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特殊詐欺の受け子とは?逮捕された後の流れや執行猶予について
このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しました。
目次
特殊詐欺の受け子とは?
1.受け子は何をする?
特殊詐欺の受け子とは、被害者と接触して、現金やキャッシュカードをだましとる者です。被害者は受け子と接触する前に、「かけ子」と呼ばれるだまし役によってだまされています。
かけ子は電話で言葉巧みに以下のようなことを言って被害者をだまし、受け子を被害者に接触させるのです。
「(息子のふりをして)トラブルに巻き込まれて100万円が必要になった。僕は用事があるので部下がお金をとりに行くから渡してあげて。」
「(銀行職員のふりをして)うちの職員がお宅を訪問して古くなったキャッシュカードを回収します。」
受け子が被害者に接触する日時や場所、接触した際の話し方は指示役から細かく指示されます。受け子は被害者の面前で指示役に言われた通りの人物を演じ、被害者から現金やキャッシュカードをだましとります。
2.受け子の2つのタイプ
受け子には現金受けとり型とキャッシュカード受けとり型の2つのタイプがあります。以前は現金受けとり型が一般的でしたが、近年は高齢者が銀行で多額の現金を引き出すことが難しくなったため、カード受けとり型がメインになっています。
カード受けとり型の受け子は、被害者からだましとったキャッシュカードを使ってATMで現金を引き出します(出し子)。引き出したお金の一部を報酬として受けとり、残りは指示役の指示でロッカーに入れたり、別の回収役に渡します。
特殊詐欺の受け子は何罪になる?
現金受けとり型でもカード受けとり型でも、受け子が被害者から現金やカードを受けとった時点で詐欺罪が成立します。
カード受けとり型の受け子は、ATMにだましとったカードを挿入し現金を引き出します。
この点については窃盗罪が成立します。不正に現金を引き出すことによって、銀行が管理しているお金を盗んだと評価できるからです。詐欺罪は人をだます犯罪ですので、ATMから現金を引き出しても詐欺罪にはなりません。
特殊詐欺の受け子と逮捕
特殊詐欺の受け子は、現行犯で逮捕されることが一般的ですが、後日逮捕されることもあります。それぞれのケースをみていきましょう。
1.現行犯逮捕されるケース
被害者がかけ子と話している最中にだまされていることに気づいた場合、受け子は現行犯で逮捕される可能性が高いです。
被害者からの通報を受けて、捜査員が被害者の自宅や周辺に待機し、やって来た受け子が被害者から物を受けとった直後に、取り押さえて現行犯逮捕します。
⇒特殊詐欺のだまされたふり作戦とは?無罪になる?判例も解説!
だまされたふり作戦によって現行犯逮捕される場合、被害者はだまされていることに気づいているため、詐欺未遂罪が成立するにとどまります。
2.後日逮捕されるケース
カード受けとり型の受け子は後日逮捕されることが多いです。後日逮捕の流れは次の通りです。
【後日逮捕の流れ】
①被害者がだまされたことに気づく→警察に被害届を提出 ②警察が銀行にカードの使用状況を照会 ③受け子が利用したATMを特定し防犯カメラを解析 ④リレー形式で防犯カメラを順次解析することにより被疑者を特定→後日逮捕 |
現金受けとり型の受け子も防犯カメラによって特定され、後日逮捕されることが少なくありません。
特殊詐欺の受け子と再逮捕
1.再逮捕とは
再逮捕とは、一度逮捕した被疑者を別の事件で逮捕することです。同一の事件で複数回逮捕することはできませんが、別の事件であれば逮捕することができます。
⇒再逮捕とは?報道や執行猶予との関係など「気になること」を全解説
特殊詐欺の受け子は、逮捕されるまでの間に、何度か別の被害者の自宅に行って現金やカードを受けとっていることが多いため、再逮捕されることがあります。被害者が異なると別の事件として扱われ、事件ごとに(再)逮捕の対象になります。
被害者Aに対する詐欺事件→5月1日に逮捕 被害者Bに対する詐欺事件→6月1日に再逮捕 被害者Cに対する詐欺事件→7月1日に再逮捕 |
2.現金受けとり型の受け子と再逮捕
現金受けとり型の受け子の場合、余罪があったとしても、取調べで黙秘すれば再逮捕を回避できる余地があります。
防犯カメラ等で犯人を特定できなければ、「私がやりました」という自白がない限り有罪を立証することが難しくなるからです。
3.カード受けとり型の受け子と再逮捕
カード受けとり型の受け子は、再逮捕される可能性が高いです。
受け子が黙秘しても、被害者のカード情報から受け子が現金を引き出したATMを特定でき、周囲に設置された防犯カメラの映像から、同じ受け子が犯人であるとわかってしまうからです。
再逮捕の組み立てとしては、被害者ごとに詐欺(カードの受けとり)と窃盗(現金の引き出し)をひとまとまりの事件として再逮捕するケースと、詐欺と窃盗を分け、被害者ごとに詐欺で逮捕していき、最後に、全ての被害者に関する現金の引出しをまとめて、窃盗で再逮捕するケースが考えられます。
【詐欺と窃盗を分けないケース】
逮捕①…被害者Aに対する詐欺+Aのカードで現金を引き出した窃盗 逮捕②…被害者Bに対する詐欺+Bのカードで現金を引き出した窃盗 逮捕③…被害者Cに対する詐欺+Cのカードで現金を引き出した窃盗 |
【詐欺と窃盗を分けるケース】
逮捕①…被害者Aに対する詐欺 逮捕②…被害者Bに対する詐欺 逮捕③…被害者Cに対する詐欺 逮捕④…ABCDの各カードで現金を引き出した複数の窃盗 |
特殊詐欺の受け子-余罪があっても再逮捕されないケース
受け子が否認や黙秘をせず余罪も含めて自白しているケースでは、1,2回逮捕された後は再逮捕ではなく「追送致」として処理されることがあります。追送致とは被疑者を逮捕せずに、捜査書類だけ検察庁に送ることです。
追送致されると、再逮捕された場合に比べ、保釈請求のタイミングが早くなります。保釈請求は、起訴されなければすることができませんが、追送致された事件は、そもそも勾留されていないため、保釈請求の対象になりません。
そのため、追送致される前に逮捕・勾留された事件が起訴された時点で保釈請求することが可能になります。余罪も含めて自白しているケースでは、事前に弁護士が検察官に追送致で処理するよう求めます。
【追送致なし】
事件①…5月1日に逮捕→5月23日に起訴(勾留あり) 事件②…6月1日に再逮捕→6月23日に追起訴(勾留あり) 事件③…7月1日に再逮捕→7月23日に追起訴(勾留あり) ⇒保釈請求は7月23日から可能 |
【追送致あり】
事件①…5月1日に逮捕→5月23日に起訴(勾留あり) 事件②…6月1日に追送致→6月23日に追起訴(勾留なし) 事件③…7月1日に追送致→7月23日に追起訴(勾留なし) ⇒保釈請求は5月23日から可能 |
【保釈のページ】
特殊詐欺の受け子と勾留
逮捕の次の段階の身柄拘束のことを勾留といいます。
検察官が「この被疑者は逃亡したり証拠を隠滅するおそれがある。」と判断した場合は、裁判官に対して勾留を請求します。裁判官も検察官と同様に考えれば、勾留請求を許可し被疑者を勾留します。
特殊詐欺は組織的に行われるため証拠隠滅(共犯者との口裏合わせ等)のおそれがあるとみなされやすいです。また、基本的には実刑になるため逃亡のおそれがあるとみなされやすいです。そのため、逮捕されたら非常に高い確率で勾留されます。
起訴前の勾留は原則10日、延長されれば最長20日になります。特殊詐欺の受け子が勾留された場合、20日か20日近くにわたって勾留され、満期近くで起訴されることが多いです。
再逮捕された後も同様の流れになります。
特殊詐欺の受け子と起訴
1.起訴が原則
特殊詐欺の受け子が逮捕されれば起訴される可能性が高いです。特殊詐欺は社会問題になっており、厳しい処分で臨むという捜査方針が徹底されているためです。
そのため、他の犯罪と異なり、被害者と示談したからといって、起訴猶予で不起訴になることはありません。
余罪で再逮捕された場合、追起訴される可能性が高いです。追起訴とは最初に起訴された事件とは別の事件で後日起訴することです。
追起訴された事件は最初に起訴された事件と併合され、同じ裁判官によって同一の裁判手続で審理されます(弁論の併合)。判決もまとめて言い渡されます。
2.現金受けとり型の受け子と起訴
現行犯逮捕されれば、否認してもほぼ100%起訴されます。後日逮捕や再逮捕された事件については、受け子が黙秘することにより、嫌疑不十分で不起訴になる余地があります。
3.カード受けとり型の受け子と起訴
受け子が被害者からキャッシュカードを受けとったケースでは、その後に同じカードを使ってATMから不正に現金を引き出していることが多いです。
その場合、防犯カメラなどの客観的証拠だけで有罪を立証できるため、受け子が完全黙秘しても起訴される可能性が高いです。
特殊詐欺の受け子-執行猶予それとも実刑?
詐欺未遂で現行犯逮捕されたケースでは、初犯であれば示談が成立しなくても、執行猶予を獲得できる余地は十分にあります。示談が成立すれば執行猶予を獲得できる可能性が高いです。
追起訴されたケースでは、被害者が3名前後、被害額の合計が300万円前後であれば、全員と示談して許してもらえれば、執行猶予を獲得できる余地があります。
被害者の数や被害金額がこのレベルを超えてくると、実刑判決の可能性が高くなりますが、弁護活動によっては執行猶予を獲得できることもあります。
ウェルネスの弁護士は被害者5名、被害金額が1000万円近くの事件で執行猶予を獲得したこともあります。