不退去罪とは?構成要件や具体例、逮捕後の流れについて解説

不退去罪という犯罪をご存知でしょうか?

 

 

不退去罪は、刑法で住居侵入罪と一緒に定められています。

 

【刑法130条】

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらず、これらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

 

*下線部が不退去罪の規定です。

 

 

住居侵入罪は、窃盗目的や盗撮目的など明確な犯意があって犯されるものです。

 

 

一方、不退去罪は、「店でクレームを言っているうちに警察が来て逮捕された」といったように、罪を犯しているという自覚がないうちに犯罪になってしまうことがあります。

 

 

そのため、犯罪と縁がなかった人でも時と場合によっては犯してしまう可能性がある犯罪といえるでしょう。

 

 

このページでは、刑事事件の経験豊富な弁護士が、どのような場合に不退去罪になるかや、不退去罪の具体例、逮捕された場合の流れ等について解説しています。ぜひ参考にしてみてください。

 

 

 

 

不退去罪の構成要件

犯罪が成立するための要件を構成要件といいます。不退去罪の構成要件は、以下のとおりです。

 

 

①退去要求を受けたにもかかわらず

②正当な理由なく

③住居等から退去しない

 

 

それぞれの要件をみていきましょう。

 

 

①退去要求

住居の場合は居住者、店舗の場合は店長または店長に委任された従業員が退去要求をすることができます。

 

 

退去要求は正当なものでなければなりません。正当であるか否かは、住居の場合は居住者の意思によるところが大きいですが、飲食店など誰でも入れる施設の場合は、施設の営業や他の利用者への影響という観点から判断されます。

 

 

施設の場合は、正当性を担保するために、従業員が何度か退去要求をしても退去しない場合に警察へ通報することが多いです。退去要求は、口頭だけではなく、身振りで伝えてもよいとされています。

 

 

②正当な理由

不退去罪は、退去しないことについて正当な理由がないことが要件となります。正当な理由の有無は、立ち入りの目的や立ち入り後の状況、退去しない理由、被害者側の対応等を総合して判断されます。

 

 

③退去すべき場所

退去すべき場所は次のとおりです。

 

 

①人の住居

②人の看守する邸宅

③人の看守する建造物

④人の看守する艦船

 

 

住居以外の邸宅、建造物、艦船については、人が看守(管理)していることが必要です。

 

 

必ずしも誰かが常駐している必要はなく、管理会社の従業員が定期的に巡回していたり、施錠されている場合も看守の要件に該当します。

 

 

「邸宅」とは住居として建てられたものの、日常生活のために利用されていない建築物のことです。空き家やシーズンオフの別荘が邸宅にあたります。

 

 

「建造物」とは、店舗や事務所、役所、学校など住居と邸宅以外の建造物のことです。住居・邸宅・建造物の敷地もこれらに含まれます。

 

 

「艦船」とは軍艦だけではなく、通常の船も含まれます。

 

 

不退去罪が成立するタイミング

不退去罪は退去の要求を受けた直後に成立するわけではなく、退去するために合理的に必要とされる時間が経過した後に成立します。いったん不退去罪が成立すると退去するまで犯罪が継続します。

 

 

不退去罪と住居侵入罪の違い

不退去罪は適法に、または過失により住居等に立ち入った後に問題になります。立ち入りの時点では違法ではありません。これに対して、住居侵入は立ち入りの時点で正当な理由がなく違法性が認められます。

 

 

住居侵入罪が成立すれば、退去するまで犯罪行為が継続するため、不退去罪が成立する余地はありません。また、住居侵入罪には未遂罪がありますが、不退去については未遂を想定することができず、未遂罪はありません。

 

 

不退去罪の罰則

不退去罪の罰則は3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。

 

 

不退去罪の処分の傾向

不退去罪で捕まっても被害者側との間で示談が成立すれば、不起訴になる可能性が高いです。

 

 

示談が成立しなければ、初犯であれば、簡易な略式裁判で罰金になることが多いです。罰金であっても前科になります。

略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説

 

 

住居侵入のケースでは、侵入後に強盗や強制わいせつ等より重い犯罪に及んだことにより、初犯でも実刑になることがありますが、不退去罪のケースでは、「より重い他の犯罪」は存在しないことが多く、初犯で実刑になることはまずないでしょう。

 

 

不退去罪の具体例

1.クレーム

飲食店などの店舗や役所で、従業員に対して執拗にクレームを言って居座った場合は、不退去罪で捜査の対象になることがあります。

 

 

暴力や暴言があった場合は暴行罪や脅迫罪、威力業務妨害罪が優先的に適用されますが、平穏な態様で何時間にもわたって居座った場合は不退去罪で立件されることがあります。

 

 

2.相手に未練があるケース

元恋人や元配偶者の自宅に同意を得て入ったものの、「帰ってください」と言われた後も出て行かなかった場合は、警察に通報され不退去罪で捜査の対象になることがあります。

 

 

何度もそのような行為をしている場合は、ストーカー規制法違反が優先的に適用されますが、1回だけの場合は反復性がなくストーカーの要件を満たさないため、不退去罪で立件されることがあります。

 

 

3.訪問販売

訪問販売のケースで、相手から「もういいので帰ってください」と言われた後も執拗に営業を続けた場合は、警察に通報され不退去罪で捜査の対象になることがあります。

 

 

訪問販売により何らかの契約を締結した場合は、特定商取引法違反に問われることが多いですが、そこまで至っていない場合は不退去罪で立件されることがあります。

 

 

不退去罪と逮捕

不退去罪だけの逮捕率のデータはありませんが、住居侵入罪とあわせると、逮捕率は53%です。

*2021年版検察統計年報に基づく数値です。

 

 

不退去罪で逮捕された事例のほとんどは、通報を受けて現場にかけつけた警察官によって現行犯逮捕されたケースです。

 

 

不退去罪で逮捕された後の流れ

1.逮捕から起訴への流れ

逮捕は最長で3日しかできませんが、勾留されれば最長20日にわたって拘束されます。勾留の主な要件は逃亡のおそれと証拠隠滅のおそれです。

 

 

不退去罪で逮捕されると、翌日か翌々日に検察庁に連行され、検察官の取調べを受けます。検察官は、被疑者が勾留の要件を満たさないと判断すれば、その日のうちに釈放します。

 

 

逆に勾留の要件を満たすと判断すれば、裁判官に勾留を請求します。検察官が勾留を請求すると、当日か翌日に裁判官の勾留質問を受け、勾留されるか釈放されるかが決まります。

 

 

勾留されると原則10日にわたって拘束されます。勾留が延長されるとさらに最長10日にわたって拘束されます。検察官は勾留の期間内に被疑者を起訴するか釈放するかを決めなければなりません。

 

 

2.不退去罪で勾留を阻止するために

「店の対応に納得できない」

「酷い振られ方をして許せない」

 

 

不退去罪のケースでは、被疑者は被害者側に対して、怒り、恨み、未練等の複雑な感情を抱いています。

 

 

そのため、検察官や裁判官は、「釈放するとまた被害者のところに行って、復讐しようとしたり、自分の言い分に沿ったことを言わせようとするのではないか。」と考え、釈放に消極的になりがちです。

 

 

勾留を阻止するためには、被疑者に二度と店舗や被害者宅に行かないよう書面で誓約してもらうことは当然として、再発がないよう家族にも厳しく監督してもらうことが必要です。

早期釈放を実現する

 

 

不退去罪で前科を回避するために

不退去罪で前科を避けるための一番の近道は、被害者側と示談をまとめることです。示談が成立すれば不起訴になる可能性が高いです。

 

 

不起訴になれば、刑事裁判にかけられないので処罰されることはなく、前科もつきません。

 

 

不退去罪の被害者は、被疑者と直接やりとりをしたくないと思っているため、弁護士が間に入って示談交渉をすることになります。

 

 

不退去罪で逮捕された場合は私選弁護人を呼ぼう

不退去罪で逮捕された後に呼べる弁護士は、国選弁護人、私選弁護人、当番弁護士の3種類です。

 

 

このうち国選弁護人は勾留された後しか呼べませんので、勾留を阻止する活動はできません。

 

 

当番弁護士は逮捕直後に呼べますが、無料で1回接見してくれるだけで、継続的に弁護してもらうためには、勾留後に国選弁護人になってもらうか、私選弁護人として契約する必要があります。

 

 

そのため、私選弁護人に依頼することをオススメします。私選弁護人であれば直ちに勾留阻止に向け動くことができます。依頼の方法については以下のページをご覧ください。

逮捕後すぐに弁護士を呼ぶには?弁護士の呼び方やタイミングを解説

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しました。

 

 

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