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公然わいせつに強い弁護士
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
公然わいせつとは?
1.公然わいせつの要件
公然わいせつとは「公然」と「わいせつ」な行為をすることです。刑法174条に規定されています。
【刑法174条】 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 |
2.公然わいせつの「公然」とは
公然わいせつ罪の「公然」とは、「不特定または多数の人が認識できる状態」のことをいいます。現実に不特定または多数の人に見られたことまでは不要です。
人がいない路上や公園で陰茎を露出しても、いつ人に見られてもおかしくない状況である以上、「公然」の要件を満たしていることになります。
3.公然わいせつの「わいせつ」とは
公然わいせつ罪の「わいせつ」については、最高裁判所の有名な判例があり、「性欲を刺激・興奮させ、人の性的な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とされています(最判昭和32年3月13日)。
陰茎をことさらに露出したり、ストリップショーで女性が性器を露出することは、このような意味でのわいせつ行為といえるでしょう。
4.公然わいせつ罪に被害者はいる?
公然わいせつ罪は社会の健全な性的秩序を保護しています。強制わいせつや痴漢のように個人の性的自由を保護しているわけではありません。
そのため、公然わいせつ事件においては、目撃者はいても被害者は存在しないとされており、被害届もありません。
公然わいせつの罰則
公然わいせつ罪の罰則は次の4種類のいずれかです。
①6ヶ月以下の懲役 ②30万円以下の罰金 ③拘留(1日以上30日未満の身柄拘束) ④科料(1000円以上1万円未満の財産刑) |
公然わいせつ罪で処罰される場合は、懲役か罰金のどちらかになります。拘留や科料で処罰されることはまずありません。
公然わいせつの時効
刑事事件の時効を公訴時効といいます。公然わいせつ罪の公訴時効は3年です。事件発生から3年が経過すれば起訴できなくなるため、逮捕されることもありません。
公然わいせつの事例
公然わいせつの具体例として以下のようなケースが挙げられます。
①公園で陰茎を露出した。 ②電車内で陰茎が見える状態でマスターベーションをした。 ③コンビニエンスストアで店員に陰茎を見せつけた。 ④陰茎を露出してドライブスルーを利用した。 ⑤路上にとめた車の中でアダルト動画を見ながら自慰行為をした。 ⑥インターネットのライブ配信サービスで女性器を露出した。 |
公然わいせつの関連犯罪
公共の場所で陰部以外のお尻や太もも等を、人に嫌悪感を与えるような仕方で露出した場合は、軽犯罪法違反(軽犯罪法1条20号)になります。罰則は拘留または科料です。
公然わいせつと逮捕
1.公然わいせつで逮捕されるタイミング
①現行犯逮捕されるケース
公然わいせつは、目撃者にその場でとりおさえられ、現行犯逮捕されることが多い犯罪です。電車内や駅のホーム、繁華街などで露出したケースでは、目撃者に現行犯逮捕されることが多いです。
住宅街など同じエリアで何度も露出しているケースでは、事前に警戒していた警察官に見つかり、現行犯逮捕されることもあります。
⇒現行犯逮捕とは?逮捕状なしで誰でもできる逮捕を弁護士が解説
②後日逮捕されるケース
車やバイクで移動した先で公然わいせつをした場合、目撃者に車やバイクのナンバーを見られていたことから足がつき、後日逮捕されることがあります。現場周辺の防犯カメラによって特定されることもあります。
後日逮捕されるタイミングは、公然わいせつをしてから3~6か月後のことが多いです。
2.公然わいせつで逮捕された後の流れ
公然わいせつ罪で逮捕されると翌日か翌々日に検察庁に連行され、検察官の取調べを受けます。検察官が逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断すると、裁判官に対して勾留請求をします。
勾留請求の当日か翌日に、裁判官が被疑者に対して勾留質問をした上で、勾留するか否かを決めます。勾留されると原則10日にわたって拘束されます。勾留が延長されると最長で20日にわたって拘束されます。
検察官はこの期間内に被疑者を起訴するか釈放するかを決めなければなりません。
3.公然わいせつで逮捕される確率
2023年に刑事事件になった公然わいせつ事件のうち、被疑者が逮捕されたケースは33%です。公然わいせつ罪で逮捕された後、勾留されたケースは54%、勾留期間が延長されたケースは56%です。
公然わいせつ罪で検挙されたら、おおむね3人に1人が逮捕され、逮捕された方の約半数が勾留されていることになります。約3人に1人が逮捕され、逮捕された方の約半数が勾留されていることになります。
*上記の公然わいせつ罪にはわいせつ物頒布罪も含まれています。
*本ページの数値は2023年版検察統計年報に基づいています。
4.公然わいせつ罪で勾留を阻止する方法
公然わいせつ罪で逮捕されれば、何としても勾留を阻止したいところです。勾留されると原則10日にわたって拘束されるため、逮捕されたことが勤務先にばれてしまい、解雇される可能性が高くなります。
公然わいせつ事件では、目撃者が犯行現場近くを生活圏にしていることから、検察官や裁判官は「釈放したら被疑者が目撃者に近づき、見間違いだったと言うように圧力をかけるのでは?」と考えがちです。
そのような懸念を取り除くため、弁護士が被疑者と接見し、犯行現場に近づかない旨の誓約書にサインしてもらいます。家族には被疑者を監督する旨の身元引受書を作成してもらいます。
弁護士がこれらの書類を検察官や裁判官に提出し、勾留前に釈放される可能性を高めます。
公然わいせつの起訴率は?
2023年に検察庁で扱われた公然わいせつ事件のうち、起訴されたケースは56%です。そのうち、略式請求されたケースが82%、公判請求されたケースが18%です。
初犯であれば、略式請求され簡易な略式裁判で罰金になることが多いです。
法廷に行く必要もないため、交通違反で切符を切られたのと同じような感覚で捉えてしまいがちですが、交通違反の反則金と異なり、れっきとした刑罰ですので前科がつくことになります。
⇒略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説
公判請求されれば、公開の法廷で審理され、検察官から懲役刑を請求されることになります。
公然わいせつの示談
1.公然わいせつで示談をするメリット
公然わいせつは、社会の健全な性的秩序を保護する犯罪です。強制わいせつや強制性交等のように、個人の性的自由を保護しているわけではありません。
そのため、公然わいせつの目撃者は被害者ではないということになります。もっとも、路上で特定の女性をターゲットにして陰茎を見せつけた場合のように、実質的には被害者とみなせることも少なくありません。
このようなケースでは、事実上の被害者と示談をすることによって、不起訴になる可能性が高まります。
【不起訴処分を獲得するために】 弁護士が示談書や示談金の領収書を検察官に提出します。 |
2.公然わいせつの示談は弁護士を通じて行う
公然わいせつの目撃者は、被疑者に個人情報を知られたくないと思っています。このような目撃者の意向をふまえ、警察官や検察官が公然わいせつの被疑者に目撃者の個人情報を教えることはありません。
そのため、目撃者との示談交渉は弁護士を通じて行うことになります。公然わいせつの目撃者は事件によって大きなショックを受けています。弁護士には目撃者の気持ちに細やかに配慮した姿勢が求められます。
3.公然わいせつの示談金の相場
公然わいせつの示談金の相場は10万円~30万円です。自動車内での自慰行為を偶然見られた場合のように悪質性の低いものであれば10万円程度が相場になります。
路上で特定の女性に陰茎を見せつけたような悪質なケースでは、痴漢の示談金の相場(30万円~50万円)に近づいていきます。
公然わいせつで示談なしで不起訴をねらえるケース
公然わいせつ事件のうち特定の女性に狙いを定めて露出したケースでは、犯罪の性質が迷惑防止条例違反(ひわいな言動)に近いといえるため、目撃者と示談できなければ、起訴される可能性が高くなります。
一方、ひそかに車の中で自慰行為をしていたところ通行人に見られて110番通報されたようなケースでは、積極的に見せつける意図まではなかったため、それほど悪質性は高くないと言えます。
このようなケースでは、示談なしでも、反省文を作成したり、弁護士会や慈善団体へ贖罪寄付(しょくざいきふ)をすることにより、不起訴になる余地は十分にあります。
公然わいせつの示談以外の弁護活動
1.クリニックへの通院
公然わいせつの被疑者のなかには、露出をやめたいと思いながら、衝動をコントロールできず、犯罪を繰り返してしまう人がいます。
そのような方には専門家の助けが必要です。クリニックに通院し、グループミーティングに参加したり、カウンセリングを受けることによって、衝動をコントロールできるようになってもらいます。
公然わいせつのような非接触型の性犯罪をしてしまう方のなかには、「触っていないのだから女性はそれほど傷ついていない。」と誤った捉え方をしている人もいます。専門家のカウンセリングを受けることにより、そのような認知の歪みを修正していきます。
不起訴を獲得するために、弁護士が医師の診断書やクリニックの領収証などを検察官に提出します。
公然わいせつを繰り返しているうちに、犯罪傾向が進み、強制わいせつや強制性交等といった接触型の性犯罪に及んでしまう人もいます。今後のためにも、検挙された時点で、カウンセリング等を受けきっちり治療してもらった方がよいでしょう。 |
2.家族に協力してもらう
再犯防止を徹底するためにはご家族の協力が不可欠です。ご家族には本人と緊密にコミュニケーションをとってもらい、飲みに行った帰りなどに不用意に出歩かないよう監督してもらいます。
不起訴を獲得するため、監督プランをまとめた陳述書をご家族に作成してもらい、弁護士が検察官に提出します。
公然わいせつと余罪
公然わいせつは単発で終わることは少なく、近隣で何度も行われることが多いです。そのため、以前にも同じエリアで110番通報がされている場合は、その公然わいせつについても余罪として追及されます。
公然わいせつの余罪については、もし心当たりがあったとしても、状況によっては黙秘権を行使することも考えられます。刑事事件に精通した弁護士に対応方法を相談するとよいでしょう。
公然わいせつを否認する場合の弁護活動
1.自白調書をとらせない
公然わいせつ事件では、防犯カメラなどの客観的な証拠がなければ、被疑者と目撃者の供述以外に目ぼしい証拠はないということになります。
そのため、刑事裁判になれば、「本人(被告人)がどのようなことを言っているのか」が大きなポイントになります。
起訴前の取調べで、本人が陰茎を露出していないにもかかわらず、取調官の圧力に負けてしまい「露出しました。」と自白してしまったとします。
その場合、後の刑事裁判で、「自分は露出していません。」と言っても、検察官から「取調べのときは自白してましたよね?」と突っ込まれ、裁判官にも疑われてしまいます。
取調官は、否認を続ける被疑者に対して、あの手この手で自白するよう働きかけます。不起訴や無罪判決を目指すのであれば、このような働きかけに屈しないことが重要になります。
弁護士が本人とひんぱんに接見し、取調官のプレッシャーに屈しないようバックアップしていきます。
2.目撃者の供述の信用性を争う
公然わいせつ事件において、防犯カメラなどの客観的な証拠がなければ、「目撃者の言っていることが信用できるか否か」も大きなポイントになります。
人間の記憶は時の経過とともに衰えていくものですが、取調べが進むにしたがって目撃者の供述がより詳しくなっていくことがあります。同一の場面についての供述が変遷していることもあります。
弁護士が目撃者の供述調書を検討し、法廷で反対尋問を行うことによって、供述の信用性に問題があることを明らかにします。
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