オレオレ詐欺と弁護士の証拠意見

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

オレオレ詐欺にせよ、他の刑事事件にせよ、起訴されれば、弁護士は、検察側の証拠書類について、同意するか不同意にするかを決めなくてはいけません(証拠意見)。

 

 

オレオレ詐欺でよく問題となる証拠書類について、どのような証拠意見を出すべきか見ていきましょう。

 

 

被害者の供述調書に対する証拠意見

オレオレ詐欺の裁判では、検察官は必ず被害者の供述調書を証拠調べ請求します。ただ、被害者の供述調書に被告人が言っていないことまで書かれていることがよくあります。

 

 

【被告人の認識と異なる被害者の供述調書】

 

被害者の供述

被告人の認識

犯人は私に対して「キノシタです」と言ってきたので、私は犯人が息子の代理のキノシタだと思いました。

言っていない。

犯人は黒縁の眼鏡をかけていました。

眼鏡はかけていない。

犯人は私に対して、「キャッシュカードを受けとりに来ました」と言っていました。

言っていない。

 

 

このようなケースでは、被害者の供述が本人の認識と異なっている以上、原則論としては、認識と異なっている部分を不同意にすることになります。

 

 

弁護士が不同意にすれば、検察官はその部分にマジックを塗ってマスキングした上で裁判所に提出しなければいけません(伝聞法則)。そのため、裁判官の目には触れず、事実認定の基礎になることはありません。

 

 

 

もっとも、オレオレ詐欺を認めている限り、被害者に対して、「キノシタです」と言ったかどうかで、刑罰の重さが変わってくるとは考え難いです。

 

 

同様に、オレオレ詐欺を認めている限り、黒縁の眼鏡をかけていたかどうか、「キャッシュカードを受けとりに来ました」と言ったかどうかによって、刑罰の重さが変わってくるとも考え難いです。

 

 

逆に、一部不同意にすることによって、保釈請求をしたときに、検察官から「被害者の供述調書の一部を不同意にしており証拠隠滅の可能性が高い。」等と言われ、保釈が認めづらくなるというデメリットがあります。

 

 

そのため、被害者供述の細かい部分について、認識と違っているからといってあえて不同意にするメリットはないということになります。

 

 

ただし、詐欺の故意を否認している場合は、①や③の発言は、本人に故意があったことを推認させる発言になるので、不同意にする必要があります。また、犯人性を争っている場合は、②の発言は不同意にすべきです。

 

共犯者の供述調書に対する証拠意見

オレオレ詐欺の受け子については、犯行現場で単独で現行犯逮捕されることが多く、共犯者が逮捕されることは少ないです。

 

 

一方、オレオレ詐欺のかけ子については、警察がアジトを急襲して、そこにいるかけ子全員を逮捕することが多いです。この場合、検察官は裁判で共犯者の供述調書を証拠調べ請求します。

 

 

共犯事件では、共犯者間で責任転嫁がなされることが多く、共犯者の供述調書の中で、被告人の認識と異なることが記載されているケースがよくあります。

 

 

【被告人の認識と異なる供述調書】

 

共犯者の供述

被告人の認識

被告人がだまし方を私に教えてくれました。私は被告人に指示された通りに被害者をだましました。

私がだまし方を共犯者に教えたわけではない。だまし方はメンバー全員で考えた。

私は被告人に指示されて、受け子に被害者の氏名と住所を教えました。

そのような指示はしていない。共犯者が自分で判断して受け子に被害者の氏名と住所を教えた。

 

このようなケースでは、共犯者の供述調書に同意すると、裁判官によって、詐欺グループの上位者と認定され刑罰が重くなります。そのため不同意にすべきです。

 

 

共犯者が証人として出てきて、不同意にした内容を法廷で証言することも考えられますが、その場合は、弁護士が反対尋問を行うことによって、共犯者の証言を弾劾することができます。

 

 

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