- トップ
- > 特殊詐欺(振り込め詐欺)に強い弁護士に無料相談!弁護士費用についても解説
- > 出し子とは?出し子が逮捕された後の流れや示談について
出し子とは?出し子が逮捕された後の流れや示談について
このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。
出し子とは?
特殊詐欺の出し子とは、詐欺グループの指示役に指示されて銀行口座から不正に現金を引き出す者のことです。
特殊詐欺の出し子には、①受け子がそのまま出し子を務めるケースと、②出し子のみ務めるケースがあります。以下それぞれについてみていきます。
1.受け子兼出し子(受け出し)の場合
受け子とは被害者の家に行って現金やキャッシュカードをだまし取る者です。
⇒受け子とは?特殊詐欺の受け子の3つのタイプや弁護方法について
受け子がキャッシュカードをだまし取った後、指示役に指示されてコンビニ等に行き、だまし取ったカードをATMに挿入して、不正に金銭を引き出します。
2.出し子のみの場合
還付金詐欺のケースでは、被害者がかけ子によって「医療費が還付されますのでこれから手続を案内します」等と言われて近くの銀行まで案内されます。
被害者はかけ子に騙され「お金が振り込まれる」と信じてしまい、言われるがままにATMを操作しているうちに、自分の口座から詐欺グループが管理する口座にお金を振り込んでしまいます。
還付金詐欺が成功すると、あらかじめキャッシュカードを渡されていた出し子が指示役に指示されてATMに行き、被害者が振り込んだ金銭を引き出します。還付金詐欺には受け子が存在しませんので、出し子としてのみ活動することになります。
出し子は何罪になる?刑罰は?
1.受け子兼出し子の場合
受け子をした後に出し子をする場合、キャッシュカードを受け取った点については詐欺罪が成立します。罰則は10年以下の拘禁刑です。
キャッシュカードをすり替える手口でとった場合は、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立します。罰則は10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑です。
⇒受け子とは?特殊詐欺の受け子の3つのタイプや弁護方法について
出し子については窃盗罪が成立します。詐欺罪は人をだます犯罪であり、ATMのような機械は詐欺罪の被害者にはなりません。ATM内の金銭は銀行によって管理(占有)されているため、不正な引き出しは銀行の占有を侵害する窃盗罪になります。
2.出し子のみの場合
還付金詐欺で出し子のみをした場合は、不正な引き出しについては窃盗罪が成立します。還付金詐欺についても、電子計算機使用詐欺罪の共謀共同正犯が成立する可能性が十分にあります。
出し子が還付金詐欺について知らなかったと主張したケースで還付金詐欺については無罪とされた判例がありますが(仙台高判令和6年1月30日)、上告審である最高裁によって逆転有罪判決が下されました(最判令和7年7月11日)。
【仙台高判令和6年1月30日】 還付金詐欺の出し子について、現金を引き出した点については窃盗罪を認めましたが、還付金詐欺についてはかけ子との共謀が成立していないとして無罪判決を下しました。 この判例のケースでは、出し子が銀行でお金を引き出すように言われただけで、還付金詐欺については何も聞かされていませんでした。裁判所は、出し子と還付金詐欺のかけ子との間に共謀が成立していないとして、ATMからの引き出しについては有罪としましたが、還付金詐欺については無罪を言い渡しました。 |
【最判令和7年7月11日】 上記の事件で出し子はATMの近くで長時間待機し指示があれば直ちにATMから金銭を引き出していました。そのため、出し子は詐欺等の犯罪によって振り込まれた金銭であると十分に想定できたといえ、詐欺グループと暗黙のうちに意思を通じあっていたとして、実行犯との共謀を認め、仙台高等裁判所の判決を破棄しました。 |
この最高裁判例の影響で今後は還付金詐欺についても罪に問われる事例が増えると思われます。
出し子が逮捕された後の流れは?
刑事事件の身柄拘束は逮捕⇒勾留という2段階で行われます。逮捕は最長3日ですが、勾留は原則10日、最長20日になります。出し子が逮捕されると翌日か翌々日に検察庁に連行され、検察官の取調べを受けます。検察官は裁判官に勾留を請求します。
勾留を請求されると、請求の当日か翌日に出し子が裁判官の勾留質問を受けます。裁判官が検察官の勾留請求を却下すると釈放されますが、出し子が勾留されずに釈放されることはまずありません。
通常は勾留され、接見禁止も付されます。勾留期間は原則10日ですが、出し子が勾留された場合は勾留が延長される可能性が高いです。検察官は最長20日の勾留期間内に出し子を起訴するか釈放しなければなりません。
出し子は起訴される?
出し子はATMから不正に金銭を引き出しますが、ATMには防犯カメラが設置されており、出し子の顔が撮影されています。
出し子がATMに挿入したカードの情報もデータとして保存されており、被害者の口座から詐欺グループの口座への金銭の流れも機械に記録されています。
このように出し子のケースでは必要十分な客観的証拠があるため、取調べの際に黙秘しても起訴される可能性が高いです。
出し子と再逮捕・追起訴
出し子は短期間に何度も繰り返し引き出し行為をしているのが通常です。複数の犯罪行為をしているため、出し子は再逮捕されることが多いです。
例えば、還付金詐欺の被害者がA、B、Cと3名いる場合、Aが振り込んだ金銭の引き出し、Bが振り込んだ金銭の引き出し、Cが振り込んだ金銭の引き出しは、それぞれ別個の事件とカウントされ、別々に逮捕されることが多いです。
⇒再逮捕とは?再逮捕されると罪が重くなる?執行猶予への影響も解説
起訴についても1回起訴されて終わりというわけではなく、事件ごとに何度も追起訴されることが多いです。
出し子が再逮捕を回避する方法
出し子は何人もの被害者のお金を不正に引き出しているため、再逮捕される可能性が高くなります。もっとも、被害者が異なっていてもやっていることは同じですので、証拠の種類や供述調書の内容は似通ってきます。
そのため、出し子が余罪も含めて全面的に認めている場合は、再逮捕を1、2回した後は追送致にきりかわることが多いです。
追送致とは被疑者の身柄を拘束せずに書類のみ検察庁に送致することです。追送致されてもそれ以前の段階で逮捕・勾留されていれば、保釈されない限り、外に出ることはできません。ただ、再逮捕で進められる場合に比べて保釈請求できるタイミングが早くなります。
出し子の被害者が全国に散らばっている場合はどうなる?
受け子の場合は、実際に被害者の家に行く必要があるため、被害者が全国に散らばっているということは通常ありません。受け子兼出し子の場合も同様です。
これに対して還付金詐欺の出し子の場合は、本人は指示役から渡されたキャッシュカードをATMに挿入して引き出しているだけであり、実際に被害者の家に行っているわけではありません。そのため、ふたを開けてみると被害者が全国に散らばっていたということもあります。
被害者が散らばっている場合は、各地の裁判所で同時並行的に裁判が開かれるわけではなく、最初に起訴された事件を担当する裁判所に他の事件が併合され、一つの裁判所で他の地域の事件をまとめて審理することになります。
このように裁判をするのは一つの裁判所になりますが、逮捕されるのは各地の警察署になります。そのため、最初に東京の警察署で逮捕された後に北海道の警察署で逮捕されるということもあります。
出し子と示談
1.示談の相手
出し子は銀行口座から不正に金銭を引き出しており、銀行を被害者とする窃盗罪が成立します。もっとも、銀行はATM内のお金を管理(占有)しているだけであり、実質的な被害者は詐欺の被害者です。
そのため、出し子が示談をする相手は銀行ではなく詐欺の被害者になります。
2.示談のメリット
出し子が詐欺の被害者と示談をすることにより、執行猶予になる可能性が上がります。
示談書には「許す」とか「刑事処罰を求めない」といった宥恕文言(ゆうじょもんごん)を入れるのがポイントです。宥恕文言がなければ、裁判官に示談をしたことをあまり評価してもらえません。
詐欺の被害者が複数いる場合は、全ての被害者と宥恕文言付きの示談をまとめたいところです。
3.出し子の示談金の相場
出し子の示談金は不正に引き出した金額が基準になります。もっとも、被害者は被害にあって怖い思いをしたり、警察に行って被害届を出すなどの手間も生じているため、引き出し金額の1~2割程度の慰謝料を支払うこともあります。
出し子が引き出した直後に逮捕された場合は、だまし取られた金銭の全部または一部が被害者に戻されていることがあります。その場合は、<(引き出し金額-戻された金額)+慰謝料>をお支払することを弁護士が被害者にお話しして交渉します。
ウェルネスでは数多くの出し子の事件を取り扱ってきました。家族が出し子で逮捕された場合はお気軽にウェルネス(03-5577-3613)の弁護士にご相談ください。