最終弁論とは?弁護士にとっての一審最後の弁護活動

最終弁論

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

最終弁論とは

最終弁論とは、刑事裁判で弁護士がする最終的な主張のことです。被告人にとって有利な事情を指摘し、被告人を無罪とすべき理由を主張したり、弁護側がふさわしいと考える刑罰について主張します。

 

 

最終弁論は、法廷で弁護士が口頭で行ないます。通常は「弁論要旨」というタイトルの書面をあらかじめ作成しておき、これを朗読します。

 

刑事裁判における最終弁論の位置づけ

刑事裁判の審理は、①冒頭手続、②証拠調べ、③意見陳述の順に進んでいきます。

 

 

意見陳述は、①冒頭手続で明らかになった審理の対象について、②証拠調べを行った結果をふまえて、検察官と弁護士がそれぞれの立場から行います。弁護士が行う意見陳述が最終弁論です。

 

 

最終弁論は、検察官の意見陳述である論告・求刑の直後に行われます。そのため、あらかじめ検察官がどのような論告・求刑をするのかを予測し、それに対する反論を弁論要旨にまとめておきます。

 

 

弁護士が最終弁論を終えると、被告人が最終陳述を行い、審理は終了します。残すは判決言渡しのみとなります。

 

否認事件の最終弁論

否認事件の最終弁論では、検察官が有罪を立証できていないことを主張します。

 

 

刑事裁判では、検察官が、被告人が罪を犯したことを立証できなければ、無罪判決が言い渡されます。これを「疑わしきは被告人の利益の原則」といいます。弁護士の方で、被告人が無罪であることを立証する必要はありません。

 

 

そのため、最終弁論の内容としては、検察官の主張や立証を攻撃(弾劾)することがメインになります。具体的には、被害者や目撃証人の証言に信用性が認められないことや、被告人の供述に不合理な点がないこと等を主張します。

 

 

証拠には被告人にとって有利な証拠もあれば、不利な証拠もあります。不利な証拠と向き合わず、有利な証拠だけをピックアップして、被告人に都合がよいストーリーを作り、検察官の主張や立証を弾劾しても、裁判官の心に響く弁論にはならないでしょう。

 

 

弁論に説得力をもたせるためには、被告人に不利な証拠についてもしっかりフォローした上で、「争いのない事実」や「客観的な証拠から認定できる事実」を積み上げていき、それらと、検察側の主張や証拠が矛盾することを示す必要があります。

 

 

被告人の方からアリバイや正当防衛を主張するときは、単に検察側の主張・立証を弾劾するだけではなく、積極的に被告人の主張を述べることになります。

 

自白事件の最終弁論

自白事件では、最終弁論で、①犯情と②一般情状という2つの観点から、被告人にどのような刑罰がふさわしいかを論じます。

 

 

「犯情」とは犯罪行為に関連する事情です。例えば、犯行の手口や被害結果などです。「一般情状」とは犯罪行為とは直接関係のない事情です。例えば、被告人が反省していることや示談、周囲のサポート体制などです。

 

 

刑罰の第一の目的は、「犯罪行為に対して責任をとらせる」ことです(行為責任主義)。そのため、裁判官は、被告人の刑罰を決めるにあたって、まずは犯情を検討し、大まかな刑罰の範囲を決めます。

 

【大まかな刑罰の範囲の例】

①執行猶予がふさわしい

②執行猶予か実刑か微妙な事案

③実刑にするべきだが長期の実刑は相当ではない

④長期の実刑がふさわしい

 

その後、本人の反省や示談、周囲のサポートの有無などの一般情状を検討し、「大まかな刑罰の範囲」の中で、実際に被告人に言い渡す刑罰を決めます。

 

 

このように裁判官は2つのステップで刑罰を決めています。それにあわせて最終弁論も、まずは犯情について被告人に有利な点を指摘し、その後に一般情状を指摘することが多いです。

 

 

最終弁論の最後の部分で、被告人にとってふさわしい刑罰を主張します。検察官は、求刑で、「懲役3年に処するのを相当と思料する。」等と具体的な刑罰を述べますが、弁護士の最終弁論では、懲役の年数まで指摘しないことが多いです。

 

 

執行猶予を求めるケースでは、「執行猶予判決が相当である。」等と述べます。重大犯罪のケースなど、執行猶予が難しいと思われる場合は、「寛大な処分を希望する。」と述べることが多いです。

 

裁判員裁判の最終弁論

裁判員裁判の最終弁論は、一般市民である裁判員に理解し共感してもらうことが必要です。そのため、形式面と内容面で次のような特徴があります。

 

1.形式面での特徴

通常裁判の最終弁論では、文章形式の読み上げ原稿を「弁論要旨」として裁判官に配布します。これに対して、裁判員裁判では、読み上げ原稿ではなく、図表やチャートを駆使したわかりやすいプレゼン資料を裁判員に配布することが多いです。

 

 

弁論の仕方も、弁護士が手元の資料を棒読みするのではなく、パワーポイントやOHPを使いながら、裁判員と適宜アイコンタクトをとり、抑揚をつけて話すことが多いです。資料を全く見ないで、身振り手振りを交えて熱弁する弁護士もいます。

 

2.内容面での特徴

通常裁判の最終弁論では、多くのポイントを網羅的に列挙することが多いです。また、自白事件では、裁判官・検察官・弁護士の間で、「どのような情状が評価されるのか」について、共通の理解があるため、「なぜこの情状が評価されるのか」について深く論述することはありませんでした。

 

 

これに対して、裁判員裁判では、裁判員に理解・共感してもらえるよう、ポイントを絞って、分かりやすい言葉で論述します。また、「示談が成立したこと」や「前科がないこと」等の情状について、なぜそれが減刑の根拠になるのかを丁寧に説明することが必要になります。

 

 

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