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略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説

略式裁判とは?

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

略式裁判とは

略式裁判とは、正式裁判よりもシンプルな手続で迅速に進められる刑事裁判です。検察官が簡易裁判所に略式請求すると、略式裁判で審理されることになります。

*略式裁判を請求することを「略式請求」とか「略式起訴」といいます。

 

 

TVや映画に法廷で裁判をしているシーンが出てくることがありますが、これは正式裁判です。

 

 

略式裁判の審理は法廷では行われません。検察官が提出した証拠書類を、裁判官が執務室で読みながらひっそりと審理します。検察官や被告人、弁護士が審理に立ち会うことはありません。

 

 

略式裁判の結果は「略式命令」という書面によって本人に告知されます。

 

略式裁判は罰金と科料のみ

略式裁判で科すことができる刑罰は、100万円以下の罰金か科料(1000円以上1万円未満の財産刑)のみです。略式裁判で懲役刑・禁固刑や100万円を超える罰金を科すことはできません。

 

 

重い刑罰を科すためには、簡易迅速に行われる略式裁判ではなく、正式裁判で慎重に審理されるべきだからです。

 

 

略式裁判の3つのメリット

略式裁判のメリットは次の3つです

 

 

1.被告人の負担が軽い

略式裁判の審理は書面のみで行われ法廷は開かれません。そのため、法廷に行く手間が省けますし、出廷に伴うプレッシャーとも無縁です。被告人質問や最終陳述の準備をする必要もありません。

 

 

2.裁判が公開されない

正式裁判は誰でも傍聴できる公開法廷で実施されるため、裁判の内容が外部に漏れるリスクがあります。重大事件の裁判には、報道陣がつめかけ、裁判が終わった後に被告人の発言や法廷でのふるまいが報道されます。

 

 

これに対して、略式裁判は非公開で審理されるため、審理の状況が外にもれることはありません。

 

 

3.手続が早く終わる

検察官が略式起訴してから2週間から1か月前後で自宅に略式命令が届きます。

 

 

これに対して、正式裁判の場合は、判決が出るまで起訴から1か月以上かかることが多いです。裁判によっては1年以上かかることもあります。そのため、略式裁判の方が刑事手続から早く解放されます。

 

略式裁判のデメリット

略式裁判では法廷が開かれず、被告人は裁判に関与しません。そのため、被告人が法廷で自分の言い分を述べることができないというデメリットがあります。

 

 

このようなデメリットがあるため、検察官が略式請求するためには、被疑者に略式裁判の手続(略式手続)を説明した上で、書面による同意を得ることが必要とされています。

 

略式裁判と正式裁判の違い

略式裁判と正式裁判の違いをまとめると次のようになります。

 

 

本人の同意

管轄

裁判所への出廷

刑罰

略式裁判

同意が必要

簡易裁判所のみ

本人が出廷することはできない

100万円以下の罰金または科料しか科すことができない

正式裁判

同意は不要

簡易裁判所または地方裁判所

本人が出廷することが必要

制限なし

 

略式裁判は拒否すべき?

被疑者が書面で同意しないと、検察官は略式裁判を請求することができません。被疑者は検察官に同意を強制されることはなく、自らの意思で略式裁判を拒否することができます。

 

 

もっとも、略式裁判を拒否すると検察官から正式裁判を請求されることになります。罪を認めている場合、正式裁判でも略式裁判でも判決内容は同じになると考えられますので、略式裁判を拒否するメリットはありません。

 

 

逆に、略式裁判の方が、法廷に行く手間が省けたり、傍聴人を通じて裁判の内容が外部に漏れるリスクがなくなるというメリットがあります。そのため、罪を認めている場合は、略式裁判を受け入れた方がよいでしょう。

 

 

逆に、無罪を主張している場合は、裁判官の前で言い分を述べたり、弁護士が関係者に反対尋問する必要がありますので、略式裁判を拒否して正式裁判にしてもらうべきです。

 

 

もっとも、被疑者が無罪を主張している場合、検察官が略式起訴することはありません。検察官が裁判で勝てると判断すれば正式裁判を請求しますし、勝てないと判断すれば不起訴にします。

不起訴とは?無罪との違いや前歴・罰金との関係

 

略式裁判と不服申し立て

略式裁判の結果は略式命令という書面で本人に告知されます。

 

 

本人が略式命令を受けとった日から2週間以内に裁判所に正式裁判を請求すれば、改めて正式裁判で審理されることになります。正式裁判の判決が確定すると略式命令は失効します。

 

 

もっとも、容疑を認めている場合は、正式裁判に移行しても略式命令と同じ判決が下される可能性が高いです。

 

 

そのため、略式裁判が終わった後に正式裁判を請求するのは、「本人が当初無罪を主張していたにもかかわらず、意に反して自白調書をとられてしまい略式起訴された場合」等に限られるでしょう。

 

略式裁判でも前科はつく?

前科とは「有罪の裁判を受けた事実」を意味しますが、略式であっても裁判ですから、有罪になれば前科がつきます。

 

 

本人が略式命令を受けとった日から2週間以内に正式裁判を請求しなければ、略式命令は確定します。略式命令が確定すれば、罰金や科料の前科がつくことになります。

前科とは?

 

略式裁判と報道

略式起訴される前に報道されていなかった場合は、略式起訴された後にいきなり報道される可能性は低いです。

 

 

略式起訴される前に事件が報道されていたケースでは、続報として、略式起訴されたことと罰金や科料の額が報道される可能性はあります。

 

 

ただ、有名人の事件や社会的に注目されている事件でない限り、既に報道されていたとしても、略式起訴のタイミングで改めて報道されることは少ないです。

 

 

略式裁判の流れ

1.逮捕・勾留されていない事件

① 書類送検

警察が検察に捜査資料を引き継ぎます。自白事件の場合は、最初の取調べから2ヶ月前後で書類送検されることが多いです。

 

 

② 検察官の説明等

略式起訴するためには、法律上、検察官が被疑者に略式手続について説明し、被疑者が書面で同意することが必要とされています。

 

 

被疑者が検察官から呼び出しを受け、検察庁で取調べを受けた後に、略式裁判についての説明を受け、異議がなければ申述書に署名・捺印します。

 

 

③ 略式起訴

担当の検察官が略式起訴してもよいかについて上司の決裁を仰ぎます。決裁が下りると、検察官が簡易裁判所に略式起訴します。被疑者が申述書に署名・捺印してから、略式起訴されるまで2週間前後かかります。

 

 

④ 略式命令の発付+本人への送達

③の約2週間後に、裁判所が略式命令を発付し、本人のもとに郵送(特別送達)します。

 

 

⑤ 罰金・科料の支払い

④の約1週間後に、検察庁から罰金・科料の納付書が自宅に届きます。略式命令に不服がなければ銀行に行って納付します。不服があれば、略式命令を受けとった日から2週間以内に正式裁判を請求することができます。

 

【進行イメージ】

3月1日

書類送検される

4月1日

検察庁に出頭→検察官から略式裁判について説明を受け同意する

4月10日

検察官が略式請求する

4月20日

簡易裁判所から略式命令が自宅に郵送される。

4月27日

検察庁から罰金の納付書が自宅に郵送される→金融機関にて支払う

 

 

2.逮捕・勾留されている事件

逮捕・勾留されている場合は、勾留の満期日またはその直前に、検察官が略式起訴します。略式起訴する当日、被疑者は警察署から裁判所に連行され、略式命令が出るまでの間、裁判所で待機させられます。

 

 

略式命令が出ると裁判所の職員が命令書を被疑者(被告人)に交付します。そのタイミングで護送の警察官が被疑者(被告人)の手錠を外して釈放します。

逮捕・勾留中に罰金となり釈放されるまでの流れ

 

 

略式裁判と交通違反

スピード違反や酒気帯び運転等の交通違反で赤切符を交付された場合は、裁判所の構内で、警察の取調べ、検察の取調べ、略式裁判が1日でまとめて行われることが多いです。

 

 

これを三者即日処理方式といいます。

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交通違反で略式裁判になる方は群を抜いて多く、個別に対応していると捜査機関や裁判所の処理能力をオーバーするため、このような流れで処理されます。

 

 

略式裁判の罰金の金額は?

略式裁判で決まる罰金の金額には犯罪ごとにある程度の傾向があります。罰金前科のない方については、以下のような金額になることが多いです。

 

犯罪

金額

迷惑防止条例違反(痴漢、盗撮)

30万円

児童ポルノ法違反(児童買春)

50万円

淫行条例違反

30万円

暴行

10万円か20万円

傷害

20万円が30万円

万引き

20万円か30万円

酒気帯び運転

30万円、35万円、40万円

無免許運転

20万円、25万円

スピード違反(速度超過50キロ)

8万円

スピード違反(速度超過60キロ)

9万円

スピード違反(速度超過70キロ)

10万円

 

交通違反を除き金額については10万円刻みになることが多いです。

 

略式裁判で罰金を払えないとどうなる?

罰金を払えなければ最終的には労役場に収容されます。労役場では紙袋作りなどの軽作業をすることが義務づけられます。お金を払えないのであれば、労働で責任を果たせということです。

 

 

労役場に収容される期間は、罰金額を5000円で割った金額になります。例えば、罰金額が100万円であれば、200日(100万円÷5000円)にわたって労役場に収容されます。

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略式裁判と弁護士

略式裁判は検察官の提出した証拠のみに基づいて審理されますので、弁護士が活動する余地がありません。

 

 

弁護士を依頼するのであれば、検察官が略式裁判を請求する「前に」依頼する必要があります。略式請求される前であれば、弁護士の活動によって、不起訴を獲得できる余地があります。

 

 

不起訴になれば略式請求されることはありません。そのため、前科がつくこともありません。

 

 

検察官の取調べを受け申述書に署名・捺印していれば、早ければ2,3日以内に略式起訴されます。そのため、遅くとも検察官から呼び出しを受けた時点で弁護士に相談した方がよいでしょう。

 

 

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