横領した人の末路-再就職はできる?クビにならないケースは?

横領した人の末路は?業務上横領に強い弁護士が解説

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

 

横領した人の末路-懲戒解雇される

1.懲戒解雇の可能性が高い

業務上横領が会社に発覚すると懲戒解雇される可能性が高いです。労働基準法で労働者の解雇は厳しく制限されていますが、横領した従業員を懲戒解雇しても不当解雇と評価されることはないでしょう。

 

 

2.除外認定を申請される

従業員を即時に解雇する場合、会社は解雇予告手当として1か月分の給与に相当する金額を支払わなければなりません。

 

 

【労働基準法】

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

 

 

例外として、会社が労働基準監督署に解雇予告除外認定を申請して認められると、解雇予告手当なしで即時解雇が可能になります。

業務上横領と労基署の解雇予告除外認定

 

 

業務上横領で懲戒解雇される場合は除外認定を申請されて、解雇予告手当なしで即時解雇される可能性が高いです。

 

 

3.懲戒解雇されないケース

業務上横領が発覚した場合、大企業や金融機関であれば懲戒解雇される可能性が高いですが、中小企業の場合は、社長の意思によるところが大きいため、懲戒解雇されないこともあります。

 

 

懲戒解雇を回避するためには会社のヒアリングに積極的に協力した上で、弁護士を通じて、納得しえもらえる返済プランを提案することが必要です。

 

 

横領した人の末路-再就職できる?

1.再就職先に懲戒解雇がバレるとどうなる?

業務上横領で懲戒解雇になった後、就職活動をして再就職先が見つかったとしても、懲戒解雇されたことがバレると、経歴詐称で再び懲戒解雇になるリスクがあります。懲戒解雇にならなかったとしてもその会社に居続けることは難しいでしょう。

 

 

2.離職票で懲戒解雇がバレる?

懲戒解雇されると会社から離職票が交付されます。懲戒解雇された場合、離職票の「重責解雇」の欄にチェックが付けられています。重責解雇とは懲戒解雇のことです。再就職先の会社から離職票を提出するように言われると懲戒解雇されたことがバレることになります。

 

 

もっとも、離職票は失業手当の給付を受けるために必要な書類であって、再就職先の会社から提出を求められることは通常ありません。そのため、離職票がきっかけになって懲戒解雇されたことがバレることは通常ないといえるでしょう。

 

 

3.再就職先に懲戒解雇がバレるケース

再就職先に懲戒解雇がバレるケースとして、以下が考えられます。

 

 

①再就職先に噂が回ってきて知られる

②逮捕・報道された結果知られる

 

 

①については、同じ業界の会社に再就職した場合に生じるリスクがあります。②については逮捕されれば必ず報道されるわけではありませんが、横領した会社が金融機関や大企業の場合は報道される可能性が高くなります。

 

 

逮捕されれば報道されなかったとしても、出社することができないため、懲戒解雇されたことがバレなかったとしても、再就職先の会社に居続けることが難しくなります。

 

 

横領した人の末路-逮捕・勾留される

1.逮捕される可能性が高いケース

業務上横領が発覚すると逮捕されることが少なくありません。数百万円のお金を横領すれば会社によって告訴され、逮捕される可能性が高くなります。

業務上横領で逮捕されるケースとされないケース

 

 

2.業務上横領で逮捕されたらどうなる?

業務上横領は手口や金銭の流れを解明するために捜査に時間がかかることが多く、逮捕されれば勾留される可能性が高くなります。

 

 

勾留されれば原則10日、勾留が延長されれば最長20日わたって拘束されます。検察官は勾留期間内に被疑者を釈放するか起訴しなければなりません。

逮捕後の流れを図でわかりやすく解説!

 

 

起訴されるとその後も勾留が続きます(起訴後勾留)。起訴後勾留の期間は起訴から2か月ですが、その後も1か月単位で判決の日まで更新されます。

 

 

3.再逮捕・追起訴されることも

業務上横領のケースでは、長期間にわたって多数の横領を繰り返していることが多いです。そのようなケースでは何度か再逮捕・追起訴されることが多く、身柄拘束が長くなりがちです。

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4.逮捕されたらいつ釈放される?

業務上横領で逮捕・勾留された場合、最長20日の勾留期間内に会社との間で示談が成立すれば釈放される可能性が高くなります。

 

 

示談が成立しなければ起訴される可能性が高くなります。起訴されれば勾留が続きますが、保釈を請求することができます。保釈請求が許可され保釈金を裁判所に納めれば釈放されます。

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横領した人の末路-報道される

1.報道される可能性が高いケース

業務上横領で逮捕されると報道されることがあります。横領した会社が金融機関や大企業の場合は報道される可能性が高いです。 

 

 

2.報道されるタイミング

最も報道されやすいタイミングは逮捕直後です。逮捕されると48時間以内に検察官に送致されます。逮捕翌日または翌々日の朝に護送バスで検察庁まで連行されるのです。

逮捕後に東京地検・東京地裁に連行されるときの流れ

 

 

報道される場合は、護送バスに乗り込むために警察署から出たタイミングでカメラマンに撮影され、その日の午後に報道されることが多いです。そのため、警察署から一歩でも出たら下を向いて歩いた方がよいでしょう。

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3 報道の回数

逮捕直後に報道されれば、その後に報道されることは少ないです。もっとも、一度でも報道されるとネット上で拡散され、デジタルタゥ-として残り続けるので、今後の社会復帰に重大な支障が生じます。家族に影響が及ぶこともあります。

 

 

4.報道されないケース

業務上横領が刑事事件になっても、逮捕されなければ実名報道されることはありません。逮捕されていなければ起訴された場合でも実名報道されることはないでしょう。

 

 

横領した人の末路-仮差押えされる

1.仮差押えとは?

業務上横領が発覚すると、不動産や銀行預金が仮差押えされることが多いです。

 

 

民事裁判を起こすと判決までに数か月はかかります。1年以上かかることも少なくありません。その間に債務者が財産を処分したり隠してしまうと、債権者が裁判に勝っても賠償金を回収できなくなります。

 

 

このような事態にならないよう、一定の要件を満たせば、債権者が民事裁判を起こす前に、債務者の資産を保全することができます。これが仮差押えです。

 

 

2.仮差押えされたらどうなる?

不動産が仮差押えされても売却することはできますが、将来、差押えされる可能性が高い不動産を購入する人はいないでしょう。銀行預金が仮差押えされると預金を引き出すことができなくなります。

業務上横領と仮差押え

 

 

不動産や銀行預金が仮差押えされると、示談金を準備できなくなったり、日々の生活にも支障が生じることがあります。

 

 

3.仮差押えを取り下げてもらえるケース

不動産が仮差押えされても、会社と交渉して、不動産の売却代金から仲介手数料などの諸経費を控除した金額を会社に弁済することを条件として仮差押えを取り下げてもらえることがあります。

 

 

このようなスキームによって、仮差押えされた不動産であっても任意売却し被害弁償にあてることが可能になります。

 

 

預金債権についても、会社と交渉して仮差押えを取り下げてもらった上で全額を引き出して、被害弁償にあてることが考えられます。

業務上横領で不動産が仮差押えされた!示談のタイミングは?

 

 

横領した人の末路-刑事裁判を起こされる

1.刑事裁判になる?ならない?

業務上横領が刑事事件になれば、逮捕されてもされなくても、検察官によって起訴・不起訴が決められます。

 

 

起訴とは被疑者を刑事裁判にかけることです。不起訴とは被疑者を刑事裁判にかけずに刑事手続を終了させる処分です。不起訴になれば処罰されることはなく、前科もつきません。

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会社と示談が成立しており、示談書に「許す」とか「刑事処罰を求めない」といった宥恕文言(ゆうじょもんごん)が記載されていれば、不起訴になる可能性が高くなります。宥恕文言付きの示談が成立していなければ、起訴される可能性が高くなります。

 

 

2.業務上横領で起訴されたらどうなる?

業務上横領罪には罰金刑はありません。そのため、非公開の簡易な略式裁判で審理されることはなく、公開の法廷で審理され、検察官から拘禁刑を請求されることになります。

 

 

起訴されれば、無罪とならない限り拘禁刑が言い渡されるので、前科がつくことになります。

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3.起訴イコール刑務所ではない

業務上横領で起訴された場合、十分な被害弁償を行っていれば、執行猶予がつく可能性が高くなります。執行猶予がつけば直ちに刑務所に収容されることはありません。

 

 

新たに罪を犯して有罪判決になることなく執行猶予期間が経過すれば、刑の言い渡しの効力はなくなりますので、刑務所に入る可能性はなくなります。業務上横領を認めている場合、起訴されれば執行猶予を目指して活動することになります。

 

 

横領した人の末路-民事裁判を起こされる

1.民事裁判を起こされやすいケース

業務上横領が発覚すると、民事裁判を起こされることがあります。数百万円以上のお金を横領すれば、示談をしない限り民事裁判を起こされる可能性が高いです。

 

 

2.民事裁判になるとどうなる?

民事裁判になると、「横領の調査費用」や「第三者委員会の開催費用」として、横領した金額に加えて、数百万円~1億円以上の金額を請求されることがあります。また、会社側の弁護士費用も請求されます。実務では、裁判で認められた金額の1割が原告(会社)の弁護士費用として上乗せされます。

 

 

さらに、裁判で認容された金額につき、横領した時点から支払い済みまで年3%の遅延損害金が付加されます。

*2020年3月31日以前に発生した横領については年5%の遅延損害金が付加されます。

 

 

民事裁判になると裁判が終了するまで少なくとも半年~1年はかかります。また、判決は一括払いを命じるものしかありません。支払ができなければ財産が差し押さえられます。給与が差し押さえられることもあります。

*給与差押えは手取り給与額の4分の1までとされています。

 

 

 

3.民事裁判で和解が成立することも

民事裁判になれば必ず判決までいくわけではありません。民事裁判になった事件の多くが裁判上の和解で終了しています。和解であれば分割払いを受け入れてもらえる可能性が高くなります。

 

 

もっとも、民事裁判を起こされた後に和解をするのであれば、民事裁判を起こされる前に示談で解決した方が、費用の面でも時間の面でもメリットがあるといえるでしょう。

 

 

横領した人の末路-離婚を迫られる

1.配偶者にバレる可能性が高い

業務上横領が発覚した場合、会社が被害届や告訴状を出すと逮捕されることがあります。横領の事実を配偶者にだまっていても逮捕されればバレてしまいます。

 

 

逮捕されなくても刑事事件になれば、警察から配偶者に連絡が入り、被疑者の生活状況やお金の使い方などについて事情聴取が行われます。そのため、業務上横領が事件化すると、逮捕されてもされなくても、配偶者に発覚することになります。

 

 

事件化しなかったとしても、懲戒解雇される可能性が高いので、いずれにせよ配偶者に横領について言わざるを得なくなるでしょう。

 

 

2.離婚の話になることも

業務上横領の事実を知った配偶者の中には、返済に向けて協力してくれる方もいますが、離婚を希望する方もいます。事件化した場合は、逮捕されて報道される可能性が十分にあるため、子どもへの影響を考え離婚を望む方が多いです。

 

 

業務上横領で懲戒解雇されたことは、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)にあたる可能性が高いため、離婚を切り出された場合に調停や裁判で争うことは難しいでしょう。

 

 

なお、事件化しない場合は逮捕・報道されることはありませんし、分割払いで示談がまとまることが多いので、離婚に至らないケースも多々あります。

 

 

3.離婚したらどうなる?

離婚を余儀なくされると、会社への返済と共に、配偶者への財産分与や養育費の支払いも必要になります。離婚に際し財産分与の名目で資産のほとんどを配偶者に移転した場合は、後日、会社から詐害行為取消権(民法424条)を行使されることがあります。

 

 

【民法】

第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

 

 

 

横領した人の末路-刑務所に収容される

1.刑務所に収容されるケース

業務上横領で起訴されると刑事裁判が始まります。300万円以上のお金を横領した場合、被害弁償を一切しなければ実刑となり刑務所行きになる可能性が高くなります。

 

 

横領額が1000万円~3000万円で2,3年の実刑、3000万円から1億円で4,5年の実刑になることが多いです。

 

 

業務上横領をしてしまった方は、前科・前歴がない初犯の方が多いです。普通に大学を卒業して会社では責任のあるポジションについていた方が多いので、刑務所でこれまで接したことがない人達に囲まれ、茫然とすることが多いです。

 

 

2.仮釈放について

業務上横領で収監された方は、長年にわたり会社員として働いてきた方が大半です。刑務所ではそのような方は珍しい存在ですので、エリート扱いされ、民間の第3セクターが運営する待遇がよい刑務所に収容されたり、多めの仮釈放がもらえることもあります。

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