ラッシュの輸入

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

ラッシュとは

ラッシュとは亜硝酸イシブチル等の亜硝酸エステルを主成分とする吸入剤です。性的興奮を高める作用があると言われています。

 

揮発性が高いため、ガラスの瓶に入った液体として流通しています。瓶のフタを開けて、気化したラッシュを鼻から吸い込んで摂取します。以前は脱法ドラッグとして広く流通し、ゲイの方が性行為をするとき等に使われていました。

 

現在は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器法)の「指定薬物」となり、製造、輸入、販売、授与、所持、購入、譲受、使用が原則として禁止されています。

 

ラッシュの輸入と刑罰

嗜好品としてラッシュを輸入すると医薬品医療機器法違反の罪と関税法違反の罪が成立します。

 

【医薬品医療機器法】

 

業として輸入している

業として輸入していない

ラッシュの輸入

5年以下の懲役または500万円以下の罰金

3年以下の懲役または300万円以下の罰金

 

【関税法違反】

ラッシュの輸入

10年以下の懲役または3000万円以下の罰金

*懲役と罰金の両方が科されることもあります。

*押収されたラッシュは没収されます。

 

ラッシュの輸入によって、医薬品医療機器法違反と関税法違反の2つの犯罪が成立しますが、「輸入する」という行為はひとつです。このようにひとつの行為で複数の犯罪が成立するときは、最も重い法定刑の罪を基準にして判決が下されます。これを観念的競合といいます。

 

医薬品医療機器法よりも関税法違反の方が刑罰が重いため、関税法違反の刑で処断されます。関税法違反は最高刑が懲役10年と非常に重いですが、初犯の方であれば、懲役1年6月・執行猶予3年前後になることが多いです。

 

営利目的で大量のラッシュを輸入したり、薬物犯罪の前科があると実刑の可能性が高まります。

 

ラッシュの輸入と逮捕・起訴の流れ

①税関職員による摘発

ラッシュの輸入は税関職員によって発見されることが多いです。税関は、中国など特定の国を違法薬物の仕出し地として警戒しており、国際郵便局で外国郵便物の通関業務をする際、そのような国からの個人宛て郵便物を見つけると、開披検査を実施することがあります。

 

郵便物の中に「RUSH」等と表示された液体入りの小瓶が入っていると、税関職員は、指定薬物の可能性が高いと判断し、裁判所の差押え令状を取得して、郵便物を差し押さえます。

 

②鑑定~警察等との共同捜査

税関職員は、差し押さえた郵便物の鑑定を同じ税関の分析部門に依頼します。結果が出るまでに1ヶ月程度かかることが多いです。鑑定の結果、亜硝酸イソブチルなどの指定薬物が含まれていることがわかると、税関は警察や地方厚生局の麻薬取締部に情報提供し、共同で捜査を進めます。

 

警察はまず被疑者の家宅捜索を行います。その後に被疑者を逮捕することもあれば、在宅事件として逮捕しないで捜査を続けることもあります。逮捕するか否かは、輸入したラッシュの量や本人の供述内容、仕事や同居人の有無などの身上、前科などの事情を考慮して決められます。

起訴前の流れ(逮捕・勾留あり)

起訴前の流れ(逮捕・勾留なし)

 

家宅捜索の際、部屋の中からラッシュ等の違法薬物が新たに発見されれば、その薬物の所持についても別事件として立件されます。

 

覚せい剤か大麻が発見されれば、その場で簡易検査を実施し、陽性であれば、現行犯逮捕されます。ラッシュなどの危険ドラッグの場合は、その場ですぐに検査することができないため(2019年9月時点)、少なくとも現行犯逮捕されることはありません。

 

科捜研で鑑定した後に、医薬品医療機器法の指定薬物であることが判明すれば後日逮捕される可能性が十分にあります。

 

③告発と起訴

税関長が検察庁の責任者(検事正)に被疑者を告発します。その後、担当の検察官が検察庁で被疑者の取調べを実施した後に、起訴することになります。

刑事裁判の流れ

 

ラッシュの輸入については、ほとんどのケースで公判請求されますが、輸入量が少ないなどの情状によっては略式起訴され、罰金刑で終わることもあります。

略式裁判

 

【逮捕されない場合の流れ(イメージ)】

1月10日

税関での開披検査

1月31日

鑑定を依頼

2月30日

鑑定結果が出る

6月6日

家宅捜索

7月1日

警察での取調べ

8月1日

警察での取調べ

8月25日

税関での取調べ

9月10日

税関長による告発

11月1日

検察庁での取調べ

12月1日

自宅に起訴状が届く

 

ラッシュ輸入罪の刑事弁護(釈放に向けた活動)

薬物犯罪で逮捕された場合、勾留される可能性が高いです。勾留されれば原則10日、最長20日にわたって拘束されます。この期間内に検察官が起訴するか不起訴にするかを決めます。起訴されれば保釈が認められない限り、さらに勾留が続くことになります。

 

ラッシュ輸入罪についても、逮捕されれば勾留される可能性が高いです。もっとも、ラッシュ輸入罪のケースでは、逮捕の時点で十分な証拠が収集されているのが通常であり、証拠隠滅のおそれは低いといえるため、被疑者が自白しており、身元が安定していれば、勾留前に釈放される余地もないとはいえません。

 

【ラッシュ輸入事件の証拠】

証拠の種類

その証拠によって立証しようとするもの

名宛先所在確認報告書

郵便物の宛先が被疑者の住所であること

到着経路調査報告書

どのような経路でラッシュが日本の国際郵便局まで配送されてきたか

鑑定書

押収された物品がラッシュであること

携帯電話解析結果報告書

被疑者のインターネットへのアクセス履歴、ラッシュの注文状況

 

【弁護活動】

弁護士が検察官や裁判官に意見書を提出し、勾留の必要がないことを理解してもらいます。

早期釈放を実現する

 

もし勾留された場合は、起訴後の保釈を目指します。ラッシュ輸入罪のケースでは、初犯であれば、起訴直後に保釈が認められる可能性が高いです。

 

【弁護活動】

弁護士が起訴前から保釈請求書などを準備しておき、起訴されたらすぐに保釈請求をします

保釈をとる

 

ラッシュ輸入罪の刑事弁護(罪を認めるケース)

(1)逮捕を防ぐ

海外の販売サイトでラッシュを注文した場合、警察に自首することが考えられます。税関によって郵便物が開封され被疑者が特定されれば、出頭しても自首にはなりませんが、特定される前であれば自首が成立します。

 

出頭する際には、販売サイトにアクセスした携帯電話やPCも持参します。自ら証拠を提出することにより証拠隠滅の可能性が低いと判断され、逮捕を避けられる可能性が高まります。

 

「海外のサイトでラッシュを注文したが1か月たっても届かない」という場合、サイトに問い合わせて確かに商品を送ったということであれば、既に税関検査にひっかかっている可能性があります。

 

身元を特定されていれば、出頭しても自首にはなりませんが、自発的に出頭している以上、逃亡のおそれは低下しますので、逮捕の可能性を下げることができます。

 

【弁護活動】

弁護士が自首に同行し、家族の代わりに本人の身元引受人になります。

自首の相談は弁護士へ

 

(2)反省する

ラッシュは、海外では合法とされている国もあり、日本でも一昔前は広く流通していたことから、違法性の意識が希薄な方も少なくありません。

 

しかし、ラッシュには、心筋梗塞や不整脈、視力障害などの重大な副作用が報告されています。このような副作用を理解した上で、自らの行為について真摯に反省することが必要です。

 

反省の気持ちを示すために慈善団体や弁護士会に贖罪寄付(しょくざいきふ)をすることも考えられます。

 

【弁護活動】

弁護士が検察官や裁判官に、本人の反省文や贖罪寄付の証明書を提出します。

 

(3)再発防止のプランを立てる 

ラッシュは海外の販売サイトからインターネットで購入しているケースが大半です。「サイトを閲覧するだけならいいか。」等と思っていると、再び手を出してしまいかねません。違法薬物の販売サイトには一切アクセスしないようにします。

 

また、ご家族やパートナーに、インターネットのアクセス履歴やクレジットカードの使用履歴を定期的にチェックしてもらうことも有用でしょう。

 

依存傾向のある方は、専門の治療施設に入通院したり、自助グループに通ってもらいます。

 

【弁護活動】

家族やパートナーに本人の監督プランについての陳述書を書いてもらい、弁護士が検察官に提出します。起訴された場合は、家族やパートナーに情状証人として出廷してもらい、裁判官の前で監督プランを話してもらいます。

 

医療機関や自助グループを利用しているケースでは、弁護士が医師の意見書や自助グループの参加証などを検察官や裁判官に提出します。

 

ラッシュ輸入罪の刑事弁護(無罪を主張するケース)

☑ 同居していた知人に勝手にスマホを使われた

☑ 友人から荷物の受けとりを頼まれただけ

☑ Poppersという商品を注文したがラッシュだとは知らなかった

 

ラッシュ輸入罪でこのような主張をしても、不起訴や無罪判決の獲得は容易ではありません。かえって裁判官に「反省していない」と判断され、刑が重くなることが多いです。実際にこのような主張をするかどうかは弁護士と協議して慎重に判断する必要があります。

 

もし否認するのであれば、弁護士が本人とひんぱんに接見し、取調べで自白調書をとられないようにしたり、裏づけ証拠を集めて検察官や裁判官に提出します。

否認事件の刑事弁護

 

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