• トップ
  • > 損害賠償命令を申し立てられたら

損害賠償命令を申し立てられたら

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

損害賠償命令とは

損害賠償命令とは、刑事裁判の終了後に、刑事裁判を担当した裁判官が、加害者に対して、被害者側に損害賠償をするよう命令する制度です。

 

被害者の加害者に対する損害賠償請求は、たとえその原因が刑事事件であっても、民事上の紛争になります。そのため、被害者が裁判で損害賠償を求めるためには、民事裁判を提起するのが原則です。

 

しかし、損害賠償命令を利用すれば、新たに民事裁判を提起することなく、刑事裁判を担当した裁判官にそのまま損害についても判断してもらえます。

 

損害賠償命令の3つの特徴

(1)被害者の立証の負担が軽くなる

被害者が加害者に対して、民事裁判で損害賠償を請求する場合は、被害にあったことや加害者の故意、損害の内容や金額などを一から立証しなければいけません。

 

これに対して、損害賠償命令の手続では、最初の審理で、刑事裁判を担当した裁判官が、刑事裁判の記録を職権で取り調べることになっています。

 

これにより、刑事裁判での心証が損害賠償命令の手続に引き継がれるので、被害者としては、損害の内容と金額だけを立証すれば足りることになり、負担が大幅に軽くなります。

 

(2)進みが早い

損害賠償命令の手続は、原則として、4回以内の審理で終結しなければならないとされています。また、初回の審理は、刑事裁判の判決が言い渡された直後に始まります。

 

審理と審理の間のインターバルは2週間~1ヶ月程度です。民事裁判は、判決までに1年以上かかることも少なくありませんが、損害賠償命令では、長くても4か月程度で終了することになります。

 

(3)手数料が安い

損害賠償命令の手数料は、請求金額にかかわらず2000円です。これに対して、民事裁判では請求金額によって手数料が増えていきます。例えば、100万円を請求する場合、手数料は1万円となります。損害賠償命令の方が手数料が安くなるため、被害者にとって利用しやすくなっています。

 

損害賠償命令の効果

損害賠償命令が出ると、決定書が当事者(弁護士)に送達されます。決定書が届いた日から2週間以内に、当事者から異議が出なければ、損害賠償命令は確定判決と同一の効力を有します。

 

そのため、加害者から賠償金が支払われなければ、加害者の給与や不動産を差し押さえることも可能になります。

 

損害賠償命令に納得がいかないとき

損害賠償命令に納得がいかないときは、決定書が届いた日から2週間以内に、異議を申し立てることにより、通常の民事訴訟に移行します。

 

この場合は、刑事裁判を担当した裁判官とは別の民事裁判官が審理を担当することになります。民事訴訟に移行した場合、損害賠償命令の手続で取り調べられた刑事事件の記録が管轄の裁判所に送付されます。

 

損害賠償命令を申し立てることができる犯罪

損害賠償命令を申し立てることができる犯罪は法律で限定されています。損害賠償命令は被害者保護のための制度ですから、被害者(側)が心身ともに傷つき民事裁判にはなかなか踏み切れないタイプの犯罪に限られています。

 

【損害賠償命令を利用できる主な犯罪】 

①故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪(殺人罪、傷害致死罪、傷害罪など)

強制わいせつ強制性交等、準強制わいせつ、準強制性交等監護者わいせつ監護者性交等

③逮捕・監禁罪、誘拐罪

 

【損害賠償命令を利用できない主な犯罪】

痴漢盗撮(迷惑防止条例違反)、公然わいせつ児童買春などの性犯罪

窃盗詐欺横領など人の身体を傷つけない純粋な財産犯

③過失運転致傷などの過失犯

 

損害賠償命令を利用できないケース

①公判請求されない場合

損害賠償命令は、刑事裁判の終了後に、法廷で、刑事事件を担当した裁判官が損害について審理する手続です。そのため、対象となる犯罪であっても、不起訴になったときは利用することができません。起訴された場合でも、略式裁判で審理され、当事者が法廷に来ないときは、損害賠償命令を利用することはできません。

 

②無罪判決の場合

損害賠償命令は損害の内容や金額について審理する手続です。そのため、被告人が有罪であることが前提となります。無罪判決が下された場合は、損害賠償命令の申立ては却下されます。

 

損害賠償命令を申し立てられやすいケース

損害賠償命令を申し立てられやすいケースは、強制わいせつ傷害など、執行猶予になる見込みが十分にある刑事事件です。

 

殺人や強制性交等致傷など長期の実刑判決が予想される刑事事件では、そもそも加害者から賠償金を回収できないおそれが強く、損害賠償命令が申し立てられることは少ないです。

 

もっとも、加害者に不動産等の資産があることが被害者側に知られているときは、長期の実刑判決が見込まれる場合でも、損害賠償命令を申し立てられる可能性が高くなります。

 

損害賠償命令と示談・被害弁償

刑事事件で示談が成立していれば、通常、示談書のなかに「示談金以上の損害賠償義務は負わない」という精算条項が入りますので、損害賠償命令が申し立てられることはありません。

 

また、示談が成立していなかったとしても、十分な被害弁償をしていれば、損害賠償命令が申し立てられることはないでしょう。したがって、損害賠償命令が申し立てられるのは、示談も十分な被害弁償もなされていないケースに限られます。

 

損害賠償命令を申し立てられたら執行猶予は難しい?

被害者がいる刑事事件では、示談や十分な被害弁償をしていれば、執行猶予の可能性が高まります。損害賠償命令を申し立てられるということは、示談や十分な被害弁償がなされていないことを意味します。

 

そのような状況で、さらに損害賠償命令を申し立てられると、実刑の可能性が高くなるのでしょうか?

 

結論からいうと、必ずしもそういうわけではありません。むしろ、被告人や弁護士の対応次第では、執行猶予の可能性が高まることもあります。例えば、被告人に、損害賠償命令の手続で決められた賠償額を支払う意思がある場合、被告人質問で次のようなやりとりをします。

 

弁護士:「損害賠償命令の手続で決まった損害額については異議を申し立てず、責任をもって被害者にお支払いすることを約束できますか?」

被告人:「はい。」

 

その後、弁護士が、最終弁論において、裁判官に対し「現時点では被害弁償はなされていませんが、損害賠償命令の手続を通じて、十分な被害賠償がなされることが見込まれています。」と主張します。

 

こうすることにより、「十分な被害弁償の見込みがある」という情状ができますので、執行猶予の可能性が高まります。ウェルネスの弁護士も、実際にこのような主張をして執行猶予を獲得したことがあります。

 

損害賠償命令を申し立てられた場合の対応

損害賠償命令の手続において、被害者側の弁護士は、相場よりも高額な損害賠償を求めてくるケースが多いです。

 

損害賠償命令の手続は、刑事裁判で判決が言い渡された後にスタートします。加害者側の対応によって、一度決まった執行猶予が取り消されたり、さらに刑が重くなることはありません。そのため、被害者側の主張に納得いかない点があれば、積極的に反論すべきです。

 

また、金額的には納得しているが、一括では支払えないという場合は、損害賠償命令の手続の中で、分割払いの和解を成立させる余地もあります。まずは刑事事件を担当した弁護士に相談するとよいでしょう。

 

損賠賠償命令と弁護士

(1)被害者側の弁護士

損害賠償命令は被害者単独でも利用することができますが、実際は全てのケースで、弁護士を立てて利用していると思われます。国選弁護士や弁護士会の犯罪被害者支援委員会に属している弁護士が被害者側につくことが多いです。

 

(2)加害者側の弁護士

加害者側の弁護士は、刑事事件を担当した弁護士がそのまま就任することが多いです。ただ、刑事裁判と損害賠償命令は別の手続ですので、別途委任を受け、裁判所に委任状を提出する必要があります。

 

損害賠償命令と弁護士費用

ウェルネスでは損害賠償命令の申立てを受けた方をサポートしています。弁護士費用は次の通りです。

 

(1)既に刑事事件をご依頼されている方

10万円(消費税別)

 

(2)損害賠償命令のみをご依頼される方

20万円(消費税別)

 

東京、埼玉南部、千葉西部、神奈川東部以外は、別途交通費と日当を申し受けます。

 

ウェルネスの弁護士は、加害者・被害者双方の弁護士として損害賠償命令制度を経験したことがあります。損害賠償命令を申し立てられて困っているときは、お気軽にご相談ください。

 

【関連ページ】

刑事事件と民事裁判

被害者参加制度とは-被害者のできることや被告人の対応方法