【逮捕】「弁護士が来るまで話さない」は正しいか?

弁護士が来るまで話さないは正しいか?

 

「弁護士が来るまで話しません」-逮捕された方が取調室でこう言っているのをドラマやニュースで耳にすることがあります。

 

 

「万一自分が逮捕されたらそのように言おう」と決めている人もいるかもしれません。

 

 

このページでは、逮捕されたときに「弁護士が来るまで話しません」と言うことが正しいのかについて、数多くの刑事事件を担当してきた弁護士 楠 洋一郎が解説しています。

 

 

 

 

【逮捕】「弁護士が来るまで話さない」と言うメリット

1.逮捕直後の取調べが落とし穴

逮捕されるとすぐに取調べが始まります。いきなり逮捕されて誰しも動揺しているでしょう。「いったい自分はどうなるのか?」と不安な気持でいっぱいのはずです。

 

 

そのような状況で、取調べにどう対応すればよいのかまで頭が回らないでしょう。

 

 

取調官は、逮捕された方の動揺や無知に乗じて、弁護士が来るまでの間に、警察のストーリーに沿った供述調書を一気に作成しようとします。

 

 

2.不利な調書をとられると挽回が難しい

供述調書にサインしてしまうと、その後に「やっぱり違います」と言って撤回したり修正することはできません。捜査側の重要な証拠になってしまいます。

 

 

日本の裁判では供述調書が重視されていますので、もし裁判になれば、裁判官も逮捕された方の供述調書を重視して、有罪判決を言い渡す可能性が高くなります。

 

 

刑事裁判で、「逮捕されてパニック状態だったので内容を理解しないままサインしてしまいました。」等と言っても通用しないでしょう。

 

 

3.不利な調書をとらせない

「弁護士が来るまで話せない」といって黙秘すれば、捜査側にとって都合のよい調書を作ることができなくなります。

 

 

そのため逮捕直後に「弁護士が来るまで話さない」と言うのは間違いではありません。

 

 

【逮捕】「弁護士が来るまで話さない」と言うデメリット

1.勾留の可能性が高まる

逮捕された人が「弁護士が来るまで話さない」というのは基本的には正しいです。「弁護士が来るまで話さない」と言うことによって、不利な供述調書の作成を阻止できるからです。

 

 

もっとも、「弁護士が来るまで話さない」という発言にもデメリットがあります。それは勾留されるリスクが高くなるということです。

 

 

2.勾留とは

勾留とは逮捕の次の段階の身柄拘束です。逮捕は最長3日間しかできませんが、裁判官により勾留が認められると、原則10日・最長20日にわたって身柄拘束されてしまいます。

 

 

2,3日の拘束であれば、家族から職場に「体調不良で休みます」等と言ってもらえれば、逮捕されたことを知られずに職場復帰できる可能性が高いですが、10日も拘束されてしまうと、職場に発覚し解雇される可能性が高くなります。

 

 

そのため、勾留を阻止できるかどうかは、今後の人生にも関わってくる大きな問題です。

 

 

3.なぜ勾留の可能性が高まるのか?

勾留の要件として証拠隠滅のおそれが挙げられます。「弁護士が来るまで話さない」という発言は、黙秘することを意味します。

 

 

黙秘した場合、「私がやりました」と正直に自白している場合に比べて、検察官や裁判官に「証拠隠滅のおそれが大きい」と判断される可能性が高くなります。

 

 

黙秘していると、「関係者に働きかけて自分に有利なことを言わせるのでは?」とか、「不利な証拠を破棄しようとするのでは?」と疑われやすいためです。

 

 

そのため、黙秘していると勾留される可能性が高くなります。

 

 

4.弁護士がいつ来るかわからない

弁護士がすぐに接見に来てくれた場合は、取調べの前に弁護士に確認してもらった上で、「私がやりました」と自白することもあり得るでしょう。

 

 

自白している場合の方が黙秘している場合に比べて、勾留される可能性が低くなります。もっとも、ここで問題になるのは「弁護士を呼んでもいつ来てくれるのかわからない」ということです。

 

 

国選弁護人を呼べるのは勾留された後です。

逮捕後すぐに弁護士を呼ぶには?呼び方やタイミングを解説

 

 

逮捕直後に誰もが「自分で」呼べる弁護士は当番弁護士だけです。

当番弁護士とは?逮捕後すぐに呼べる無料の弁護士を活用しよう!

 

 

もっとも、逮捕直後に当番弁護士を呼んでもすぐに来てくれるわけではありません。動きが早い弁護士であれば朝に呼べば当日の夜に来てくれるでしょうが、翌日になることも多々あります。

 

 

いずれにせよ、取調べは逮捕直後に実施されますが、その前に当番弁護士が駆けつけてくることは99%ありません。

 

 

逮捕された方の家族がインターネット等で弁護士を探して私選弁護人をつけてくれることもあります。もっとも、逮捕中は家族と面会することもできませんので、家族がどのような動きをしているかを知ることもできません。

 

 

5.弁護士が来なければ黙秘のままでいいのか?

勾留されるかどうかは、検察官の勾留請求と裁判官の勾留質問を経て決まります。勾留質問は早ければ逮捕の翌日に実施されます。

 

 

勾留質問までに弁護士が接見に来てくれなければ、「弁護士が来るまで話さない」と本人が言っている以上、裁判官も黙秘というステイタスを前提として判断せざるを得ず、勾留を認める可能性が高くなります。

 

 

そうすると、<弁護士が来る前に自白していれば勾留されなかったのに「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘したことによって勾留されてしまう>という事態になってしまいます。

 

 

これが「弁護士が来るまで話さない」と言うことのデメリットです。

 

 

【逮捕】「弁護士が来るまで話さない」と言った方がよい事件

次のケースでは「弁護士が来るまで話さない」と言った方がよいです。

 

1.やっていないのに逮捕されたケース(痴漢冤罪など)

自分がやっていないのに逮捕された場合、自白調書をとられてしまうと冤罪になってしまいます。そのため「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘すべきです。

 

 

「黙秘するのではなく自分の言い分を積極的に述べた方がよいのでは?」という疑問もあり得るでしょう。

 

 

ただ、弁護士のアドバイスを受けずにやみくもに否認してしまうと、後で辻褄があわなくなったり、取調官に乗せられて言わなくてもいいことまで言ってしまうリスクがあります。

 

 

そのため「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘に徹した方がよいです。

 

 

2.重大事件の場合

重大事件であれば、黙秘しても自白してもいずれにせよ勾留される可能性が極めて高いです。典型的な重大事件は裁判員裁判の対象になる事件です。

 

 

【主な裁判員裁判対象事件】

暴力犯罪

殺人罪、強盗致死傷罪、傷害致死罪

性犯罪

強姦致死傷罪、強制わいせつ致死傷罪

薬物犯罪

営利目的での覚せい剤の輸出入

交通犯罪

危険運転致死罪

その他

現住建造物放火罪、保護責任者遺棄致死罪

 

 

それ以外の事件であっても、強盗罪、恐喝罪、強制性交罪、強制わいせつ罪、組織的な詐欺・窃盗罪、覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反、ひき逃げも勾留される可能性が極めて高いです。

 

 

自白しても勾留される可能性が高い以上は、「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘した方がよいです。

 

 

「やったのであれば正直に話してもよいのでは?」という疑問があり得ますが、弁護士のアドバイスを受ける前に自白調書を作成すると、必要以上に悪く書かれてしまい、刑が重くなってしまうリスクがあります。

 

 

そのため「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘に徹した方がよいです。

 

 

【逮捕】「弁護士が来るまで話さない」と言わない方がよい事件

1.2つの要件

以下の2つの要件を両方とも満たす場合は、「弁護士が来るまで話さない」と言わずに、弁護士が来る前であっても、取調官に自白した方が勾留前に釈放される可能性が高くなります。

 

 

①逮捕容疑の犯罪を実際にしてしまった場合

②軽微な犯罪で逮捕された場合

 

 

軽微な犯罪とは罰金刑が定められている犯罪です。

 

【軽微な犯罪の例】

痴漢、盗撮、暴行、傷害(軽傷)、器物損壊、窃盗(万引き)、スピード違反、無免許運転

 

 

2.取調官の言いなりになってはダメ

自白するといっても取調官の言いなりになるわけではありません。

 

 

供述調書にサインする前に内容をよく確認し、認識と違うことが書かれていれば、削除や訂正を申し入れることができますので、修正してもらってからサインしましょう。

 

 

3.「弁護士が来るまで話さない」と言わない方がよい理由

自白調書が作成されると「自白」というステイタスになるため、検察官や裁判官に「証拠隠滅のおそれは小さい」と判断されやすくなります。

 

 

勾留の要件には「証拠隠滅のおそれ」以外に「逃亡のおそれ」もありますが、軽微な犯罪については、住居不定や執行猶予中でもない限り「逃亡のおそれは低い」と判断されるでしょう。

 

 

そのため、勾留を阻止できる可能性が高くなりますし、犯罪をしている以上は冤罪に陥ることもありません。

 

 

4.まとめ

実際に軽微な犯罪をしてしまって逮捕された場合は、「弁護士が来るまで話しません」というべきではなく、弁護士が来る前であっても正直に話した方がよいです。

 

 

 

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