勾留理由開示請求とは?家族もできる釈放への足がかり
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
勾留理由開示請求とは?
勾留理由開示請求とは、本人やその家族、弁護士らが、裁判所(裁判官)に対して、本人を勾留した理由を明らかにするよう求める制度です。
勾留の理由とは何か?
被疑者や被告人を勾留するか、勾留せずに釈放するかを決めるのは裁判所(裁判官)です。裁判所(裁判官)が被疑者や被告人を勾留するためには、前提として、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることが必要です。
この要件を満たした上で、さらに次の3つの理由のいずれかに該当する場合に、勾留することができます。
1 住居不定
2 証拠隠滅のおそれ
3 逃亡のおそれ
勾留理由の開示を請求する意味
勾留理由開示請求をすると、裁判官は勾留の理由があることを具体的に説明します。裁判官が勾留を決定すれば、勾留状という書面を作成します。勾留状にも、どのような理由で勾留したかが書かれていますが、これを見ても最低限のことしかわかりません。
勾留状の用紙には、以下のような文章があらかじめ印字されています。
【刑事訴訟法60条1項各号に定める事由】
下記の 号にあたる。
1 被疑者(被告人)が定まった住居を有しない。
2 被疑者(被告人)が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある。
3 被疑者(被告人)が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある。
「下記の 号にあたる」の空欄部分に、スタンプで「2」とか「3」等と押されています。これを見ても、「なぜ証拠隠滅のおそれがあるといえるのか」、「なぜ逃亡するおそれがあるといえるのか」というところまではわかりません。
勾留理由開示請求をすれば、裁判官は、なぜ逃亡や罪証隠滅のおそれがあると判断したのかを明らかにします。他に裁判官へ確認したいことがあれば、あらかじめ質問項目をまとめた「求釈明書」を提出し、回答を求めます。
裁判官の回答に不合理な点や克服できる点があれば、準抗告の申立てや勾留取消請求をすることにより早期の釈放を目指します。
勾留理由開示請求の5つのポイント
①家族も請求できる
本人や弁護士以外に本人の配偶者や兄弟姉妹、両親やお子さんも、本人とは独立して勾留理由の開示を請求することができます。
②公開法廷で理由を開示
勾留理由の開示は公開法廷で行われます。起訴されれば、刑事裁判は公開法廷で実施されますが、起訴「前」の時点で公開されるのは勾留理由開示の手続のみです。
③法廷で意見を陳述できる
本人や弁護士、検察官のほか、勾留理由開示請求をした家族らも意見を述べることができます。意見を述べることができるのは1名あたり10分以内と決められています。
④5日以内のスピード対応
裁判所は勾留理由開示の請求を受けた日から、原則として5日以内に勾留した理由を明らかにしなければいけません。
⑤チャンスは1回
勾留理由開示請求は勾留を開始した裁判所に対して1回だけ請求できます。請求するタイミングについては弁護士とよく相談してください。
勾留理由開示請求の3つの効果
勾留理由開示請求は、どのような理由で勾留したのかを裁判官に明らかにさせ、それを踏まえて、今後の身柄解放につなげるものです。
もっとも、実際は、「関係証拠によれば逃亡のおそれが認められる。」といった抽象的な説明しかしない裁判官が多いです。そのため、勾留理由開示請求はほとんど利用されていません。しかし、たとえ勾留理由について裁判官の具体的な説明がなかったとしても、次のような効果がみこめます。
①違法な取調べを訴える
勾留理由開示手続きでの被告人の発言は調書に記録されます。この調書は、裁判官の面前での供述を記録したものであり、高度の信用性が認められます。
弁護士が、起訴後の刑事裁判で、違法な取調べがあったことを主張すると、検察官から「起訴前に被告人も弁護士もそんなこと言ってませんでしたよね。いまさらそんなことを言われても信用できない。」とつっこまれることがあります。
そのため、あらかじめ勾留理由開示の手続きで、違法な取調べを受けていることを被告人に話してもらえば、その内容が証拠として保存され、検察官のつっこみを封じることができます。
②家族や友人が本人に会える
勾留理由の開示は、起訴前に公開法廷で行われる唯一の手続きです。接見禁止がついていれば、家族や友人など弁護士以外の方は、本人と接見することはできません。そのような場合であっても、勾留理由の開示手続を利用すれば、法廷で本人と会うことができます。
家族や友人は傍聴席に座ることになりますが、家族については自ら勾留理由の開示を請求すれば、傍聴席ではなく、法廷で自分の意見を裁判官に述べることもできます。
家族が被告人の目の前で、「家族思いの夫が逃亡するはずはありません。」等と発言することによって、本人を応援することができます。
③メディア戦略として活用できる
勾留理由の開示は、起訴前に公開法廷で行われる唯一の手続です。本人や弁護士は、開示手続の際、法廷で意見を述べることができます。
そのため、広くマスコミに報道されている事件では、勾留理由開示の際、本人や弁護士が、傍聴している報道関係者の前で意見を陳述することにより、被疑者側の考えを広く世間にアピールすることができます。
起訴されて裁判が始まれば、公開法廷で審理されるため、被告人側の意見もマスコミによって報道されますが、起訴前は、検察側のリークによって検察庁にとって都合のいい情報しか報道されない傾向があります。
勾留理由開示手続は、起訴「前」に、被疑者側がイニシアティブをとって、情報発信する貴重な機会といえるでしょう。実例として、元日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏のケースが挙げられます。ゴーン氏も勾留理由開示の手続を利用して、法廷で自分の意見を述べ、それがマスコミに大きく報道されました。
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