性交等、準強制性交等、強制わいせつ、準強制わいせつ

その他の故意犯

逮捕・監禁、略取・誘拐

②、③の行為を含む犯罪

 

①~④の未遂罪

 

一定の過失犯罪

業務上過失致死傷、重過失致死傷

自動車事故に伴う犯罪

過失運転致死傷

これらの犯罪には、「被害者や遺族の心身に大きなダメージを与え得る」という共通点があります。

 

【被害者参加制度を利用できない犯罪】

 

犯罪のタイプ

具体例

人を死傷させない財産犯罪

窃盗、詐欺、横領

罰金刑が規定されている性犯罪

迷惑防止条例違反、児童ポルノ法違反

 

【被害者参加がよく利用される犯罪】

被害者参加制度が最もよく利用されるのは、強制わいせつ(致傷)と強制性交等(致傷)の2つです。被害者が死亡した交通事件の裁判にご遺族が参加されることも少なくありません。

 

 

これらの犯罪で起訴された場合は、被害者参加があることを前提として、弁護戦略を立てた方がよいでしょう。

 

 

【不起訴になると被害者参加できない】

被害者参加制度は、公開法廷で行われる刑事裁判に被害者の声を反映させるための制度です。そのため、被害者参加の対象となる犯罪であっても、不起訴となった場合や略式起訴され非公開で審理される場合は、被害者参加をすることはできません。

 

 

被害者参加制度を利用できる人

被害者参加制度を利用できるのは被害者、一定の関係者、委託を受けた弁護士です。 

 

被害者

被害者の直系親族または兄弟姉妹(被害者が死亡した場合や心身に重大な故障がある場合)

被害者の法定代理人

①~③の者から委託を受けた弁護士

 

被害者参加をした人を「被害者参加人」といいます。

 

 

被害者参加制度と弁護士

被害者は、単独で被害者参加制度を利用することができますが、実務では、弁護士に委託するケースがほとんどです。被害者から委託を受けた弁護士を「被害者参加弁護士」といいます。

 

 

被害者参加弁護士の多くは、犯罪被害者の支援に関心があり、弁護士会の被害者委員会に所属し、被害者支援名簿に登録しています。

 

 

被害者は、警察や法テラスの相談窓口を通じて、これらの弁護士を紹介されることが多いです。ネット検索で弁護士を探して依頼するケースは少ないです。

 

 

以下では、被害者参加によりどのような活動ができるのかについて解説します。

 

 

被害者参加制度でできる6つの活動

1.公判への立会い

被害者参加人や被害者参加弁護士(これから「被害者参加人ら」といいます)は、公判期日に出廷することができます。傍聴席ではなく、検察官の隣に座って、当事者として裁判に臨むことができます。

 

 

被害者参加人が、精神的な負担を感じないよう、被告人や傍聴人から姿が見えないように、衝立などで遮へいしてもらうことができます。実務ではほとんどのケースで遮へいされています。

 

 

性犯罪の裁判では、被害者参加弁護士のみ出廷することが多いです。

 

 

2.検察官への意見申述

被害者参加人らは、検察官の権限行使に関して意見を述べることができます。検察官は、意見を述べられた事項について、権限を行使するかしないかを決めたときは、そのように決めた理由を、意見を述べた人に説明しなければいけません。

 

【意見の例】

「被害者の生前の写真を証拠調べ請求してもらいたい。」

「起訴事実を傷害致死から殺人に変更してもらいたい。」

「判決に納得がいかないので控訴してほしい。」

 

3.証人尋問

被害者参加人らは、刑事裁判で、情状証人に対して反対尋問することができます。ただし、尋問できるのは、一般情状のみで、犯罪事実に関することは尋問できません。

 

【一般情状とは】

反省や示談、再犯の可能性など、犯罪事実そのものではありませんが、刑罰に影響を与えうる事情をいいます。

 

被害者参加人らは、情状証人が検察官や弁護士の尋問に対して回答したことについて、その証明力を争うために必要な事項に限り反対尋問することができます。

 

【反対尋問の例】

「あなたは被告人を監督すると言いましたが、具体的にどのように監督しますか?」

 

被害者参加弁護士が被害者の意向をふまえ尋問することが多いです。

 

【証人尋問の流れ】

①弁護士が情状証人に主尋問を行う

②検察官が反対尋問を行う

③被害者参加弁護士が尋問する

 

4.被告人質問

被害者参加人らは、意見陳述(後述)の参考にするため、被告人に質問することができます。証人尋問と異なり、一般情状に限られず犯罪事実についても尋ねることができます。

 

 

ただ、質問できるのは起訴された事実の範囲に限られます。例えば、傷害致死で起訴された被告人に対して、「殺すつもりがあったんじゃないか?」と聞くことは相当ではありません。このようなケースでは、弁護人が異議を出すべきです。

 

 

被害者参加弁護士が被害者の意向を踏まえ、被告人質問をすることが多いです。

 

【被告人質問の流れ】

①弁護人が被告人に主質問を行う

②検察官が被告人に反対質問を行う

③被害者参加弁護士が被告人に質問する

 

5.心情に関する意見陳述

被害者参加人らは、被害者の心情を裁判で述べることができます。心情に関する意見陳述は、被害者参加をしなくてもすることができますが、実務では、被害者参加とセットですることが多いです。

 

 

心情に関する意見陳述は、犯罪事実に関する証拠にはなりませんが、量刑に関する証拠にはなります。被害者が自身の心情を書いた紙を被害者参加弁護士が朗読して、意見陳述を行うことが多いです。

 

 

6.被害者論告

被害者参加人らは、事実または法律の適用について意見を述べることができます。被告人の行為がどれだけ悪質で、どのような刑罰がふさわしいか、被害者の立場から意見を述べます。

 

 

意見のひとつとして求刑を行うこともできます。求刑は、法定刑の範囲であれば、検察官の求刑を上回っても問題ありません。

 

 

被害者論告は起訴された事実の範囲内で行う必要があります。傷害致死の裁判で、殺人罪の適用を主張するなど、被害者論告が、起訴された事実の範囲を超えるときは、弁護人が異議を出すべきです。

 

 

被害者論告は、検察官の論告や弁護人の最終弁論と同じく、単なる意見であって、裁判の証拠になるわけではありません。被害者参加弁護士が、事前に用意した紙を朗読して被害者論告を行うことが多いです。

 

被害者参加の流れ

よくある被害者参加の流れは次のとおりです。

 

【起訴】

①起訴される

②被害者が検察官に被害者参加を申し出る

③検察官が裁判所に被害者の申し出を通知する

④裁判所が弁護士の意見を聞いて被害者参加を許可する

④被害者参加弁護士が選定される

 

【初公判】

冒頭手続

②検察側の証拠調べ

③弁護側の証拠調べ

情状証人に対する反対尋問

被告人に対する反対質問

 

【第2回公判】

①心情に関する意見陳述

②検察官の論告・求刑

③被害者論告

④弁護人の最終弁論

⑤被告人の最終陳述

⑥結審

 

【判決期日】

判決の言渡し

 

被害者参加と損害賠償命令

被害者参加をしたケースで、判決までに示談がまとまりそうもない場合は、被害者側から損害賠償命令を申し立てられることが多いです。

 

♦業務上過失致死傷、過失運転致死傷などの過失犯は、損害賠償命令を利用することはできません。

♦損害賠償命令の詳細は以下のページをご覧ください。

損害賠償命令を申し立てられたら

 

被害者参加に被告人はどう対応するか?

証人尋問や被告人質問、意見陳述など被害者参加人らの個々の活動について、不相当な内容があれば、弁護人は異議を申し立てることができます。

 

ただ、裁判員裁判では、弁護人が異議を連発すると、被害者参加人をいじめているように思われ印象が悪くなることもありますので、異議を出すときは口調や態度に注意すべきです。あえて異議を出さないこともあります。

 

裁判員に対するインパクトがもっとも強いのは心情に関する意見陳述です。被告人がいかに悪質なことをしたのか、被告人を許せないと思う気持ちがどれほど強いのかについて、被害者参加人が涙ながらに陳述します。

 

それを見聞きしている裁判員が一人、また一人ともらい泣きしていき、法廷のムードが一気に被害者寄りになることも少なくありません。

 

被告人としてもひたすら言われっぱなしで終わりにするのではなく、心情に関する意見陳述の終了後に、弁護人が裁判長に被告人質問の再開を求め、被告人に陳述を聞いた感想を話してもらうようにします。