論告・求刑とは?執行猶予か実刑かはこのフレーズに注目!

論告求刑

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

論告とは?

1.検察側の総まとめ

論告とは、刑事裁判で検察官が事実や法律の適用について意見を述べることです。論告は検察官の訴訟活動の集大成です。

 

 

刑事裁判では検察官が有罪を立証する責任を負っています。そのため、検察官は、法廷で様々な証拠を提出し、被告人が有罪であることを立証しようとします。

 

 

証拠調べがひと通り終わった後、検察官と弁護士・被告人にそれぞれ意見を述べる機会が与えられます。検察官は、証拠調べの結果をふまえて、なぜ被告人が有罪であるといえるのか、被告人にどのような刑罰を科すべきかについて意見を述べます。これが論告です。

 

 

2.論告要旨

検察官は、論告の内容を「論告要旨」というタイトルのペーパーにまとめて、法廷で読み上げます。軽微な自白事件では、論告は1枚で終わることが多いです。否認事件では数十枚になることもあります。

 

 

3.裁判員裁判の論告

裁判員裁判では、検察官は論告要旨のペーパーは使用せず、カラーで作成したわかりやすいプレゼン資料を裁判員に配布し、平易な言葉を使って論告を行います。パワーポイント等のビジュアル資料を活用することも多いです。

 

【論告の決裁】

論告の内容は、裁判員裁判の場合を除き、公判担当の検察官に任されています。裁判員裁判の論告については、公判部の部長や副部長の決裁を受ける必要があります。

 

求刑とは?

1.論告の結論

求刑とは、論告の最後で、検察官が裁判所に対してどのような刑罰を求めるのかを明らかにすることです。

 

 

言い回しは決まっており、「相当法条を適用の上、~の刑に処するのを相当と思料する。」とするのが一般的です。「~」の部分に「懲役5年」など具体的な刑罰が入ります。

 

 

2.相当法条とは

「相当法条」とは「被告人が違反している法令の条項」のことです。検察官は既に起訴状で「刑法〇条〇項」等と条項を特定しているため、省略して「相当法条」といいます。

 

 

3.裁判員裁判の求刑

裁判員裁判では、検察官は、わかりやすく論告の内容をまとめた資料を裁判員に配布します。資料の一番下の部分が「懲役  年」となっており、空欄に検察官の求刑を書き込ませます。

 

 

裁判員自身に書き込ませることによって、検察官の求刑を印象づけようとします。

 

 

4.求刑が終わったら

求刑が終わると検察官の第1審での訴訟活動は終了します。続いて、弁護士による弁論、被告人による最終陳述がなされ、審理は全て終了します。その後に判決が言い渡されます。

 

求刑は誰が決める?

1.通常の場合

多くの検察庁では、分業制になっており、捜査と公判は別の検察官が担当します。意外に思われるかもしれませんが、求刑を決めるのは公判担当の検察官ではなく、捜査担当の検察官です。つまり、起訴した時点で求刑が決まっているということです。

 

 

2.求刑変更をする場合

起訴後に示談や被害弁償などが行われた場合は求刑変更の手続を経て求刑を変更します。公判担当の検察官が公判部の部長と副部長の決裁を受け、求刑を変更します。

 

 

3.検察庁としての意見

このように求刑はかなり厳格に決められており、検察官個人の意見というよりは検察庁としての見解になります。

 

求刑の相場

裁判所の量刑にも相場があるように求刑にも相場があります。検察庁から各検察官に求刑の参考資料として「処分参考例」という冊子が貸し出されます。

 

 

処分参考例には、犯罪ごとに事案の概要と実際の求刑が多数リストアップされています。検察官はこの処分参考例を基準に求刑の大枠を決め、事件ごとの事情をふまえて微調整します。

 

 

求刑は判決に影響する?

裁判所は求刑に拘束されるわけではありません。とはいえ実務上は、求刑を参考にして判決を言い渡しています。

 

 

一般的に、執行猶予がつくケースでは求刑通りの刑になることが多いです。これに対して実刑判決のケースでは求刑の8割程度になることが多いです。裁判員裁判では、求刑を超える判決が下されることもあります。

 

求刑と執行猶予の関係

1.執行猶予の可能性が高い求刑は?

求刑が懲役(禁固)3年以下の場合は執行猶予がつく可能性が高いです。3年以下であれば、法律上、執行猶予をつけることができますし、判決が求刑を超えることはほとんどないからです。

 

 

検察官も求刑で「執行猶予」というワードを使うことはありませんが、「この被告人は執行猶予でいいだろう。」と判断した場合は、求刑を3年以下にとどめます。

 

 

ただし、前科がある場合は求刑が3年以下であっても安心できません。例えば、窃盗で執行猶予中に、また窃盗で起訴された場合、求刑が1年6か月だからといって、執行猶予の可能性が高いとはいえません。

 

 

2.求刑何年までなら執行猶予をとれる?

執行猶予をつけられるのは懲役3年以下の場合のみと法律で決められています。そうすると、検察官から懲役3年を超える求刑をされると、実刑になる可能性が高いといえます。

 

 

ただ、求刑3年6か月であれば、被害者と示談が成立していれば、6か月減刑された上で、「懲役3年・執行猶予5年」の判決になることもあります。

 

 

求刑が4年以上になると、執行猶予の可能性はかなり低くなります。ウェルネスの弁護士は求刑4年6月で執行猶予を獲得したことがありますが、非常に珍しいサイバー犯罪で量刑相場が形成されていないという事情がありました。

 

 

実刑狙いの論告によくあるフレーズ

検察官が「この被告人には実刑判決しかない」と思っている場合は、論告で次のようなフレーズが出てくることが多いです。

 

☑ 矯正施設で徹底した矯正教育が必要

☑ もはや社会内での更生は不可能

☑ 実刑をもって処断すべき

 

このようなフレーズが出てくると、検察官は本気で実刑をとりにきているということです。裁判官もそのようなメッセージを確実に理解しており、実刑判決を言い渡す可能性が高くなります。

 

求刑の5割以下は検察のメンツにかかわる

検察は「求刑が判決に影響を与えるのは当然」というスタンスです。そのため、たとえ有罪判決であっても、言い渡された刑罰が求刑を大きく下回ると、控訴することがあります。

 

 

刑罰が求刑の5割以下のケースは、検察庁で控訴審議が開かれます。控訴審議とは、捜査担当の検察官や公判担当の検察官、上司の検察官が集まって、控訴するかどうかを検討する会議のことです。控訴審でより重い判決を獲得できそうだという結論になれば、控訴することになります。

 

 

求刑の5割以下の判決が出たときは、弁護側としても、控訴された場合の対応について事前に打ち合わせしておく必要があるでしょう。

 

論告・求刑の例

論告・求刑がどういうものかイメージを持ってもらうために、実際の論告要旨を参考にして弁護士が作成した論告要旨をご紹介します。

 

窃盗の論告要旨の例

痴漢の論告要旨の例

 

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