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児童買春と示談-不起訴になるポイントを弁護士が解説!
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
児童買春における示談と不起訴の関係は?
1.示談をしても不起訴に直結するわけではない
児童買春事件では、被害児童と示談をしても、不起訴になる可能性が非常に高くなるとまでは言えません。
これに対して、痴漢や不同意わいせつ等の性犯罪では、被害者と示談をすれば、不起訴になる可能性が非常に高くなります。
どうしてこのような違いがでてくるのでしょうか?
2.性犯罪の保護法益
刑罰を科すことによって守ろうとしている利益を「保護法益」といいます。痴漢や不同意わいせつといった性犯罪の保護法益は、被害者の性的な自由です。
被害者の性的な自由を保護することによって社会秩序が維持されるという側面はありますが、それはあくまでも副次的な効果であって、一次的な保護法益は被害者個人の性的自由です。
そのため、痴漢や不同意わいせつ事件では、被害者本人と示談をして示談金を支払えば、侵害された保護法益がある程度回復されたといえることから、不起訴の可能性が高まります。
3.児童ポルノ法の保護法益
児童買春を禁止している児童ポルノ法の保護法益は、児童「一般」の健全な育成であって、「特定」の児童を保護するものではないという考えが一般的です。
この考えによれば、「特定の」被害児童と示談をしても、児童「一般」の健全な育成とは無関係なため、保護法益が回復されたとはいえないことになります。
しかし、お金を払って特定の児童と性行為をすれば、性を売り物にするという誤った価値観をその児童に与え、児童の健全な成長を阻害します。
そのため、児童ポルノ法も、他の性犯罪と並んで、児童個人を保護することを第一次的な目的としていると考えることができます。
このような考えによれば、示談をすれば、侵害された児童個人の法益がある程度回復されたといえるため、不起訴の可能性が高くなります。
児童買春で示談して不起訴になるためのポイント
痴漢や盗撮であれば、示談書を検察官に提出するだけで、初犯の方であれば、ほぼ確実に不起訴になります。これに対して、児童買春のケースでは、示談の成立が不起訴に直結するわけではありません。示談が成立したからといって安心は禁物です。
弁護士としては検察官に示談書を提出するだけでなく、児童ポルノ法の保護法益が児童個人の健全育成にあること、したがって処分にあたって示談を最も重視すべきことを意見書に書いて提出する必要があります。
児童買春の示談交渉の流れは?
児童買春で示談交渉をする場合の流れは次の通りです。
①弁護士が担当の警察官に示談の申し入れをします。送検された後に弁護を受任した場合は、担当の検察官に示談の申し入れをします。
↓
②警察官または検察官が被害児童の保護者に電話し、「弁護士から示談の申し入れがきていますが、話を聞きますか?話を聞いてもいいということであれば電話番号を弁護士に教えます。」等と言って、保護者の意向を確認します。
↓
③被害児童の保護者が話を聞いてもよいということであれば、担当者から弁護士限りで電話番号を教えてくれます。
↓
④弁護士が被害児童の保護者と示談交渉を行います。被害児童は未成年ですので、交渉相手は児童の保護者となります。
児童買春で示談交渉ができるのは弁護士だけ
児童側のプライバシーを保護するため、警察官も検察官も、被疑者やその家族には、被害児童・保護者の氏名や電話番号を教えてくれません。
そのため、示談交渉をするためには弁護士に依頼する必要があります。
児童買春事件では、被疑者と被害児童がLINEやX(旧Twitter)などでつながっていることが多いですが、たとえ被害児童の連絡先を知っていたとしても、被疑者の方から連絡を入れることは禁物です。
弁護士を介さずに被害児童に直接連絡を入れると、捜査機関から「口裏合わせをしようとしている」と思われ、逮捕される可能性が上がります。示談をする場合は弁護士を通じて相手方と交渉しましょう。
児童買春の示談金の相場は?
児童買春の示談金の相場は30万円~50万円です。
「うちの子にも非があるのでお金は結構です。」という保護者もまれにいらっしゃいます。逆に、「判断能力の不十分な未成年に対してそのようなことをするのは許せない。」として50万円でも納得していただけないこともあります。
ただ、犯罪の性質上、痴漢や盗撮などとは異なり、児童側にも全く非がないとは言えないことから、30万円から50万円の範囲で示談がまとまることが多いです。
児童買春の示談書の書式は?
児童買春の示談書の書式は以下の通りです。
示 談 書
〇〇〇〇(以下「甲」という)と〇〇〇〇(以下「乙」という)との間において、以下の①及び②の各事件(以下、両者をあわせて「本件」という)について、下記の通り示談が成立したので、示談成立の証として本書面2通を作成し、甲乙各1通ずつ保管する。 事件 ①令和〇年〇月〇日、東京都新宿区〇〇のホテル〇〇客室内において、乙が、甲が18歳に満たない児童であることを知りながら、甲に〇円の対賞を供与して、同人と性行為をした事件 ②上記①の事件以外に乙が複数回にわたって対賞を供与して甲と性行為をした事件 記 1 乙は、甲に対し、本件について深く謝罪し、甲はこれを受け入れる。 2 乙は、甲に対し、本件の示談金として、金○万円の支払義務があることを認める。 3 乙は、甲に対し、前項の金員を本日支払い、甲はこれを受領した。 4 乙は、甲に対し、今後、故意に甲に接触・連絡しないことを固く誓約する。 5 乙が前項に違反した場合、乙は、甲に対し、違約金として、違反行為1回につき金100万円を支払う。 6 甲は、本件について、乙を許すこととし、乙の刑事処罰を求めない。 7 甲と乙は、本示談書記載のほか、甲乙間に何らの債権債務が存しないことを相互に確認する。 以 上 令和 年 月 日 (甲法定代理人) 東京都~ 親権者父…〇〇 〇〇 印 親権者母…〇〇 〇〇 印
(乙代理人) 東京都~ 〇〇法律事務所 弁護士 〇〇 〇〇 印 |
余罪について(柱書)
児童買春事件では、同じ児童と何度も性行為をしていることがあります。その場合でも、刑事事件として立件されるのは1回の性行為だけのことが多いですが、余罪も情状として処分に影響するため、示談の対象に含めます。
連絡・接触の禁止(4項)
被害児童の保護者は、被疑者に対して、自分の子供に二度と近づいてほしくないと思っているため、接触や連絡を禁止する条項は必須でしょう。より安心してもらうために、上で紹介した示談書のように、違約金条項を入れることもあります。
ただ、被害児童の方からコンタクトをとってきた場合は免責されるよう「故意に」という文言を入れておきます。
宥恕文言(6項)
「許す」、「刑事処罰を求めない」という宥恕(ゆうじょ)文言があれば、不起訴になる可能性が高まりますので、是非とも入れておきたいところです。「許す」という言葉がなくても、「刑事処罰を求めない」という言葉があれば、効力はほとんど変わりません。
ただ、どちらの言葉もなければ、示談をしても刑事上の効果はほとんどありません。そのため、宥恕文言を示談書に入れてもらえるよう弁護士が交渉します。
なお、痴漢や盗撮などの性犯罪であれば、「被害届を取り下げる」という文言を入れることもありますが、児童買春では被害届は作成されませんので、取下げの文言は入れません。
精算条項(7項)
この条項があることにより紛争が蒸し返されるリスクをゼロにすることができます。
署名・捺印について(末尾)
民法上、未成年者は単独で有効な法律行為をする能力がないため、示談書に署名・捺印するのは法定代理人である親権者になります。
民法上、親権は夫婦共同で行使するのが原則ですので、お父様とお母様の両方に署名・捺印してもらいます。離婚されている場合は、親権者であるお父様かお母様のみの署名・捺印で問題ありません。
【例外】
事件について父親には秘密にしている場合、離婚を前提として別居している場合など両親の署名・捺印が難しい場合はどうするのか? →両親の署名・捺印がなければ民法上は取消し可能ですが、刑事の手続では民法上の有効性までは問われないこと、実際に取り消される可能性は低いことから、単独で署名・捺印してもらうことが多いです。 |
個人情報に対する配慮
被害児童の保護者は、氏名や住所などの個人情報を被疑者に知られたくないと思っています。そのため、上で紹介した示談書のグレーの網掛け部分は、マスキングして被疑者にお渡しし、示談書の原本は弁護士が保管するのが一般的です。
児童買春の示談-嘆願書とは?
児童買春の示談書にはご両親に署名・捺印してもらいますが、示談の当事者は、被疑者と被害児童であって保護者ではありません。保護者は被害児童の法定代理人として署名・捺印しているだけです。
ウェルネスでは、「ご両親も被疑者を許している」ということを明確にするため、示談書に加え、嘆願書を作成しその中でご両親に許すという意思を表明してもらっています。
嘆願書の例は次の通りです。
嘆 願 書
〇〇地方検察庁 御中
令和〇年〇月〇日、東京都新宿区〇〇のホテル〇〇客室内において〇〇〇〇(以下「被疑者」といいます)氏が、私達の娘である〇〇〇〇(以下「娘」といいます)が18歳に 満たない児童であることを知りながら、対賞を供与して、同人と性行為に及んだ事件(以下「本件」といいます)に関し、被疑者から弁護人を通じて申し入れを受け、このたび円満に示談が成立いたしました。 私達は、被疑者の弁護人を通じて、被疑者が作成した謝罪文を受け取り、その謝意を確認しましたし、被疑者の真摯な反省状況を確認したうえで、本件により娘が受けた精神的苦痛に対する慰謝料として金〇万円を受け取ることを合意しました。被疑者と示談をすること及びその内容については、私達も娘も同意しております。 被疑者の更生を望み、私達も娘も本件に関し被疑者を許し、被疑者の刑事処罰を求めません。 以 上 令和 年 月 日 東京都~ 親権者父…〇〇 〇〇 印 親権者母…〇〇 〇〇 印 |
既に起訴されている場合は、嘆願書のあて先は、「〇〇地方裁判所」となります。
被害児童側のプライバシーに配慮するため、示談書と同様に、グレーの網掛け部分をマスキングした上で被疑者にお渡しし、嘆願書の原本は弁護士が保管するのが一般的です。
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