勾留理由開示請求とは?家族は傍聴できる?3つのメリットを解説

勾留理由開示請求

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

勾留理由開示請求とは?

勾留理由開示請求とは、裁判官(裁判所)に対して、被疑者や被告人を勾留した理由を明らかにするよう求める手続です。通常は勾留を決定した裁判官が勾留理由を開示します。

 

 

勾留理由開示請求は刑事訴訟法で規定されています。

 

 

【刑事訴訟法】

第八十二条 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。

 

 

この条文は、起訴後における被告人の勾留理由開示請求について規定していますが、実際は起訴前における被疑者の勾留理由開示請求の方が圧倒的に多いです。

*被疑者が起訴されると被告人になります。

 

 

被疑者については、以下の規定によって、起訴後の勾留理由開示請求が準用されています。

 

 

【刑事訴訟法】

第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

 

 

勾留理由開示請求の5つのポイント

1.家族も請求できる

被疑者・被告人や弁護士だけでなく、被疑者・被告人の配偶者や両親、子供、兄弟姉妹も勾留理由の開示を請求することができます。

 

 

2.傍聴できる

勾留理由の開示は公開法廷で行われます。そのため、家族や友人が傍聴することができます。

 

 

3.意見陳述できる

本人や弁護士、検察官のほか、勾留理由開示請求をした家族らも意見を述べることができます。意見を述べることができるのは1名あたり10分以内と決められています。

 

 

4.スピード対応

裁判所は勾留理由開示の請求を受けた日から、原則として日以内に勾留した理由を明らかにしなければいけません。

 

 

5.チャンスは1回

勾留理由開示請求は勾留を開始した裁判所に対して1回だけ請求できます。請求するタイミングについては弁護士とよく相談してください。

 

勾留の理由とは何か?

開示の対象となる「勾留の理由」とは何でしょうか?

 

 

裁判官が被疑者や被告人を勾留するためには、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることが必要です。その上で次の3つの要件のいずれかに該当する場合に限って、勾留することができます。

 

 

【3つの要件】

1 住居不定

2 証拠隠滅をすると疑うに足りる相当の理由

3 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当の理由

 

 

そのため、開示される勾留の理由は、①勾留の基礎となった犯罪事実と、②上記3つの要件のいずれかに該当すること及びその理由になります。

 

勾留理由開示請求をする意味

裁判官が勾留を決定すれば「勾留状」という書面を作成します。勾留状には勾留の理由が書かれていますが、これを見ても最低限のことしかわかりません。

 

 

勾留状の用紙には、以下のような文章があらかじめ印字されています。

 

刑事訴訟法60条1項各号に定める事由

 

下記の   号にあたる。

 

1 被疑者(被告人)が定まった住居を有しない。

2 被疑者(被告人)が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある。

3 被疑者(被告人)が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある。

 

「下記の  号にあたる」の空欄部分に、スタンプで「2」とか「3」等と押されています。これを見ても、「なぜ証拠隠滅のおそれがあるといえるのか」、「なぜ逃亡するおそれがあるといえるのか」というところまではわかりません。

 

 

より詳しい勾留理由を把握したければ、勾留理由の開示を請求する必要があります。

 

勾留理由開示請求と裁判官の対応

勾留理由開示請求をすれば、裁判官が勾留の理由を説明します。もっとも、実際は、「え?たったそれだけ?」とびっくりする程、簡単な内容しか言われないことが多いです。

 

 

【よくある裁判官の説明】

「関係証拠によれば、逃亡のおそれが認められる。」

「捜査の進捗状況や被疑者の供述をふまえると、罪体及び重要な情状事実について証拠隠滅のおそれが認められる。」

 

 

そのため、「勾留理由を知る」という本来の目的で勾留理由開示請求がされることは少ないです。

 

 

勾留理由開示請求と求釈明

弁護士が勾留理由開示請求をしても、裁判官は漠然とした理由しか教えてくれません。そこで、弁護士が裁判官に対して「釈明を求める」という形で、より詳しい理由を引き出そうとします。

 

 

【求釈明の例】

裁判官:関係証拠によれば、逃亡のおそれが認められます。

 

弁護士:関係証拠の具体的な内容を教えてください。

 

裁判官:説明は控えます。

 

 

上の例のように、弁護士が求釈明をしてもまともに回答しない裁判官が多いです。裁判官の回答に不合理な点や反論できる点があれば、それをふまえて、準抗告の申立て勾留取消請求をすることになります。

 

 

勾留理由開示請求の3つのメリット

勾留理由開示請求をしても、裁判官が詳しい理由を教えてくれることはまずありません。もっとも、たとえ詳しい説明がなかったとしても、勾留理由開示請求には次の3つのメリットがあります。

 

1.違法な取調べを訴える

勾留理由開示手続での被告人の発言は調書に記録されます。この調書は、裁判官の面前での発言を記録したものであり、高い信用性が認められます。

 

 

弁護士が後の刑事裁判で、「違法な取調べがあった」と主張しても、検察官から「起訴前に被告人も弁護士もそんなこと言ってませんでしたよね。いまさらそんなことを言われても信用できない。」と反論されることがあります。

 

 

そのため、あらかじめ勾留理由開示の手続で、違法な取調べを受けていることを被告人に話してもらえば、その内容が証拠として保存され、検察官の反論を封じることができます。

 

 

2.家族や友人が被疑者に会える

勾留理由の開示は、起訴前に公開法廷で行われる唯一の手続です。接見禁止がついていれば、家族や友人など弁護士以外の方が、被疑者と接見することはできません。

 

 

そのようなケースでも、勾留理由の開示手続を利用すれば、法廷で被疑者と会うことができます。

 

 

勾留理由の開示は公開法廷で行われますので、家族や友人は傍聴席に座って本人の姿を見ることができます。家族は自ら勾留理由の開示を請求すれば、傍聴席ではなく、証言台で自分の意見を裁判官に述べることもできます。

 

 

家族が被疑者の目の前で、「家族思いの夫が逃亡するはずはありません。」等と発言することによって、被疑者を応援することができます。

 

 

3.メディア戦略として活用できる

勾留理由の開示は、起訴前に公開法廷で行われる唯一の手続です。被疑者や弁護士は、開示手続の際、法廷で意見を述べることができます。

 

 

そのため、広くマスコミに報道されている事件では、法廷で被疑者や弁護士が、傍聴しているマスコミ関係者の前で意見陳述することにより、被疑者側の考えを広く世間にアピールすることができます。

 

 

起訴されて裁判が始まれば、公開法廷で審理されるため、被告人側の意見もマスコミによって報道されますが、起訴前は、検察側のリークによって検察庁にとって都合のいい情報しか報道されない傾向があります。

 

 

勾留理由開示手続は、起訴「前」に、被疑者側がイニシアティブをとって、情報発信する貴重な機会といえるでしょう。

 

 

実例として、元日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏のケースが挙げられます。ゴーン氏も勾留理由開示の手続を利用して、法廷で自分の意見を述べ、それがマスコミに大きく報道されました。

 

 

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