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建造物損壊とは?成立要件や逮捕後の流れについて弁護士が解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。
建造物損壊とは?
建造物損壊とは、他人の建造物または艦船を損壊することです。
【刑法260条】 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 |
建造物損壊の構成要件
犯罪が成立するための要件を構成要件といいます。建造物損壊の構成要件は、「他人の」「建造物」または「艦船」を「損壊」することです。それぞれの要件について解説していきます。
1.「建造物」とは
建造物とは家やビル、駅など屋根があって土地に定着し、人が出入りできる工作物のことです。
2.「艦船」とは
艦船とは軍艦とその他の船舶です。航行能力があることが前提となりますので、沈没して引き上げられた艦船は建造物損壊の対象にはなりません。
3.「損壊」とは
損壊とは物理的に壊すことだけでなく、物の効用を害することも含みます。そのため、建造物の外観や美観を著しく汚し、容易に原状回復できないようにした場合は、物理的に壊していなくても損壊になります。
落書きについては、落書きした場所や落書きの大きさ、塗料の性質などから、損壊にあたるかどうかが判断されます。
ビラ貼りについては、貼り付けた場所やビラの大きさ・枚数・貼り付け方などから損壊にあたるかどうかが判断されます。
【判例で効用侵害が認められたケース】
①建造物の床に糞尿をまき散らした
②公衆便所の壁にペンキで「戦争反対」等と大書した
③庁舎の壁や窓ガラス等に1回400枚から2500枚のビラを3回貼り付けた
④社長室の扉や窓ガラスに合計約80枚のビラを貼り付け、会社にはがされても繰り返し同様の枚数のビラを貼り付けた
4.「他人の」とは
自分の物を壊しても実害がないため、原則として建造物損壊罪にはなりません。もっとも、自分の物であっても、他に法律上の権利を有している人がいる場合は、他人の物として扱われ、建造物損壊の対象になります。
【他人の物と扱われるケース】
①自分の家が差押えを受けている
②自分の家に抵当権を設定している
③自分の家を人に貸している
建造物損壊の罰則
建造物損壊の罰則は5年以下の懲役です。建造物を損壊した結果、人を死傷させた場合の罰則は以下となります。
建造物損壊の結果 | 罰則 |
人を死亡させた場合 | 懲役3年~20年 |
人を不詳させた場合 | 15年以下の懲役 |
器物損壊と異なり罰金刑はありませんので、起訴されたら公開の法廷で審理され、検察官から懲役刑を請求されることになります。
過失で建造物損壊になる?
建造物損壊罪が成立するためには、損壊することについての認識(故意)が必要です。そのため、過失により建造物を損壊した場合は、建造物損壊罪は成立しません。
ただ、過失による建造物損壊であっても、民法上の不法行為(民法709条)となり、損害賠償の義務は生じます。過失により建造物を損壊しただけでなく、人を死傷させた場合は、(業務上)過失致死傷罪や過失運転致死傷罪が成立します。
【過失により建造物を損壊したケース】
運転操作を誤り車が店につっこみ出入口が損壊した⇒建造物損壊罪にはならない
ブロック塀は建造物損壊になる?ならない?
1.建造物にあたるか否かの判断基準
ブロック塀にスプレーで「〇〇はバカ」等といたずら書きをした場合は、建造物損壊罪になるのでしょうか?
ブロック塀自体は屋根がなく人が出入りすることができないため建造物にはあたりませんが、ブロック塀が家の一部とみなせるのであれば建造物にあたります。
最高裁は、建造物の付属物が建造物にあたるか否かについて、建造物と付属物の接合の程度や付属物が果たしている機能上の重要性にもとづき判断しています(最高裁平成19年3月20日決定)。
上記の裁判では、住居の玄関ドアをへこませた事件について、玄関ドアが建造物と言えるか否かが争点になりました。
最高裁は、玄関ドアが外壁と接続していることや、外界との遮断、防犯、防風、防音上の重要な役割を果していることから、建造物であると判断しました。
2.ブロック塀は建造物にあたらない可能性が高い
ブロック塀は家の境界を定め、防犯上も重要な役割を果たしていますが、玄関ドアと異なり、家の外壁と物理的に接合しているわけではありません。
そのため、ブロック塀にスプレーでいたずら書きをする行為は建造物損壊ではなく、器物損壊が問題になる可能性が高いです。
ブロック塀ではなく家の外壁に容易に消せない落書きをした場合は、建造物損壊として扱われる可能性が高いです。
最高裁も、公園の公衆便所の外壁に「戦争反対」等と大書した事件について、建造物損壊の成立を認めています(最高裁平成18年1月17日決定)。
建造物損壊は親告罪?
親告罪とは被害者の告訴がなければ起訴することができない犯罪です。器物損壊罪は親告罪ですが、建造物損壊罪は親告罪ではありません。
一般的に建造物損壊の方が器物損壊よりも被害が大きくなりやすく、周辺住民や地域社会にも不安を与えかねないので、起訴・不起訴の判断を被害者一人の意思にかからせるのは適切ではありません。
そのため、起訴にあたって被害者の告訴は要件とされていないのです。
建造物損壊-初犯はどのような処分になる?
建造物損壊をして捕まった場合、前科・前歴のない初犯の方であれば、示談が成立すれば不起訴になる可能性が高いです。
不起訴とは被疑者を刑事裁判にかけないことです。裁判にかけられないため、処罰されることはなく、前科もつきません。
示談が成立しない場合でも、軽微な損壊で原状回復が容易であれば、被害弁償をしたり供託をすることによって不起訴となる余地が十分にあります。
初犯であっても被害者との間で示談がまとまらず、損壊の程度が重い場合は、起訴される可能性が高くなります。初犯であれば執行猶予になる可能性が高いですが、人が死傷している場合は実刑になることもあります。
建造物損壊の時効
1.刑事事件の時効
刑事事件の時効を公訴時効と言います。公訴時効が経過すると起訴できなくなるため、逮捕されることもありません。建造物損壊の公訴時効は5年です。
2.民事事件の時効
民事事件の時効は以下のいずれか早い方になります。
①損害及び加害者を知った時から3年
②行為の時から20年
建造物損壊と逮捕
1.現行犯逮捕されるケース
酔って暴れて飲食店の壁や出入口を損壊した場合は、通報を受けて駆けつけた警察官に現行犯逮捕されることが多いです。
⇒現行犯逮捕とは?通常逮捕との違いや現行犯逮捕されたときの対処法
2.通常逮捕されるケース
嫌がらせやいたずら目的で建造物を損壊した場合は、防犯カメラによって特定され通常逮捕されることが多いです。
建造物損壊で逮捕された後の流れ
1.検察官の処分
建造物損壊で逮捕されると、翌日か翌々日に検察庁に連行され検察官の取調べを受けます。
検察官が「勾留する必要はない」と判断すると、警察に被疑者を釈放するよう指示します。「勾留する必要がある」と判断すると、裁判官に勾留を請求します。
2.裁判官の処分
検察官が勾留を請求すると、当日か翌日に裁判官が被疑者に対して勾留質問を行います。
裁判官が「勾留する必要はない」と判断すると、勾留請求を却下します。その結果、被疑者は釈放されます。逆に「勾留する必要がある」と判断すると、勾留請求を許可します。
建造物損壊で勾留された後の流れ
建造物損壊で勾留されると原則10日にわたって拘束されます。検察官が勾留の延長を請求し裁判官が認めると、さらに10日の限度で拘束が続きます。
検察官は、勾留の期間内に被疑者を起訴するか釈放するかを決めなければなりません。
建造物損壊で勾留を阻止するために
建造物損壊で勾留されると原則10日わたって拘束されるため、逮捕されたことが会社に発覚する可能性が高くなります。勾留を阻止するためには、できるだけ早期に弁護士を呼んで、逮捕直後から動いてもらうべきです。
⇒逮捕されたらすぐに弁護士を呼ぼう!弁護士費用や呼び方を解説
酔って衝動的に建造物を損壊した場合は、早期に弁護活動を始めれば、勾留を阻止できる可能性が高いです。
嫌がらせ目的で建造物を損壊したケースでは、被害者に対する執着が認められ、検察官や裁判官に「釈放すれば被害者に接触するのでは?」と判断されやすく、勾留される可能性が高くなります。
勾留を阻止するためには、弁護士が本人に誓約書を書かせたり、家族に監督してもらう等して、被害者に接触しないことを検察官や裁判官にわかってもらう必要があります。
建造物損壊と示談
1.建造物損壊で示談をするメリット
検察官は起訴・不起訴の処分を決めるにあたって被害者の処罰感情を重視しています。そのため、被害者に示談という形で許してもらえれば、不起訴になる可能性が高くなります。
2.建造物損壊で示談しないとどうなる?
建造物損壊は民法709条の不法行為に該当し、民事事件にもなり得ます。修理代が数十万円以上になるケースでは、示談をしておかないと、後日、民事訴訟を提起されるリスクがあります。
示談をしておけば、刑事で有利な処分を得られるだけでなく、民事上のトラブルも同時に解決できます。
3.建造物損壊の示談金の相場
建造物損壊の示談金は、損壊した物の修理費用や原状回復費用がベースになります。そのため、まずは被害者から費用の見積書を出してもらいます。
ご近所トラブル等で嫌がらせ目的で建造物を損壊した場合は、慰謝料を支払う必要もあるでしょう。
4.建造物損壊の示談交渉は弁護士へ
建造物損壊の被害者は、加害者側と関わりたくないと思っていることが多いです。捜査官もこのような被害者の思いを尊重しますので、加害者やその家族に、被害者の連絡先を教えてくれません。
弁護士が交渉の窓口になれば、被害者も安心して連絡先を教えることができます。
被害者が加害者の連絡先を知っていたとしても、直接交渉すると、被害者を怖がらせてしまったり、さらなるトラブルに発展するおそれもあることから、交渉は弁護士に依頼した方がよいでしょう。
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