調書判決とは?刑事裁判の判決書はマストではない

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

調書判決とは

刑事裁判で判決を言い渡した場合、通常は、判決書が作られます。もっとも、一定の要件を満たす場合は、判決書を作成する必要はありません。この場合、判決書の作成に変えて、調書判決の手続がとられます。

 

調書判決は裁判官の負担を軽くするための手続です。調書判決の特徴は次の3つです。

 

①裁判官ではなく裁判所書記官が作成する

②判決主文など必要最小限の記載でよく、量刑の理由を記載する必要がない

③独立した書面ではなく、法廷でのやりとりを記載した公判調書の末尾に記載される

 

調書判決には「判決主文」、「適用した罰条」と並んで、「罪となるべき事実の要旨」を記載する必要がありますが、起訴状をそのまま引用することが多いです。

 

調書判決の要件

調書判決にするための要件は次の4つです。

 

①地方裁判所または簡易裁判所で宣告された判決であること

②有罪判決であること

③控訴の申立てがないこと

④確定前に判決書の謄本の請求がないこと

 

裁判所は調書判決にしたがる

調書判決により、裁判官は、判決書を作成する手間を省くことができます。

 

弁護士が判決書の謄本を請求すると、書記官から、「調書判決にしたいので謄本の請求は控えてもらえますか?」と言われることが少なくありません。裁判官本人が弁護士に電話をかけてきて、「調書判決でお願いしたいのですが…。」と切実な様子で懇願してくることもあります。

 

裁判官は、同時に数十件の事件を抱えているため、調書判決にすることにより、できるだけ他の事件にとりくむ時間を確保したいと考えています。また、裁判官といえども人の子ですから、なるべく仕事を減らしたいと考えるのも人情でしょう。

 

裁判所が調書判決にこだわっている時の対応

書記官や裁判官が調書判決にこだわっている場合、被告人が控訴を検討しているのであれば、そのことを言えば、調書判決にされることはありません。被告人が控訴した場合は、そもそも調書判決にすることができないからです。

 

もっとも、裁判所もそのことはわかっていますので、否認事件や実刑を言い渡した事件では、何も言わずに判決書を作成します。

 

裁判所が調書判決にしたがるのは、被告人が控訴する可能性が低いケース、つまり、自白事件で執行猶予を言い渡したケースです。この場合、弁護士はどのように対応すればよいでしょうか?

 

自白事件で被告人が気にしているのは量刑の理由です。調書判決には、量刑の理由まで記載する必要はありませんが、弁護士が書記官や裁判官に量刑の理由を書くように求めれば、そのように対応してくれます。

 

そのため、弁護士としては、被告人に控訴する意思がなければ、「量刑の理由を書いてもらえれば、調書判決で結構です。」と言えばよく、必ずしも判決書を作成してもらうことにこだわる必要はないでしょう。

 

調書判決の取得方法

判決の確定後に裁判所に請求することにより、調書判決の謄本を取得することができます。料金は判決書と同じで1枚当たり60円です。判決書と同じく収入印紙で支払います。

 

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