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公務執行妨害について弁護士が解説

公務執行妨害

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

 

公務執行妨害とは

公務執行妨害とは、職務を行っている公務員に暴行または脅迫を加えることです(刑法95条1項)。

 

 

公務執行妨害罪の客体は公務員ですが、公務員という特定の人を保護しているわけではなく、公務員が行っている公務を保護しています。

 

公務執行妨害の公務

公務執行妨害罪で保護される公務は、適法な公務であることが必要です。公務が適法かどうかは、妨害行為があった時点の状況に基づき裁判所が客観的に判断します。

 

 

例えば、一方的に痴漢の容疑をかけられ取り押さえられた際、警察官に暴行して公務執行妨害で逮捕されたケースで、後に痴漢の裁判で無罪になったとしても、当初の逮捕が法律の手続に従って行われている限り、適法な公務であるとして公務執行妨害罪は成立します。

 

公務執行妨害の刑罰

公務執行妨害罪の刑罰は次の3つのいずれかです。

 

 

①3年以下の懲役

②3年以下の禁錮

③50万円以下の罰金

 

 

初犯であれば略式裁判で罰金になることが多いです。前科があれば正式裁判で検察官に懲役刑を請求される可能性が高いです。

 

 

法律では禁錮刑も定められていますが、実際は禁錮刑になることはまずありません。

禁錮とは?懲役との違いや刑務所での生活をわかりやすく解説

 

 

公務執行妨害罪の時効

公務執行妨害罪の時効は3年です。公務執行妨害は、その場で警察官等の公務員に取り押さえられ、現行犯逮捕されることが多いので、時効が問題になることはまずありません。

現行犯逮捕とは?逮捕状なしで誰でもできる逮捕を弁護士が解説

 

 

公務執行妨害の暴行

公務執行妨害における暴行は、暴行罪の暴行よりも範囲が広くなっています。具体的には、直接暴行だけではなく間接暴行も含まれます。

 

 

直接暴行とは相手の身体に直接向けられた暴行です。

 

 

【直接暴行の具体例】

・相手を殴打する

・相手を押す

・相手の胸倉をつかむ

・相手に唾を吐く

・相手の足元に石を投げる

 

 

間接暴行とは相手の身体に直接向けられていないが、相手をヒヤッとさせる等して物理的・心理的に影響を与えるタイプの暴行です。

 

 

例えば、公務員の補助者や物に有形力を加えることにより、その公務員に物理的・心理的に影響を与えれば間接暴行と評価されます。

 

 

【間接暴行の具体例】

・執行官の補助者として家財道具を運び出していた者を殴る

・税務署員が差し押さえたワインの瓶を目の前で割る

・家宅捜索で警察官に押収されそうになった物を壊す

 

 

直接暴行であれ間接暴行であれ、暴行は、公務員が職務を行うことを妨げる程度に達している必要があります。公務員の体に軽く触れただけでは公務執行妨害になりません。

 

 

公務執行妨害の脅迫

公務執行妨害における脅迫とは、人を怖がらせる害悪を告知することです。人を怖がらせるかどうかは一般人を基準として判断されます。

 

 

一般人が怖がるような害悪を告知すれば、現に相手の公務員が怖がっていなくても公務執行妨害罪が成立します。

 

 

警察官に対して「殺すぞ!」と言った場合、相手の警察官が怖がっていなくても、一般人であれば怖がると言えるため、公務執行妨害罪が成立します。

 

 

公務執行妨害と逮捕

1.逮捕後の流れ

公務執行妨害で逮捕されると、翌日か翌々日に検察庁に連行され、検察官の取調べを受けます。検察官が「逃げたり、証拠を隠滅するおそれがある。」と判断すれば、裁判官に勾留請求します。

 

 

裁判官は、勾留請求の当日か翌日に被疑者と面接し(勾留質問といいいます)、勾留するかどうかを決めます。

 

 

勾留されると原則10日にわたって留置場で拘束されます。勾留が延長されればさらに最長10日にわたって拘束されます。

 

 

2.公務執行妨害の逮捕率

2020年の公務執行妨害の逮捕率は86%です。公務執行妨害で勾留される確率は54%、勾留が延長される確率は54%です。

 

*本ページの数値は2020年の検察統計年報(最新版)に基づいています。

 

公務執行妨害の起訴率

2020年の公務執行妨害罪の起訴率は52%です。そのうち略式請求は56%、公判請求は44%です。略式請求されると、略式裁判という簡単な裁判で審理され罰金刑となります。

略式裁判とは?正式裁判との違いや拒否すべきかを弁護士が解説

 

 

公務執行妨害と他の犯罪との関係

公務執行妨害罪が成立する場合、手段となった暴行や脅迫について、別に暴行罪・脅迫罪として処罰されることはありません。

 

 

もっとも、公務員に暴行し、ケガをさせてしまった場合は、公務執行妨害罪に加えて、傷害罪が成立します。

 

 

刑罰については、両方の刑罰が合算されるのではなく、重い傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)の刑罰で処断されます。

 

 

公務執行妨害の刑事弁護

1.勾留を阻止するための弁護活動

いったん勾留されてしまうと、原則10日にわたって拘束されるため、早期釈放のためには勾留を阻止する必要があります。

 

 

公務執行妨害のケースでは、逮捕直後に弁護士に依頼すれば、勾留を阻止できる確率はかなり高いです。

 

 

勾留されるのは、逃亡するおそれや証拠隠滅のおそれがあると裁判官に判断されたときです。実刑になるような重大犯罪であれば、「刑務所行きになるくらいなら逃げた方がまし。」と考えるかもしれません。

 

 

しかし、公務執行妨害罪は、初犯であれば最長20日の勾留期間内に罰金となり釈放されることが多いため、あえて逃亡を図る理由がないといえます。

 

 

また、公務執行妨害は警察官に暴行して現行犯逮捕されることが多い犯罪ですが、警察官に接触してお礼参りを図るとも考えにくいです。

 

 

これらの事情を弁護士が意見書で主張すれば、勾留を阻止できる可能性はかなり高くなります。

早期釈放を実現する

 

 

2.適法な公務でないことを主張する

公務執行妨害罪は適法な公務を保護する犯罪です。違法な公務を執行している公務員に暴行・脅迫を加えても、公務執行妨害罪は成立しません。

 

 

公務の適法性が問題になりやすいのは、警察官の職務質問や任意同行、捜索の際に、それに抵抗して公務執行妨害で逮捕されたケースです。

 

 

弁護士がご本人から当時の状況をヒアリングし、警察官の行為に問題があれば、法律や判例に照らしてどの点が問題なのかを検察官や裁判官に指摘し、不起訴の獲得を目指します。

 

 

3.罪を認めた上で反省する

公務執行妨害の成立について争いがない場合は、反省文や家族の監督プランをまとめた陳述書を検察官に提出します。

 

 

公務執行妨害のケースでは、被害者である公務員が示談に応じてくれることは少ないです。仮に示談に応じてくれたとしても、公務執行妨害罪は公務員ではなく公務を保護しているため、示談が不起訴に直結するわけではありません。

 

 

そのため、示談ではなく反省の気持ちを示すために贖罪寄付をするのが一般的です。軽微な公務執行妨害であれば、こうした活動によって不起訴になる余地があります。

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