被害届とは?告訴状との違いや内容、取下げについて

このページはウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

被害届とは

被害届とは捜査機関に被害を受けた事実を申告するための書類です。被害届を提出することができるのは、原則として被害者本人ですが、被害者の保護者や遺族なども提出することができます。

 

被害届と告訴の違い

被害届は被害を受けた事実を捜査機関に報告するもので、犯人の処罰を求める意思表示までは含まれません。この点が告訴と異なります。

 

器物損壊、名誉毀損などの親告罪については、起訴するための要件として告訴が必要になります。被害届を提出しただけでは、告訴したことにはなりませんので、処罰を求めるのであれば、改めて告訴状を提出することが必要になります。

 

被害届の内容

被害届には次の事項が記載されています。

 

・被害者の氏名、年齢、住所、職業

・被害の日時

・被害の場所

・被害の状況

・被害金品

・犯人の住居、氏名、人相、着衣、特徴など

・遺留品その他参考となるべき事項

 

被害届はどうやって作成するの?

被害者が被害届を出すために警察署に行くと、警察官が被害者から上で述べたような事項を聴き取ります。その上で、パソコンで被害届を作成し、被害者に署名・捺印させます。

 

被害者が自分で「被害届」という書面を作って警察に提出してもよいですが、その場合でも、改めて警察官が被害届を作成することになるでしょう。

 

被害届が提出されないとどうなる?

被害者がいる犯罪で、被害届が提出されない場合は、通常は、刑事事件として立件されません。

 

もっとも、被害者がいる犯罪であっても、被害者を特定できない場合は、被害届がなくても刑事事件として立件されることがあります。例えば、盗撮をして第三者に検挙されたが、被害者はその場を立ち去ってしまったケースがこれにあたります。

 

一見被害者がいるように見えても、容疑となっている犯罪が、特定の個人ではなく、社会全体の秩序を保護している場合も、刑事事件として立件するにあたって被害届は不要です。例えば、公然わいせつ児童買春がこれにあたります。

 

被害届の受理

警察に行けばすぐに被害届を受理してもらえる-多くの方はそのように思っていますが、そんなことはありません。実は、被害届を受理してもらうのはそれほど簡単ではないのです。

 

警察は、被害者の話や証拠の保全状況から、事件として立つ(=犯罪の成立を証明できる)と判断した場合でなければ、被害届を受理しようとしません。事件として立つ場合であっても、暴行などの軽微な事件であれば、まずは当事者間での話し合いによる解決を促すことが多いです。

 

警察は、捜査の必要性が高い事件に、限られた操作資源を効率的に振り向けなければいけません。そのため、被害者の求めに応じて気軽に被害届を受理するわけにはいかないのです。

 

被害にあった直後に警察に通報した事件については、被害届を受理してもらいやすいですが、よほどの重大犯罪でない限り、被害から時間がたった後に被害申告をしても、なかなか受理してもらえません。

 

「被害者専門」の弁護士事務所がほとんどないこともそのあたりに理由があります。

 

被害届を取り下げることはできる?

被害届を取り下げることは可能です。警察官が被害者の意思を直接確認し、取下げの意思を有しているのであれば、警察署長宛ての「被害届取下げ願い」に署名・捺印させます。

 

加害者側に弁護士がついている場合は、弁護士が被害届取下げ願いを作って被害者に署名・捺印してもらいます。

 

あわせて、被害届取下げ願いを警察署長に提出することについての委任状にも署名・捺印してもらい、両方の書面を警察署長に提出します。弁護士が入ることにより、被害者としてもわざわざ警察署に出向く必要がなくなります。

 

このような手続により被害届を取り下げることは可能ですが、被害者が何の見返りもなく、一度提出した被害届を取り下げることはないでしょう。取下げの前提として、示談が成立していることが必要となります。

 

被害届を取り下げるとどうなる?

被害届を取り下げたからといって事件がリセットされ何もなかったことになるわけではありません。一度立件された以上は、前歴1件としてカウントされてしまいます。

 

ただ、被害届が取り下げられたということは、被害者としても処罰を求める意思はないということですから、不起訴や不送致となり、前科がつかない可能性は高まります。

 

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