クレプトマニアの判例を弁護士が徹底分析!

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

クレプトマニアの責任能力を原因において自由な行為により認めた判例

1.判例の基本情報

裁判所

東京高等裁判所

判決日

平成30年11月2日

判決

控訴棄却(実刑)

 

2.原因において自由な行為とは

「原因において自由な行為」とは、もともと責任能力が完全に備わっている人が、正常な判断ができなくなったり、自分の行動をコントロールできなくなるとわかっていながら、あえてそのような状態に陥って犯罪行為をした場合は、行為をした時点で責任能力に問題があったとしても、心神喪失で無罪になったり心神耗弱で減刑されることはないという考え方です。

責任能力とは?無罪になる理由や精神鑑定の3つのタイプを解説

 

例えば、泥酔したらわけがわからなくなると分かっていながら、あえて大量の酒を飲んで泥酔し、わけがわからない状態で人を殺した場合を考えてみましょう。

 

原因において自由な行為の考え方によれば、飲酒をしようと思った時点で責任能力に問題がなければ、心神喪失で無罪になったり、心神耗弱で減刑されることはありません。

 

3.原因において自由な行為とクレプトマニア

判例は、原因において自由な行為の考え方を用いて、たとえ被告人がクレプトマニアであっても、責任能力は問題にならないとしました。

 

判例の理屈はこうです。

 

①クレプトマニアは万引きしたいという衝動をコントロールできない病気である。

 

②被告人は、もともと一人で買い物に行かない、口の開いたバッグを持って外出しないという約束を家族としていた。

 

③にもかかわらず、被告人は、家族との約束を破って、特に必要性もないのに一人で口の開いたバッグを持ってスーパーに買い物に行って万引きをした。

 

④被告人が仮にクレプトマニアで、スーパーの中では万引きをしたいという衝動をコントロールできなかったとしても、そもそもそのような状態に陥ったのは、被告人の自己責任であり責任能力は問題とはならない。

 

この判例は、万引きをする瞬間の被告人の心理状態ではなく、万引きをするまでの過程を問題としています。

 

万引きをするまでには、いくつかの判断の積み重ねがあり、それらの判断をした時点で責任能力に問題がなければ、万引きをした瞬間に責任能力に問題があったとしても、無罪になったり減刑されることないと判断したのです。

 

4.判例から導かれる教訓

このケースは、窃盗罪で執行猶予中の被告人が、家族の協力を得て複数の再犯防止策を講じていながら、被告人がそれらをことごとく破って万引きをしたという事案です。

 

クレプトマニアの方は、家族関係や仕事、プライベートに何らかの問題が生じたときに、一種の逃避行動として突発的に万引きをしてしまうことが多いです。

 

刑事裁判では、単にクレプトマニアの主張をするだけではなく、万引きに至るまでの被告人の心の動きをていねいに拾い上げることによって、全体として責任能力に問題があったことを主張する必要があるでしょう。

 

クレプトマニアであることを否定しつつ再度の執行猶予を認めた判例

1.判例の基本情報 

裁判所

東京地方裁判所

判決日

平成27年5月12日

判決

懲役1年・執行猶予4年+保護観察

(求刑…懲役1年2月)

 

2.事案の概要

①窃盗罪の執行猶予中にスーパーマーケットで食料品を万引きした

②スーパーに行った動機…料理の食材をそろえるため

③盗んだ物…チンジャオロースの素10箱+酢豚の素7箱+2キロを超える鶏肉+1キロ

を超える牛肉+お菓子

④犯行時間…約10分

⑤保釈後に医師の診察を受け、軽度の知的障害、摂食障害、クレプトマニアと診断された

 

3.診断基準Aにあたらずクレプトマニアは否定

さまざまな精神疾患の診断基準を定めたDSM-5によれば、クレプトマニアであると診断されるためには「自分で使うためではないし、お金のためでもないのに、物をとりたいという衝動に繰り返し抵抗できなくなる」という基準に該当する必要があります。

 

この基準を「診断基準A」といいます。欲しい物をとったのであれば病気ではないし、欲しくなくてもお金目的でとったのであれば病気とはいえないという考え方です。

クレプトマニアの診断基準

 

判例のケースは「料理の食材をそろえるためにスーパーに行って食材をとった」という事案であり、欲しいものをとったケースであることは間違いないと思われます。

 

そのため、裁判官は、診断基準Aに該当しないとしてクレプトマニアであることを認めませんでした。

 

4.被告人の不合理な行動が重視された

被告人は短時間に尋常ではない量の食料品を万引きしています。裁判官はこの点に注目しました。裁判官は、被害金額が大きく結果も重いと指摘しつつも、被告人の行動を合理性に疑問が残ると評価しています。

 

そして、責任能力に問題はないとしつつも、短時間にこれだけの量の食料品をとったということは、知的障害や摂食障害の影響により、責任能力がある程度弱まっていたと判断しました。

 

心神喪失や心神耗弱と判断されたわけではありませんが、責任能力に問題があったことが認められ、再度の執行猶予を獲得することができました。

 

5.判例から導かれる教訓

最初からクレプトマニア一点に絞って弁護方針を立てるのではなく、摂食障害など他の疾患の可能性もみすえた上で医師に診断してもらうことが必要でしょう。高齢者のケースであれば、認知症の可能性も否定できないと思われます。

 

また、今回のケースのように、犯行態様に常識的には説明できない点があれば、被告人の疾患や責任能力と絡めて主張することを積極的に検討すべきです。

 

クレプトマニアと診断した医師の意見に疑問を呈した判例

1.基本情報

裁判所

高松高等裁判所

判決日

平成29年7月27日

一審の判決

懲役1年2月の実刑

控訴審の判決

控訴棄却

 

2.事案の概要

被告人は3件の万引きで起訴されました。①事件と②事件は以前の刑期が終了した日から5年以内に発生しました。③事件は一審の裁判中に発生しました。

 

3.一審判決の内容

一審の裁判官は、①事件と②事件は、クレプトマニアによる犯行であり責任能力が減退していたと認めました。

 

これに対して、③事件は、もともと欲しかった薬をとっていることから、診断基準Aの要件を満たさず、クレプトマニアによるものではないと判断しました。

 

そして、同種の前科が2件あることや、短期間のうちに万引きを繰り返していることを重視し、相当期間の服役が必要であるとして、実刑判決を下しました。

 

4.控訴審は鑑定意見の信用性に疑問を呈した

一審は①事件と②事件について、医師の意見に基づいて、クレプトマニアによる犯行と認定しました。

 

これに対して、控訴審は医師の意見書に疑問があるとして、そもそも被告人がクレプトマニアにかかっているかどうかは疑問であるとしました。

 

被告人には万引き以外にも詐欺未遂や住居侵入窃盗の前科、自動車窃盗の前歴がありましたが、医師はこれらの事実を認識せずに意見書を作成していました。

 

そのため、控訴審は「前提事実に誤認がある」として、意見書の信用性に疑問を呈しました。

 

その上で、控訴審は、仮に被告人がクレプトマニアにかかっていたとしても、③事件はクレプトマニアの衝動によるものでないことが明らかであり、一審が③事件をクレプトマニアによる犯行ではないとして実刑にしたことは正当であると判断しました。

 

5.判例から導かれる教訓

医師の意見書に関して、裁判官から「前提に誤認があるので信用できない」等と言われないように、医師に意見書の作成を依頼する際は、弁護士が本人の前科・前歴についてもきちんと情報提供する必要があるでしょう。 

 

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