かけ子とは?特殊詐欺のかけ子の弁護活動について解説

このページはウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

 

かけ子とは

かけ子とは特殊詐欺グループのだまし役のことです。特殊詐欺はかけ子が被害者に電話をかけるところから始まります。かけ子は電話で被害者の息子や銀行職員等を装い、「急にお金が必要になった。」、「古いキャッシュカードを回収します。」等と言って被害者を信じ込ませます。その後、受け子が被害者の家を訪問し、被害者から現金やキャッシュカードをだましとるのです。

受け子とは?特殊詐欺の受け子の弁護方法について解説

 

 

かけ子が「医療費が還付されるので、今から方法をご案内します」等と言って被害者をだまし、詐欺グループの口座に直接お金を振り込ませる手口もあります(還付金詐欺)。

 

 

かけ子は何罪になる?罰則は?

1.詐欺罪

かけ子が被害者をだました後に受け子が現金やキャッシュカードを被害者から受けとった場合は、受けとった時点で詐欺罪が成立します。被害者が途中で気づいて被害がなかった場合は詐欺未遂罪になります。

 

 

詐欺罪の罰則は10年以下の拘禁刑です。

 

 

かけ子は被害者をだましていますが、お金やキャッシュカードを被害者から受けとるわけではありません。このようにかけ子は犯行の一部しか実行していませんが、受け子と相互に利用しあってチームプレーで犯罪を実現していますので、受け子との間に共謀が認められ、詐欺罪の共謀共同正犯が成立します。

 

 

2.電子計算機使用詐欺罪

かけ子が被害者に直接お金を振り込ませる還付金詐欺のケースでは、電子計算機使用詐欺罪が成立します。電子計算機使用詐欺罪の罰則は10年以下の拘禁刑です。

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3.窃盗罪

受け子はキャッシュカードをだましとった後、指示役に指示されて、コンビニ等のATMにだましとったカードを挿入して不正に現金を引き出します(出し子)。

出し子とは?出し子が逮捕された後の流れや示談について

 

 

出し子が現金をATMから不正に引き出した点については、銀行のお金に対する占有を侵害したとして、窃盗罪が成立します。ATMのような機械は詐欺罪の被害者にはなりませんので、詐欺罪は成立しません。

 

 

窃盗罪の罰則は10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。

 

 

かけ子は引き出し行為には直接関与していませんが、出し子が不正に現金を引き出すことを見越して詐欺の電話をかけています。出し子もかけ子によって被害者がだまされた状態を利用して、被害者からキャッシュカードを受けとっています。

 

 

このように、かけ子と出し子は相互に利用し補充しあっているといえ、共謀が認められます。そのため、かけ子には窃盗罪の共謀共同正犯が成立します。

 

 

かけ子はどのように逮捕される?

かけ子は通常逮捕の形式で逮捕されるのが一般的です。受け子のように現行犯逮捕されることは少ないです。

 

 

かけ子は雑居ビルやマンションにあるアジトで活動しています。警察は事前にアジトを特定し、近くの部屋を借りて監視カメラを設置する等して、かけ子のアジトへの出入り状況を確認しています。ゴミ捨て場に捨てられたゴミの内容物も確認しています。

 

 

ひととおりの証拠がそろえば、アジトに出入りするかけ子について逮捕状を請求します。逮捕状が発付されれば、多数の捜査員が一斉にアジトに突入し、中にいるかけ子に逮捕状を示して逮捕します。

 

 

逮捕されると留置場に入れられますが、口裏合わせを防ぐため、複数のかけ子が同じ警察署の留置場に収容されることはありません。複数の警察署に分散されて収容されます。

 

 

かけ子と報道

かけ子が逮捕されるケースは受け子や出し子に比べて少ないため、実名報道されることが多いです。

 

 

アジトで逮捕された後に警察車両に乗せられ警察署に向かう際に報道カメラマンに顔写真をとられて、その日の夕方以降のニュースに配信されることが多いです。

特殊詐欺と報道-報道の流れ・タイミング・回数について

 

 

かけ子が逮捕された後の流れは?

1.検察官の勾留請求

かけ子が逮捕されると翌日か翌々日に検察庁に連行されて検察官の取調べを受けます。検察官が勾留の要件を満たさないと判断した場合は、その日のうちに被疑者を釈放します。

 

 

逆に勾留の要件を満たすと判断した場合は、裁判官に勾留を請求します。かけ子が逮捕された場合、検察官はほぼ100パーセント勾留を請求します。

 

 

2.裁判官の勾留質問

検察官によって勾留を請求されると、その当日か翌日に裁判所に連行され裁判官の勾留質問を受けます。

 

 

裁判官が勾留の要件を満たすと判断した場合、検察官の勾留請求を許可します。その結果、被疑者は勾留されます。逆に要件を満たさないと判断した場合は、勾留請求を却下します。その結果、被疑者は釈放されます。

 

 

かけ子が勾留を請求された場合、裁判官はほぼ100%請求を許可します。

 

 

3.勾留後の流れ

勾留の期間は原則10日ですが、延長されると最長20日になります。かけ子が勾留されると延長される可能性が高いです。検察官は最長20日の勾留期間内に被疑者を起訴するか釈放しなければなりません。

逮捕後の流れを図でわかりやすく解説

 

 

特殊詐欺は社会問題になっているため、起訴前に示談が成立したとしても起訴猶予で不起訴になることはなく、証拠があれば起訴される可能性が高いです。

 

 

かけ子と再逮捕・追起訴

かけ子は多くの被害者をだましています。被害者が複数いる場合は、被害者ごとに別の事件として立件されます。そのため、1回だけ逮捕されて終わりというわけではなく、立件された事件の数に応じて再逮捕が何回か続くことになります。

再逮捕とは?

 

 

起訴についても追起訴という形で立件された事件の数に応じて複数回起訴されることになります。

追起訴とは?裁判の流れや執行猶予について解説

 

 

かけ子と共謀共同正犯

かけ子はアジトで何人もの被害者にだましの電話をかけています。だましが成功して被害が発生すれば、被害者をだましたかけ子に詐欺罪が成立します。

 

 

この場合、その被害者に電話をかけていない他のかけ子についても詐欺罪の共謀共同正犯が成立する可能性が高いです。

 

 

「自分はその被害者と一度も話していないのに詐欺になるのは納得できない」と思われるかもしれませんが、同じアジトでお互いに助け合いながらチームで活動している以上、共謀が認められ、詐欺罪の共謀共同正犯が成立します。

 

 

もっとも、かけ子がだましの電話をかけたときにアジトにいなかった別のかけ子については共謀が認められず、その事件については罪に問われないことが多いです。

*警察はアジトの出入口などに監視カメラを設置して、かけ子の出入り状況について把握していることが多いです。

 

 

別のかけ子がだましの電話をした時点で詐欺グループから離脱していた場合も罪に問われません。ただし、離脱する前に自分や一緒にいたかけ子がだました事件については、離脱後に逮捕されることはあります。

 

 

かけ子の弁護活動のポイント

1.示談

量刑に最も大きく影響するのは示談の有無や内容です。弁護士が被害者と交渉し、「許す」とか「刑事処罰を求めない」といった宥恕文言(ゆうじょもんごん)が入った示談書にサインしてもらえれば、裁判官にも確実に評価してもらえます。

 

 

かけ子で逮捕・起訴された場合は、被害者が多数になり、単独では示談金を準備できないことが多いです。

 

 

かけ子が逮捕される際はアジトにいた他のかけ子と一緒に逮捕されるため、示談についてもかけ子同士で協力することにより、一人あたりの金銭的な負担を軽減することが考えられます。

 

 

2.上位者と認定されないようにする

かけ子の裁判では、複数のかけ子が被告人として同じ公判に出廷し、一緒に審理されることになります。

 

 

かけ子の裁判では、かけ子同士の関係や役割が争点になることが多いです。かけ子のリーダーとして認定されてしまうと、他のかけ子よりも刑が重くなります。以下の事情がある場合は上位者として認定されやすくなります。

 

 

・アジトの賃貸借契約の当事者になっている

・詐欺のマニュアルを作って他のかけ子に指導している

・指示役と他のかけ子とのつなぎ役になっている

・指示役から報酬をもらって他のかけ子に分配している

 

 

逆にこのような事情がなければ、弁護士を通じて上位の者ではなかったことをアピールします。

 

 

かけ子と詐欺グループの弁護士

かけ子は逮捕される前の時点で指示役から「逮捕されたらうちのグループの弁護士をつける」等と言われていることが多いです。実際に逮捕されたら詐欺グループお抱えの弁護士が接見に来ます。弁護士費用は詐欺グループが負担してくれます。

 

 

もっとも、詐欺グループの弁護士は、かけ子のことを考えて弁護活動するというより、お金をもらっている詐欺グループを守るために活動しています。そのため、やみくもに黙秘を勧められたり、示談についても理由をつけて動いてくれないことがあります。

 

 

詐欺グループの弁護士はかけ子全員を弁護しますが、利害が対立する複数のかけ子を一人の弁護士が弁護するのは、利益相反になり得ます。また、弁護士をつけてくれたという負い目を詐欺グループに負うことになるので、グループから抜けられなくなるおそれもあります。

 

 

詐欺グループの弁護士に依頼を続けるか否かはご家族とも相談して慎重に判断した方がよいでしょう。

振り込め詐欺と詐欺グループの弁護士