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冒頭陳述とは?検察官が示す刑事裁判の道しるべ
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
冒頭陳述とは
冒頭陳述とは、法廷で、主として検察官が証拠によって証明すべき事実を明らかにする手続です。「冒頭陳述要旨」というタイトルのペーパーを検察官が読み上げる形で実施されます。
刑事裁判は、①冒頭手続→②証拠調べ→③意見陳述→④判決という流れで進みます。冒頭陳述は、②の証拠調べの最初に行われます。
冒頭陳述の目的は、裁判所に、審理を進めていくにあたって必要な情報を提供することです。公平な裁判をするためには、裁判官が、先入観をもたずに白紙の状態で裁判に臨むことが必要です。そのため、裁判官は、証拠調べを実施するまでは、証拠を見ることはできません。
冒頭陳述の直前の時点で、裁判官が把握しているのは、起訴状とそれに対する被告人・弁護士の意見のみです。検察官の冒頭陳述によって、裁判官は、検察官がどのような事実を証明しようとしているのかがわかり、どのように審理を進めていけばよいのか判断できるようになります。
なお、弁護士は、裁判官とは異なり、初公判に入る前の時点で、検察官が請求する証拠を全て見ることができます。
そのため、冒頭陳述によってはじめて事件の全体像がわかるというわけではありません。ただ、冒頭陳述によって、検察官がどのように事実を見ているのかがわかりますので、それをふまえて、弁護戦略を立てることになります。
冒頭陳述の4つの内容
冒頭陳述は、次の4つのパートで構成されていることが多いです。
①被告人の身上経歴
②犯行に至る経緯
③犯行状況
④その他情状等
検察官のペーパーにも、これらの4つの項目が記載されていることが多いです。以下それぞれの内容を見ていきましょう。
冒頭陳述①-被告人の身上・経歴
被告人の最終学歴、職歴、結婚歴、犯行時の住所、前科・前歴について簡単に述べられます。
学歴と職歴については、「大学を卒業後、職を転々とし、犯行時は会社員として稼働していた。」等とシンプルに述べられます。「犯行時は○○株式会社に勤務していた。」と具体的な会社名を出されることは通常ありません。
結婚歴と住所についても、「婚姻歴はなく父母と同居」、「離婚歴があり、犯行時は実家で生活」等とシンプルに述べられます。家族の名前などの個人情報を出されることはありません。
前科・前歴についても簡単に言及されます。前科も前歴もない場合は、「被告人の前科・前歴は不見当である。」と述べられます。
冒頭陳述②-犯行に至る経緯
被告人がどのような経緯で犯行に及んだのかが述べられます。犯行の経緯は、犯罪の要件ではないため、起訴状には記載されていません。冒頭陳述で初めて明らかにされます。
客観的な事実だけではなく、犯行に及んだ動機など被告人の心情について述べられることもあります。
冒頭陳述③-犯行状況
起訴状には、被告人が「いつ」、「どこで」、「何をしたのか」、「それによってどのような被害が発生したのか」など犯罪を構成する最小限の事実しか書かれていません。冒頭陳述でこれを肉付けすることにより、被告人が具体的にどのようなことをしたのかを明らかにします。
犯行後に被告人が犯人として特定された経緯や逮捕された経緯について述べられることもあります。
冒頭陳述④-その他情状等
情状とは被告人の刑罰の程度を判断するにあたって参考となる事情です。犯罪行為にかかわる犯情とそれ以外の一般情状に分けられます。
被告人に有利な情状としては、罪を認め反省していること、示談が成立していること、家族のサポートが期待できること等があります。被告人に不利な情状としては、手口が悪質であること、重大な被害が発生していること、計画性があること、被害者が厳罰を求めていること等があります。
このように情状にはさまざまなものがありますが、審理にあたって裁判官に予断を抱かせないようにするため、冒頭陳述では、「その他情状等」と一言だけ述べて、内容までは明らかにしないことが多いです。
裁判員裁判では弁護士も冒頭陳述をする
通常の裁判では、冒頭陳述は検察官のみが行います。法律上は、弁護士も裁判所の許可を得て冒頭陳述をすることができるとされていますが、実際は、弁護士が冒頭陳述をすることはめったにありません。
この例外が裁判員裁判です。裁判員裁判では、弁護士も冒頭陳述を行います。弁護士の冒頭陳述は検察官の冒頭陳述のすぐ後に実施されます。
裁判が始まってから冒頭陳述が行われるまでは、検察官が起訴状を朗読し、被告人と弁護士がそれに対する意見を簡潔に述べるだけです。時間は数分程度です。実質的な審理は、冒頭陳述から始まると言ってもよいでしょう。
検察官は、通常裁判の冒頭陳述では、ペーパーを棒読みするだけですが、裁判員裁判では、図表やチャートを使ったカラフルなプレゼン資料を作成して、裁判員に交付します。陳述する際も、声の強弱や抑揚に注意を払って、裁判員をひきつけようとします。
弁護士としては、内容とプレゼンテーションの両面で、検察官に勝るとも劣らない冒頭陳述をすることが重要です。検察官に見劣りする冒頭陳述では、序盤から裁判員が検察寄りになってしまい、後に挽回することが難しくなります。
裁判員裁判を経験していない限り、弁護士は冒頭陳述をした経験もないと思われます。その意味でも、裁判員裁判の経験豊富な弁護士をつけた方がよいでしょう。
【関連ページ】
【公判全般】 |
【公判のステップ1】 冒頭手続 |
【公判のステップ2】 証拠調べ |
冒頭陳述とは?検察官が示す刑事裁判の道しるべ |
【公判のステップ3】 意見陳述 |
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